ひとひらの花びらが

山口 実徳

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第7話・夜道①

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 谷中の住職に呼ばれたのは、とっぷり日が暮れた頃だった。兄さんたちが次々と売れて出払ったあとだったので、ようやく買い手がついて安堵したのと、本当にまた座敷へ上げてくれたので、思わず足取りが弾んでしまった。
「待ってくだせい、あやめさん」
 戸惑いながら提灯を揺らしているのは、もちろん金剛。二度目がはじめてだったとはいえ、そんなに早く歩いていたかと、自分自身が驚かされた。
「そんなに、あの住職が気に入ったんですか?」
「気に入ったのは、あっちのほうだよ。また呼んでくれたんだから、早いとこ行ってやらないと」

 前回とは違う料理屋だったので、小便の件をなじられるようなことはない。女中のあとをいそいそとついていき、立ち止まった襖の前で膝をつく。
「お待たせいたしました、あやめでございます」
 襖越しに声がかかる。スーッと開くと思わぬ光景が目に映り、部屋に入る前から居場所はどこだろうかと困ってしまった。
 住職の向かいには髷を結った男がおり、どちらも芸姑をはべらせている。その結い方から、男が商人なのだとわかった。
「こちらは、さる材木問屋の大旦那様でな、多大な寄進を当寺に納めてくださったのだ」

 その大旦那様は、冷え切った目で下ろした島田を見下ろしていた。釘のような芸姑の嫉妬も、身体の芯を貫いて痛い。
 しかしそれに気づかないのか、それともよっぽどよかったのか、住職は大旦那様の浮かない尻を煽り立てた。
「寄進とこの座敷の礼に、陰間を味わってもらおうと、そういう趣向だ。そこらの遊女よりも高嶺の花だ、どうか楽しんでくだされ」

 芸姑がさめざめと襖を開くと、そこには厚い布団が敷かれていた。気が進まない様子の大旦那様は、のしのしと部屋に入って布団の上で胡座をかいた。
 慌ててあとを追いかけると、ピシャリと襖が閉じられて、むっつりむくれる大旦那様を行灯の明かりがぼんやりと下から浮かび上がらせていた。
 大旦那様は陰間と、男としたくないのだ。しかし懇意にしている住職が勧めるから、断れない。仕方なく同衾する、そういうつもりだ。

 どうしよう……したくない人とするなんて……。

 今まで芸姑をはべらせていたのだから、女遊びは好きなのだろう。ならば、陰間の「女」を出し切るしかない。通和散を口に含んで、とろけたところで手の平に出し、苦手な山椒を混ぜ合わせ、たっぷりと中まで塗り込んでいく。指を一本もう一本と差し込んで、いつその気になってもいいようと備える。
 大旦那様にしなだれかかり、袴の上から触れる。期待はなく膨れていないが、触っているうち山椒がむず痒くなり、内股が奥から火照って疼いた。

「お召し物を……取っても、宜しいでしょうか」

 吐息まじりの懇願に渋々ながら頷かれたので、袴を下ろして前をはだける。見たものは柔らかく、手指で弄んでも入れられるほど固くならない。
 下がったものに手を添えて、立てた舌先を下から上へ這わせていくと、むくむくと立ち上がったそれが頬を舐めるように撫でていった。
「ああ、熱くて、大きい……嬉しゅうございます」
 固くなったものにそっと手を添え、愛おしそうに頬ずりをする。唇を寄せ舌を立て、根元から先へと這わせて先を舐め回す。紅で囲って先から根元まで咥えると、大旦那様の味がした。

 もう、こんなに、大きく、なった。

 根元から先まで唇で吸い、上から下へと接吻して紅で染める。陰間の女を感じてくれた、あとは男を隠したままこの身体で果ててもらう。
 うつ伏せになって腰を上げ、男のものが見えないように、よだれを垂らして欲しい欲しいとおねだりしている割れ目を広げた。
「その、固くて、熱くて、大きいの、あやめにください」
 ぬるぬるぬる、と押し込まれ小さな穴が広がっていく。奥まで入れると大旦那様の根元がきゅうっと締まり、中ではふわふわとしたひだが絡みつく。
「はあああっ! 凄い!……気持ち……いい」

 腰をがしりと掴まれて、引いては奥へ、引いては奥へを繰り返す。めくれ上がって押し込まれる入口と、何度も突かれて踊るひだの感触に、髄から頭が壊れてしまいそうになる。
 男を隠してきゅっと締めた内股に、大旦那様から下がったものが前後するたび音を立てる。この音を座敷の住職や芸姑に聞かれていると思えば、折檻を受けているようで恥ずかしく、背筋がぞくぞくしてしまう。

「……気持ちよくて……壊れちゃう……あやめの中に……熱いのを……いっぱい……」

 大旦那様は引いて、押し込まないで、抜いてしまった。小刻みに震える腿の付け根に、寂寞とした空虚がぽっかりと口を開いてしまっている。
 一所懸命やったのに、気持ちよくならなかったのかな──。
 すると突然、島田髷を掴まれた。無理に引かれ、されるがままに連れられたのは、通和散をとろりと纏ったものの目の前だった。

「大旦那様、何かご無礼を……」
けつとりなど、とっくに遊女でやっておるわ。それより、お前の上は絶品だ。見てくれは偽っておるが、さすが男。男のいいところをよく知っている」
 血相を変えて放とうとした「待って」の台詞は、大旦那様の大きな期待に塞がれて、喉の奥へと押し込められた。
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