椰子の実ひとつ -電車の女学校-

 昭和18年、春。

 瀬戸内海の小さな島で生まれ育った美春は、はじめてひとりで汽車に乗り、はじめて広島に降り立って、はじめて目にする大都会に圧倒された。

「新しく出来る家政女学校に通うんじゃけど、どこにあるんかね?」

 駅前で案内してくれた千秋、路面電車に乗り合わせた夏子も同じ学校に通うらしい。

「勉強しながら働いて、お給金を貰えるなんて、夢のような学校じゃねぇ」

 しかし入学式兼入社式で、美春は衝撃の事実を知らされる。

「うち、路面電車ちゅうのに乗るんかね!?」

 ここは、広島電鉄家政女学校。
 路面電車に乗って、少女たちの青春が走り出す。

 楽しいことも、つらいことも、寂しい思いも分かち合い、淡い恋に心が躍る少女の日々は、たったひとつの爆弾が一瞬にして消し飛ばす。

 何もかもが消えた広島で、少女は希望の光となった。

 残酷描写のある話には※を付けます。
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