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第15話・女と男③
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桔梗兄さんは備えをやめて、固い表情を崩すことなく対峙した。これにはさすがに、後ろの指も前の指も離してそれぞれ膝に置く。
「この前、女を相手したって言うね。あやめは私や牡丹とは違って蕾める花。ご贔屓様もついて、盛りの花になろうというときだ。そんなときに、散る花になろうってのかい?」
散る花というには桔梗兄さんは美しすぎて、釈然とせず口を尖らせた。だが、男の客を取れない歳になった陰間は、そう呼ばれてしまっている。
そこへ牡丹兄さんが間に立った。まぁまぁと諌めながらも、結局は咎める理由を添えただけだ。
「あやめ、出すときは後ろが締まるだろう? せっかく広げた後ろが狭くなっちまう、それじゃあ商売上がったりだ」
そう言いつつ暇を持て余したとき、あやめの男を愛でているので、ときどきだから、締まるほどではないから、自分でするのとは違うから、と自己弁護をしながら気不味そうに視線を逸らした。
それを察したところで、いい思いをしているので恨み言を呟けず、小さく固く縮こまるのみである。
「ともかく、後ろを見せてみな」
どうか締まっていないでくれと、みんなの視線が空飛ぶ鴎のように開いた脚へと集まった。通和散を塗ったところへ桔梗兄さんが指を入れ、その具合を確かめる。奥へ奥へと差し込まれ、次第に太くなる指に堪らず目を伏せ「ん……」と喘いでしまった。
開いた薄目の正面で、桔梗と牡丹の兄さんふたりは、木彫りのように固まっていた。それから自分の身体に起きている事態を察し、血の気が引いて早鐘を打つ。
「隠れてひとりでしただろう? 金剛の力を借りるから、下に来なさい」
ごめんなさい、ごめんなさいと何度謝ろうとも、手遅れだった。男に戻ろうとしている身体を今一度仕立てなければ、陰間として働けない。しかし食い扶持がなくなるかも知れない焦燥よりも、これから行われることのほうが得体が知れず恐ろしく、無駄と知りつつ涙を浮かべて嫌だ嫌だと繰り返す。
手を引かれ、階段を下ろされ、女将さんの部屋へ連れられ、身体の事情をつまびらかにされ、着物の裾をまくられた。すぐさま呼ばれた金剛に指二本を入れられて、我慢できずに呻いた声に、女将さんは苦々しく爪を噛んだ。
「まったく、女なんか取らせるんじゃなかったよ! 女の味を覚えちまって、忌々しい。あやめ、今日は店から出さないから仕上げてもらいな」
女将さんの部屋を追い出され、向かいの板戸の中へと放り込まれた。金剛に続いて桔梗兄さん、牡丹兄さんも部屋に入って板戸を閉める。
ここは、よく知っている。陰間になるよう金剛に仕込まれた部屋だ。だから、これから行われることの予想がついた。だが金剛だけでなく、桔梗兄さんも牡丹兄さんの目も、薄暗い中で光っている。
「それじゃあ、私からいくよ」
愛でてしまった償いか、牡丹兄さんが着物をまくって後ろに触れて、通和散の残りを確かめる。指の腹が滑っているから、まだ何とか残りはあった。
次の瞬間、牡丹兄さんが入ってきた。ほんの少し固いので、無理矢理押し込まれてしまって、痛い。苦痛を声に漏らしていると、腰を押さえた手の平にピシャリと尻を叩かれた。
「あやめ、この痛みを忘れるんじゃないよ。あんたは、そんだけのことをやったんだ」
厳しい言葉を乗せた口調には、同情と愛情が垣間見えた。大きいけど、この三人の中では一番小ぶりだったから、先陣を切ったのは牡丹兄さんの優しさかも知れなかった。
腹の底から突き上げられて、そのたびに荒い息を短く吐いた。次第にそれは早くなり、身体の芯から頭まで、ぼうっと温まってくる。
根元まで押し込まれ、きゅうっと上がった袋と袋が密着すると、そこから燃え上がるほど熱い波が中へ中へと押し寄せてきた。
「よし、次は俺だ」
引き抜かれ、ぽっかり空いたその場所を、金剛が更に押し広げていく。太くて、深くて、大きくて、汚らしく呻いてしまった。
金剛に鍛えられた後ろが痛いだなんて、やっぱり戻ってしまっていたんだ。小刻みに叩く袋の音が、折檻にしか聞こえない。
「あやめ、いい具合に、なってきた。でもな、これ以上、締まっては、仕事に、ならんぞ」
忠告する声からは、女将さんの指図とはいえ役得だ、根元を締め上げられて気持ちがいいと、ほくそ笑んでいるのが手に取るように伝わった。
「あやめ、出る!」
牡丹兄さんの熱が残るその中に、金剛がねっとりとした熱を重ねた。それぞれが絡み合ってひとつになって、中をどろりと蹂躙していく。
めくれないよう引き抜かれると、息切れしている後ろの口から一筋の線がとろりと引かれた。上の口も力のない息をしているだけであり、虚ろな目には霧がかかったような景色が映る。
そうしてだらりと突っ伏していたが、間髪入れずに貫かれた。
桔梗兄さんだ。後家も奥女中も、咥えてしまえば離さない。それに今、身体を串刺しにされている。
避けんばかりにメリメリと緩んだ口を開かれて、大きな先がひだを掻き分け突き進み、ついには奥のどん詰まりを力強く突き上げた。喉から絞り出した呻き声は舌を引き出し、見開いた目玉を裏返す。
裂ける、壊れる、えぐられる、激しくされたら、おかしくなっちゃう、そこは駄目、そこを責められたら、そこは、そこ、そこがいい、そこを突いて、もっと突いて、もっと頂戴、もっと、もっと!……
ぽっかりと開いた後ろから、生温かさがたくさん溢れ出した。感じ取れたのはそれだけで、茹だった頭には「これで男を捨てられた、女でもない陰間に戻れた」と思い浮かんで、この上ない幸せをひとりで享受した。
そこで意識はプツリと途絶えた。
「この前、女を相手したって言うね。あやめは私や牡丹とは違って蕾める花。ご贔屓様もついて、盛りの花になろうというときだ。そんなときに、散る花になろうってのかい?」
散る花というには桔梗兄さんは美しすぎて、釈然とせず口を尖らせた。だが、男の客を取れない歳になった陰間は、そう呼ばれてしまっている。
そこへ牡丹兄さんが間に立った。まぁまぁと諌めながらも、結局は咎める理由を添えただけだ。
「あやめ、出すときは後ろが締まるだろう? せっかく広げた後ろが狭くなっちまう、それじゃあ商売上がったりだ」
そう言いつつ暇を持て余したとき、あやめの男を愛でているので、ときどきだから、締まるほどではないから、自分でするのとは違うから、と自己弁護をしながら気不味そうに視線を逸らした。
それを察したところで、いい思いをしているので恨み言を呟けず、小さく固く縮こまるのみである。
「ともかく、後ろを見せてみな」
どうか締まっていないでくれと、みんなの視線が空飛ぶ鴎のように開いた脚へと集まった。通和散を塗ったところへ桔梗兄さんが指を入れ、その具合を確かめる。奥へ奥へと差し込まれ、次第に太くなる指に堪らず目を伏せ「ん……」と喘いでしまった。
開いた薄目の正面で、桔梗と牡丹の兄さんふたりは、木彫りのように固まっていた。それから自分の身体に起きている事態を察し、血の気が引いて早鐘を打つ。
「隠れてひとりでしただろう? 金剛の力を借りるから、下に来なさい」
ごめんなさい、ごめんなさいと何度謝ろうとも、手遅れだった。男に戻ろうとしている身体を今一度仕立てなければ、陰間として働けない。しかし食い扶持がなくなるかも知れない焦燥よりも、これから行われることのほうが得体が知れず恐ろしく、無駄と知りつつ涙を浮かべて嫌だ嫌だと繰り返す。
手を引かれ、階段を下ろされ、女将さんの部屋へ連れられ、身体の事情をつまびらかにされ、着物の裾をまくられた。すぐさま呼ばれた金剛に指二本を入れられて、我慢できずに呻いた声に、女将さんは苦々しく爪を噛んだ。
「まったく、女なんか取らせるんじゃなかったよ! 女の味を覚えちまって、忌々しい。あやめ、今日は店から出さないから仕上げてもらいな」
女将さんの部屋を追い出され、向かいの板戸の中へと放り込まれた。金剛に続いて桔梗兄さん、牡丹兄さんも部屋に入って板戸を閉める。
ここは、よく知っている。陰間になるよう金剛に仕込まれた部屋だ。だから、これから行われることの予想がついた。だが金剛だけでなく、桔梗兄さんも牡丹兄さんの目も、薄暗い中で光っている。
「それじゃあ、私からいくよ」
愛でてしまった償いか、牡丹兄さんが着物をまくって後ろに触れて、通和散の残りを確かめる。指の腹が滑っているから、まだ何とか残りはあった。
次の瞬間、牡丹兄さんが入ってきた。ほんの少し固いので、無理矢理押し込まれてしまって、痛い。苦痛を声に漏らしていると、腰を押さえた手の平にピシャリと尻を叩かれた。
「あやめ、この痛みを忘れるんじゃないよ。あんたは、そんだけのことをやったんだ」
厳しい言葉を乗せた口調には、同情と愛情が垣間見えた。大きいけど、この三人の中では一番小ぶりだったから、先陣を切ったのは牡丹兄さんの優しさかも知れなかった。
腹の底から突き上げられて、そのたびに荒い息を短く吐いた。次第にそれは早くなり、身体の芯から頭まで、ぼうっと温まってくる。
根元まで押し込まれ、きゅうっと上がった袋と袋が密着すると、そこから燃え上がるほど熱い波が中へ中へと押し寄せてきた。
「よし、次は俺だ」
引き抜かれ、ぽっかり空いたその場所を、金剛が更に押し広げていく。太くて、深くて、大きくて、汚らしく呻いてしまった。
金剛に鍛えられた後ろが痛いだなんて、やっぱり戻ってしまっていたんだ。小刻みに叩く袋の音が、折檻にしか聞こえない。
「あやめ、いい具合に、なってきた。でもな、これ以上、締まっては、仕事に、ならんぞ」
忠告する声からは、女将さんの指図とはいえ役得だ、根元を締め上げられて気持ちがいいと、ほくそ笑んでいるのが手に取るように伝わった。
「あやめ、出る!」
牡丹兄さんの熱が残るその中に、金剛がねっとりとした熱を重ねた。それぞれが絡み合ってひとつになって、中をどろりと蹂躙していく。
めくれないよう引き抜かれると、息切れしている後ろの口から一筋の線がとろりと引かれた。上の口も力のない息をしているだけであり、虚ろな目には霧がかかったような景色が映る。
そうしてだらりと突っ伏していたが、間髪入れずに貫かれた。
桔梗兄さんだ。後家も奥女中も、咥えてしまえば離さない。それに今、身体を串刺しにされている。
避けんばかりにメリメリと緩んだ口を開かれて、大きな先がひだを掻き分け突き進み、ついには奥のどん詰まりを力強く突き上げた。喉から絞り出した呻き声は舌を引き出し、見開いた目玉を裏返す。
裂ける、壊れる、えぐられる、激しくされたら、おかしくなっちゃう、そこは駄目、そこを責められたら、そこは、そこ、そこがいい、そこを突いて、もっと突いて、もっと頂戴、もっと、もっと!……
ぽっかりと開いた後ろから、生温かさがたくさん溢れ出した。感じ取れたのはそれだけで、茹だった頭には「これで男を捨てられた、女でもない陰間に戻れた」と思い浮かんで、この上ない幸せをひとりで享受した。
そこで意識はプツリと途絶えた。
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