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第21話・買い切り④
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笑う膝を堪えながら沸かしてくれた湯に浸かり、どうしてあんなに乱れたのかと、思考に身を沈めていった。
喉から手が出るほど欲しかったのは、大きさではなく若さだった。一滴までも飲み干したいと選んだのは、同じ歳頃の小僧だった。逆さまの景色に映していたのは、小僧ではなく若侍の面影だった。
寛永寺のすぐ裏で住職様に犯されながら、むせ返るほどの小僧の臭いにまみれている中、彼に思いを馳せていた。
穢したくない彼に、私は汚されたいのだろうか。
しかし家名を背負った彼を思えば、嫁を迎えて子を成するほうが、真の幸せではないだろうか。
陰間などには触れもせず、天寿を全うするほうが幸せなのではないだろうか。
巡らせた考えにのぼせた頭を冷ましたのは、戸を開け湯気を吐き出させた、生まれたままの姿をした住職様だった。
「あやめ、背中を流してやろう」
「あ……恐れ入ります。では、お言葉に甘えて」
湯桶から上がり、洗い場に置いた小袋を住職様に手渡した。
「柘榴の皮を日干しにし、粉にしたものです。肌が白くなるので、使うよう言いつけられております」
弛まぬ努力をしておるのだな、と思うと同時に、湯を使うつもりだったか、と住職様は察した。考えようによっては図々しいが、こうして迎えてくれたのだから、一緒に入るつもりだったと思い至って、下がみるみる膨れていった。
「よかろう、そこに腰を下ろなさい」
腰を突かれながら、背中を流して頂いた。その手は肩から腰から前へと及び、そのうち突いたものが上向きにぴたりと密着していった。
前の下へと触れたとき、身体が跳ねて住職様の手を拒絶した。突然のことに住職様は這わせていた手を離し、立ち上がったものをほんの少し萎ませた。
「申し訳ございません。前が固くなると、後ろまで固くなってしまいます」
「そうか、それはすまなかった。しかし、尋常ではなかったな。何かあったのかい?」
「……女を客に取りました」
言うのを憚る様子から、そのあとひどく叱られたのだと、住職様は勘づいた。それもきっと、ひとり遊びをしたのだろう、と。
漂う湯気が重苦しくなったので、返礼として住職様の背中を流す。骨っぽくも頼り甲斐のありそうなその様に、内から突いた言葉をぽつりと吐露した。
「住職様は、陰間にご満足頂いておられますか」
住職様は聞いた言葉を噛み締めて、その内に込められた真意を読み取った。
「わしら僧侶は女犯を犯してしまわぬために、陰間の世話になっておる。だがな──」
首を回して、視線を後ろへと向けた。その眼差しに、思わず手が止まってしまう。
「女の代わりとは思っておらん。男にも女にもない魅力が、陰間にはある。わしは、あやめにしかない魅力に惚れ込んでおる。そうでなければ、買い切りなど出来んわい」
気障で不格好で照れ臭そうに吐露された本音は、迷いの中にぼんやり浮かぶ道標となっていた。行く末は滲んではっきり見えないが、間違いなく行き先を指し示していた。
「住職様、ありがとうございます。気持ちが晴れて参りました」
肩に手を載せ、身体をぴたりと密着させて、下の感触を住職様の腰に伝えた。陰間の私に出来るお礼は、こんなことしかないのだと、身体で背中を洗い流した。住職様の具合がよくなってきて、するすると滑らせた手を前へ下へと回していった。
「まぁ、もう、こんなに」
「言ったであろう? 男でも女でもなく、あやめがいいのだよ」
前へと回り、触れたものを目に映す。大きくなったそれを愛おしく撫で回し、湯で流して重たい稚児髷を下ろしていった。
「あやめは、上の口が好きだのう」
「食べたいくらいに、愛おしいのでございます」
「上もいいが、下で果てるのが本懐だ。具合は如何かな?」
膨れた先に口づけをして、浮かせた後ろを確かめる。本懐であるところの通和散は、浸かった湯に溶けてしまった。
お待ちになって、と風呂場を出て脱いだ着物の袂を探る。すると、もう我慢ならんと住職様が、後ろから抱きしめ突いてきた。
「いけません、住職様」
「その尻が、堪らんのだ」
手に手を重ね、高鳴る胸板を愛撫させる。その隙に通和散を口に含んで、はち切れそうな期待に塗りつける。住職様は、ねっとりとして生温かい自分のものに、滲み出す粘液を加えていった。
「ここにいては、湯冷めしてしまいます」
「それはいかん、芯から温めてやろう」
洗い場に戻り手をついて、住職様を受け入れる。
二回目なのに、さっき果てたはずなのに、そうだ住職様は一刻で三回もしたんだった、どれだけの時が過ぎたのか、わからないけどあと何回、住職様はこの身体を貪るのだろう。
湯気が纏わりついているのと、固くて熱くてものにえぐられて、夢の中を漂っているかのように、頭がぼうっとしてしまう。微かに残った意識が映した景色は、湯気の濃淡が描いて消した幻だった。
待たせすぎてしまったのか、住職様はあっという間に果ててしまった。深くで放った粘液が奥へ奥へと注がれて、焦がれるほどに熱くする。
ずるりと抜かれた住職様の先からは、白く濁った通和散がとろりと垂れて、糸を引く。そしてそれはべったりと洗い場の床でうなだれた。
肩で息をし、ぽっかり空いたところから住職様が垂らしたものと、同じものをとろりと垂らす。熱に浮かされ、すっかりのぼせてしまっている。
芯から熱くなったのは何故だろうかと希薄な意識で探るうち、湯気に浮かんだ幻をまた目にしたい、また逢いたいと求める自分に気づかされた。
喉から手が出るほど欲しかったのは、大きさではなく若さだった。一滴までも飲み干したいと選んだのは、同じ歳頃の小僧だった。逆さまの景色に映していたのは、小僧ではなく若侍の面影だった。
寛永寺のすぐ裏で住職様に犯されながら、むせ返るほどの小僧の臭いにまみれている中、彼に思いを馳せていた。
穢したくない彼に、私は汚されたいのだろうか。
しかし家名を背負った彼を思えば、嫁を迎えて子を成するほうが、真の幸せではないだろうか。
陰間などには触れもせず、天寿を全うするほうが幸せなのではないだろうか。
巡らせた考えにのぼせた頭を冷ましたのは、戸を開け湯気を吐き出させた、生まれたままの姿をした住職様だった。
「あやめ、背中を流してやろう」
「あ……恐れ入ります。では、お言葉に甘えて」
湯桶から上がり、洗い場に置いた小袋を住職様に手渡した。
「柘榴の皮を日干しにし、粉にしたものです。肌が白くなるので、使うよう言いつけられております」
弛まぬ努力をしておるのだな、と思うと同時に、湯を使うつもりだったか、と住職様は察した。考えようによっては図々しいが、こうして迎えてくれたのだから、一緒に入るつもりだったと思い至って、下がみるみる膨れていった。
「よかろう、そこに腰を下ろなさい」
腰を突かれながら、背中を流して頂いた。その手は肩から腰から前へと及び、そのうち突いたものが上向きにぴたりと密着していった。
前の下へと触れたとき、身体が跳ねて住職様の手を拒絶した。突然のことに住職様は這わせていた手を離し、立ち上がったものをほんの少し萎ませた。
「申し訳ございません。前が固くなると、後ろまで固くなってしまいます」
「そうか、それはすまなかった。しかし、尋常ではなかったな。何かあったのかい?」
「……女を客に取りました」
言うのを憚る様子から、そのあとひどく叱られたのだと、住職様は勘づいた。それもきっと、ひとり遊びをしたのだろう、と。
漂う湯気が重苦しくなったので、返礼として住職様の背中を流す。骨っぽくも頼り甲斐のありそうなその様に、内から突いた言葉をぽつりと吐露した。
「住職様は、陰間にご満足頂いておられますか」
住職様は聞いた言葉を噛み締めて、その内に込められた真意を読み取った。
「わしら僧侶は女犯を犯してしまわぬために、陰間の世話になっておる。だがな──」
首を回して、視線を後ろへと向けた。その眼差しに、思わず手が止まってしまう。
「女の代わりとは思っておらん。男にも女にもない魅力が、陰間にはある。わしは、あやめにしかない魅力に惚れ込んでおる。そうでなければ、買い切りなど出来んわい」
気障で不格好で照れ臭そうに吐露された本音は、迷いの中にぼんやり浮かぶ道標となっていた。行く末は滲んではっきり見えないが、間違いなく行き先を指し示していた。
「住職様、ありがとうございます。気持ちが晴れて参りました」
肩に手を載せ、身体をぴたりと密着させて、下の感触を住職様の腰に伝えた。陰間の私に出来るお礼は、こんなことしかないのだと、身体で背中を洗い流した。住職様の具合がよくなってきて、するすると滑らせた手を前へ下へと回していった。
「まぁ、もう、こんなに」
「言ったであろう? 男でも女でもなく、あやめがいいのだよ」
前へと回り、触れたものを目に映す。大きくなったそれを愛おしく撫で回し、湯で流して重たい稚児髷を下ろしていった。
「あやめは、上の口が好きだのう」
「食べたいくらいに、愛おしいのでございます」
「上もいいが、下で果てるのが本懐だ。具合は如何かな?」
膨れた先に口づけをして、浮かせた後ろを確かめる。本懐であるところの通和散は、浸かった湯に溶けてしまった。
お待ちになって、と風呂場を出て脱いだ着物の袂を探る。すると、もう我慢ならんと住職様が、後ろから抱きしめ突いてきた。
「いけません、住職様」
「その尻が、堪らんのだ」
手に手を重ね、高鳴る胸板を愛撫させる。その隙に通和散を口に含んで、はち切れそうな期待に塗りつける。住職様は、ねっとりとして生温かい自分のものに、滲み出す粘液を加えていった。
「ここにいては、湯冷めしてしまいます」
「それはいかん、芯から温めてやろう」
洗い場に戻り手をついて、住職様を受け入れる。
二回目なのに、さっき果てたはずなのに、そうだ住職様は一刻で三回もしたんだった、どれだけの時が過ぎたのか、わからないけどあと何回、住職様はこの身体を貪るのだろう。
湯気が纏わりついているのと、固くて熱くてものにえぐられて、夢の中を漂っているかのように、頭がぼうっとしてしまう。微かに残った意識が映した景色は、湯気の濃淡が描いて消した幻だった。
待たせすぎてしまったのか、住職様はあっという間に果ててしまった。深くで放った粘液が奥へ奥へと注がれて、焦がれるほどに熱くする。
ずるりと抜かれた住職様の先からは、白く濁った通和散がとろりと垂れて、糸を引く。そしてそれはべったりと洗い場の床でうなだれた。
肩で息をし、ぽっかり空いたところから住職様が垂らしたものと、同じものをとろりと垂らす。熱に浮かされ、すっかりのぼせてしまっている。
芯から熱くなったのは何故だろうかと希薄な意識で探るうち、湯気に浮かんだ幻をまた目にしたい、また逢いたいと求める自分に気づかされた。
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