ひとひらの花びらが

山口 実徳

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第22話・買い切り⑤

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 住職様の昼餉に付き添ってから、粉も出なくなるまで犯された。一生分の欲望を身体に浴びせて中に注いで、住職様は膝の笑いが治まらず、腰が上がらなくなってしまった。
「しばらく溜めねばならんのう。あやめ、当分つき合えそうにない、勘弁してくれ」
「たくさん頂戴いたしまして、ありがとうございました。芯から住職様に染まってしまいました」
 力なく笑う住職様に礼を告げ、年長の咥えた小僧に付き添われ、湯島の茶屋へと帰っていった。

 たくさんされてしまったから後ろが痛いし、ぽっかりと開いて締まらない。胃の中は空っぽだから今はいいとして、夕餉を摂ってしまっては布団や板間を汚してしまう。今日の夕餉は抜きにして、明日は休みをもらおうか、寝る前に仕込む棒薬ぼうぐすりは広げるためではなく栓だな、と二両の重さに溜息をついた。
 ふいに漏れてしまわぬよう、しゃなりしゃなりと脚を締めて、寛永寺そばを過ぎていく。

 何とみっともないのだろうか。今も寛永寺を守護する彼にこんな姿は見せられないと、逃げるように不忍池へと降りていく。
 すると、慌てて後を追った小僧が、思わぬことを口にした。
「あやめ様も、彰義隊が怖いのですか?」
 心の臓を鷲掴みにされたように、狂おしいほど息が詰まった。代々の公方様の霊廟を守護する彰義隊が、この今だって彼がいる彰義隊が、怖い?

「それは、どういうことでしょう」
 感情を抑えて尋ねたつもりが、内を焦がすほどの業火が漏れて、小僧は恐れおののき震え上がった。
「申し訳ございません、あやめ様が彰義隊を支えておられるとは知らず……」
「支えるなど、籠の鳥には叶いません。世の人々は彰義隊を、何と仰せなのでしょう」

 そう尋ねると、震えた声が収まった。寛永寺そばだというのに、小僧ははっきりとした声で答えた。
「錦の御旗を掲げておられる薩長を、目にするだけで斬り捨てようと闊歩しております。公方様が任を解かれて水戸に下られた今となっては、手綱を解き放たれた狂犬です」
 真っ直ぐな言葉に衝撃を受け、小僧の姿が歪んでいった。揺れる像から景色から、金剛が雁鍋屋前でした忠告が痛いくらいに頭に響く。

『ここは、不貞な輩が出入りする店と噂されております。一刻過ぎても明るいうちです、万一のことがあれば躊躇わずお逃げなさい』
 あれは薩長ではなく、彰義隊を指していたのだ。それが証拠に、座敷の彼はこう言っていた。
『この雁鍋屋は、我ら彰義隊の馴染みの店だ。顔が利くのを上手く使わせてもらったのさ』

 寛永寺の霊廟を守り、江戸の治安維持に努めて、暴漢に襲われた私を守ってくれた。それが今、江戸を脅かそうとしているというのか。
 そこへ小僧が、追い討ちをかける。
「寛永寺に集った彰義隊士は、薩長をはじめとする東征軍と一戦交えようとしています。彰義隊とは、関わりを持たれないほうが宜しいかと存じます」
「三千もいるのです、そのような者ばかりではないでしょう」
 返した刀はなまくらで、小僧にはちっとも効かず撫でるばかり。彼がそんなことをするはずがない、そうではないと信じているのが精一杯だ。

 上野の森に視線を投げると、夕陽を浴びて黄金色に輝きはじめた。がれどき、池の端を行く人も、すぐそばの小僧でさえも顔が光に消えてしまった。

 ただ、何をしているのかは、わかる。小僧は脚の付け根を両手で押さえ、目の前の弁天様におずおずと願いを申し出てきた。
「上野はおろか、谷中にまで飛び火するやも知れません。しかし今のままではあやめ様が忘れられず、修行に身が入らず成仏など叶いません。死ぬ前に今一度だけ、してくださいませんでしょうか」
「いけません。座敷で一刻一分金、一日一両、買い切り二両、料理屋か茶屋を通してお呼びください」

 顔の見えぬ必死に袖すると、抑圧された欲望が火を吹いた。淫獣と化した小僧に腕を掴まれ、崖下の茂みへと引き込まれる。烈火の如く燃え盛る黒い顔は、唇を奪って救いを封じた。
「淫蕩な真似をして、あなたは寺を潰す気ですか。しかし沙弥しゃみである私から動けないのは、よくご存知でしょう。弁天様の落とし前、拝見させていただきます」

 この小僧、このまま何もしなければ茶屋ですべてを曝すつもりだ。そうなれば自分自身が、どうなるかさえわからない。軽率な行動を悔やみつつ、小僧の腰に手を回し裙子を解いた。
「わかりました、そのままでいてください」
 仁王立ちする小僧の前を露わにし、いきり立った怒りに舌を絡ませる。しかしそれでは不服なのか、見下ろす小僧は小さくも轟く声で胸を突く。

「住職様と同じには、なりませんか」
「後ろが痛いのです、薬も切らしてしまいました」
 懇願すると、小僧は聞えよがしに溜息をついた。そこまでしなければ、罪は償えないらしい。
 袴を下ろして後ろを捲り、小僧に背を向け怒りに手を添え、疲弊しきった中へと導いていく。
「おおお、天女の羽衣に締められているようだ」

 感嘆する小僧は一切動いてはならない、腰を振るのは私の役目だ。もう薄くなった通和散と、住職様が残したもので、かろうじて滑る程度である。
 恥を忍んで救いを求め崖の上を仰ぎ見たが、あの夜のように棒切れの一本も降ってくることはない。自ら挿し込む苦痛に喘ぎ、凌辱される愉楽を探り、道具となった自身を蔑み、涙をはらりと伝わせた。
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