ひとひらの花びらが

山口 実徳

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第20話・買い切り③

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 おっ立てたまま憤怒する住職様に、廊下に座った小僧たちは腰を抜かして震え上がった。すぐ目の前で突き出されたものに、叱られているようである。
「覗きを働くとは、何と恥ずかしいことをする!」
 激怒する住職様に平伏して、年長の小僧が詫びを入れつつ覗いた理由を言い訳した。
「大変申し訳ございません。天女のようにお美しい方に、おちんこがあるのが不思議にございまして、ついこのようなことをしてしまいました」

 当たり前だ陰間だからだ、と住職様は怒りを露わにしていたが、浮かされた熱のせいだろうか、無知な彼らが愛おしく思えたのか、それとも自分と同じかそれより下の若さを単純に欲したのか、ともかく罪を犯した彼らを無下には出来ず手招きをした。
「覗きを犯して罪になるなら、近くで見ればよいでしょう。いっそ楽にして差し上げますから、こちらへおいでなさい」
「それはならぬ、それこそ不婬戒ふいんかいに触れてしまう」
 急に沙弥しゃみの十戒を持ち出すとは、この破戒坊主は独り占めしたいだけではと呆れてしまう。

 その小僧らはシュンとしながら、むくむくと起き上がる前を手の平で押さえていた。これに「おや」と思ったので、住職様に問答を挑む。
「どこからが戒に触れ、どこまでが罪に問われないのか。それがわからなければ、知らず識らずのうちに罪を犯してしまいます。その境を教えてくださいませんでしょうか」

 住職様は渋々ながら、小僧たちを寝所に招いた。彼らは、綱渡りでもするようにそろりそろりと部屋へ入り、ぴたりと寄せた布団を囲んで膝を並べた。
「自瀆は戒に触れますか?」
「なる、不婬戒は一切を禁じておる」
 小僧たちは、ギクリとして引きつった。隠れてしているのが、手に取るようにわかってしまう。
「しては罪に問われますが、されては罪になりますか?」

 これにギクリとしたのは、住職様である。やはり何某か理由をつけて、小僧に手をつけている。だいたい好き者の住職様が、蓄財してもたまにしか買えない陰間だけで満足するはずがない。
「負けた、あやめの好きにすればいい」
「住職様も、お好きになさってくださいまし」

 そう言うならばと住職様は寝そべる身体を仰向けにして、掴んだ腰を持ち上げた。その下へと開いた腿を滑り込ませて、はち切れそうなほど固いものをほぐれたところへ潜らせる。
 奥へ奥へと差し込まれ広がる感覚に仰け反ると、そわそわとする小僧たちの膝が逆さに目に映る。

「修行の身ならば、動いてはなりませんよ」
 そう告げると小僧たちは、得体の知れぬ期待感に姿勢を正した。揺さぶられながら手を伸ばし、裙子くんすも白衣も片っ端から開いてしまうと、膝に置かれた拳の向こうでピンと立つ、燃えるような若さや幼さに取り囲まれた。

 どれにしようかと一瞥し、彼らの中で大きいのをふたつ選んで、手で包む。それはその瞬間から更に膨れて、包み込んだ手の平をぐいと引っ張り、先を少し覗かせた。
 すると住職様の情念が深くに刺さり、中から頭の天辺まで突き上げられる。溢れんばかりの熱情が指の先まで燃え広がって、手の平から飛び出した頭を揉みしだかせる。はじめて味わう快楽に小僧は薄い身を歪め、しかめた顔を紅潮させた。両手に余った小僧たちは、呆けながらも羨むばかり。

 再び逆さに見回して、近く見える歳の小僧にとろけそうな視線を送る。
「顔に跨り、腰を下ろして、くださいまし」
 わけがわからず目配せし合う小僧たちに住職様は苛立ち嫉妬して、いいところを探って突き上げる。髄を響かせ脳天にまで轟く衝撃が、手の平をぎゅうっと拳にさせる。しかし内から湧き上がり吹き出しそうな小僧の若さは、反り返るほど固くなっているから、かえって具合がいいらしい。

 朝霧に迷うような不安と期待を抱きつつ、名指しされた小僧が跨り、顔の上へと腰を下ろす。もっと下に、もっと下にと導くうちに、小僧は耐えかねて四つん這いとなる。その腰は、顔の上を保ったままだ。
 眼前に下がる小袋にツーッと舌先を這わせると、そこから生えたバチがピクンと跳ねて腹を叩いた。何をされるのか解した小僧は、姿勢が崩れないようにと四肢にぐっと力を込めた。
 跳ねるバチを口で捉えて、噛んでしまわないよう舌を絡みつかせた。しょっぱく、苦く、青く生臭い味が口いっぱいに広がっていく。

「あやめ様、腰がじんじんします」
「出そうです、もう出そうです」
 握った手を上下させ、咥えたものを舌先で遊び、とろりととろけた視線で舐め回す。扇情的な表情が堪らないのか、住職様も中で大きくなっている。
「いっぱい出して、あやめを汚してくださいまし」
 この淫らな言葉が引き金となった。両の手から、口の中へと、そして身体の芯へとほとばしる。

 しかしそれではまだ足りず、触れていない小さな小僧に手を伸ばす。すると小僧は丸くした目を白黒させて、次々と果てて白濁の海へと沈めていった。
 住職様は花咲くような愉楽に呆け、ガクガクと膝を笑わせる小僧たちに呆れて嘲笑った。
「まったく、悪いことを覚えてしまった。再び三度みたびと願うなら、明日から精進することだ。それと風呂を入れなさい、このままあやめを帰せぬわ」
 白く熱い粘液に茹だってしまった弁天様に、住職様は苦笑いして困った奴だと呟いた。
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