ひとひらの花びらが

山口 実徳

文字の大きさ
上 下
21 / 40

第21話・買い切り④

しおりを挟む
 笑う膝を堪えながら沸かしてくれた湯に浸かり、どうしてあんなに乱れたのかと、思考に身を沈めていった。

 喉から手が出るほど欲しかったのは、大きさではなく若さだった。一滴までも飲み干したいと選んだのは、同じ歳頃の小僧だった。逆さまの景色に映していたのは、小僧ではなく若侍の面影だった。
 寛永寺のすぐ裏で住職様に犯されながら、むせ返るほどの小僧の臭いにまみれている中、彼に思いを馳せていた。

 穢したくない彼に、私は汚されたいのだろうか。
 しかし家名を背負った彼を思えば、嫁を迎えて子を成するほうが、真の幸せではないだろうか。
 陰間などには触れもせず、天寿を全うするほうが幸せなのではないだろうか。

 巡らせた考えにのぼせた頭を冷ましたのは、戸を開け湯気を吐き出させた、生まれたままの姿をした住職様だった。
「あやめ、背中を流してやろう」
「あ……恐れ入ります。では、お言葉に甘えて」
 湯桶から上がり、洗い場に置いた小袋を住職様に手渡した。
柘榴ざくろの皮を日干しにし、粉にしたものです。肌が白くなるので、使うよう言いつけられております」

 弛まぬ努力をしておるのだな、と思うと同時に、湯を使うつもりだったか、と住職様は察した。考えようによっては図々しいが、こうして迎えてくれたのだから、一緒に入るつもりだったと思い至って、下がみるみる膨れていった。
「よかろう、そこに腰を下ろなさい」
 腰を突かれながら、背中を流して頂いた。その手は肩から腰から前へと及び、そのうち突いたものが上向きにぴたりと密着していった。

 前の下へと触れたとき、身体が跳ねて住職様の手を拒絶した。突然のことに住職様は這わせていた手を離し、立ち上がったものをほんの少し萎ませた。
「申し訳ございません。前が固くなると、後ろまで固くなってしまいます」
「そうか、それはすまなかった。しかし、尋常ではなかったな。何かあったのかい?」
「……女を客に取りました」
 言うのを憚る様子から、そのあとひどく叱られたのだと、住職様は勘づいた。それもきっと、ひとり遊びをしたのだろう、と。

 漂う湯気が重苦しくなったので、返礼として住職様の背中を流す。骨っぽくも頼り甲斐のありそうなその様に、内から突いた言葉をぽつりと吐露した。
「住職様は、陰間にご満足頂いておられますか」
 住職様は聞いた言葉を噛み締めて、その内に込められた真意を読み取った。
「わしら僧侶は女犯にょぼんを犯してしまわぬために、陰間の世話になっておる。だがな──」
 首を回して、視線を後ろへと向けた。その眼差しに、思わず手が止まってしまう。

「女の代わりとは思っておらん。男にも女にもない魅力が、陰間にはある。わしは、あやめにしかない魅力に惚れ込んでおる。そうでなければ、買い切りなど出来んわい」
 気障きざで不格好で照れ臭そうに吐露された本音は、迷いの中にぼんやり浮かぶ道標みちしるべとなっていた。行く末は滲んではっきり見えないが、間違いなく行き先を指し示していた。

「住職様、ありがとうございます。気持ちが晴れて参りました」
 肩に手を載せ、身体をぴたりと密着させて、下の感触を住職様の腰に伝えた。陰間の私に出来るお礼は、こんなことしかないのだと、身体で背中を洗い流した。住職様の具合がよくなってきて、するすると滑らせた手を前へ下へと回していった。
「まぁ、もう、こんなに」
「言ったであろう? 男でも女でもなく、あやめがいいのだよ」

 前へと回り、触れたものを目に映す。大きくなったそれを愛おしく撫で回し、湯で流して重たい稚児髷を下ろしていった。
「あやめは、上の口が好きだのう」
「食べたいくらいに、愛おしいのでございます」
「上もいいが、下で果てるのが本懐だ。具合は如何かな?」
 膨れた先に口づけをして、浮かせた後ろを確かめる。本懐であるところの通和散は、浸かった湯に溶けてしまった。

 お待ちになって、と風呂場を出て脱いだ着物の袂を探る。すると、もう我慢ならんと住職様が、後ろから抱きしめ突いてきた。
「いけません、住職様」
「その尻が、堪らんのだ」
 手に手を重ね、高鳴る胸板を愛撫させる。その隙に通和散を口に含んで、はち切れそうな期待に塗りつける。住職様は、ねっとりとして生温かい自分のものに、滲み出す粘液を加えていった。

「ここにいては、湯冷めしてしまいます」
「それはいかん、芯から温めてやろう」
 洗い場に戻り手をついて、住職様を受け入れる。
 二回目なのに、さっき果てたはずなのに、そうだ住職様は一刻で三回もしたんだった、どれだけの時が過ぎたのか、わからないけどあと何回、住職様はこの身体を貪るのだろう。

 湯気が纏わりついているのと、固くて熱くてものにえぐられて、夢の中を漂っているかのように、頭がぼうっとしてしまう。微かに残った意識が映した景色は、湯気の濃淡が描いて消した幻だった。
 待たせすぎてしまったのか、住職様はあっという間に果ててしまった。深くで放った粘液が奥へ奥へと注がれて、焦がれるほどに熱くする。
 ずるりと抜かれた住職様の先からは、白く濁った通和散がとろりと垂れて、糸を引く。そしてそれはべったりと洗い場の床でうなだれた。

 肩で息をし、ぽっかり空いたところから住職様が垂らしたものと、同じものをとろりと垂らす。熱に浮かされ、すっかりのぼせてしまっている。
 芯から熱くなったのは何故だろうかと希薄な意識で探るうち、湯気に浮かんだ幻をまた目にしたい、また逢いたいと求める自分に気づかされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ふたりの旅路

三矢由巳
歴史・時代
第三章開始しました。以下は第一章のあらすじです。 志緒(しお)のいいなずけ駒井幸之助は文武両道に秀でた明るく心優しい青年だった。祝言を三カ月後に控え幸之助が急死した。幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされた志緒と駒井家の人々。一周忌の後、家の存続のため駒井家は遠縁の山中家から源治郎を養子に迎えることに。志緒は源治郎と幸之助の妹佐江が結婚すると思っていたが、駒井家の人々は志緒に嫁に来て欲しいと言う。 無口で何を考えているかわからない源治郎との結婚に不安を感じる志緒。果たしてふたりの運命は……。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

処理中です...