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「ここ、おすすめなんだよねー」

そう言った小宮主任に連れられて、大きめの居酒屋の門をくぐった。

入口へと続く石畳の道を並んで歩いている、私と小宮主任の間に割り込んできた水瀬課長に、小宮主任が「課長、邪魔です」なんてまた笑顔で言う。

それに、水瀬課長は一瞬睨むような仕草を見せて「小宮が相馬にセクハラしそうな勢いだからそれを防止してるんだよ」なんて言ってから誇らしげな表情をして私をちらっと見た。

…これは、ありがとうございます、と、言うべきなんだろうか?…課長を見るからに、言うに越したことはないだろうと思った。小宮主任には少し失礼かもしれないけど。

「……ありがとう、ございます……?」

結局どちらが正解か分からず、疑問形でそう言えば、水瀬課長は満足げに笑った。それを、小宮主任が呆れたように見ている。

居酒屋のドアを開ければ、レジ付近で待っていた店員さんに案内され、壁で仕切られた座敷の個室に案内された。

水瀬課長が壁際に座って、私を手招きする。それを、止めるかのようにして小宮主任が私の手を引く。

「え、っと……」
「セクハラすんなよ小宮。手、離せ」
「課長の隣とか絶対ダメでしょ。相馬さんが危ない」

これは一体どうしたらいいのでしょうか…。正直、すごい困る。ていうか、この2人はなんでいつもそんなに喧嘩腰なの…

「相馬さんはどっちがいい?」
「え、」

そこで私に振りますか、普通!?にこにこと笑顔を見せながらも私の手を離してくれない小宮主任と、そんな小宮主任を睨むようにしてゆっくりと私に手招きをしてくる水瀬課長。普通に考えて、選べるわけがない。

…あ、いいことを思いついた。

「小宮主任と水瀬課長が一緒に座ればいいのではないでしょうか…?」

私がそう言った瞬間、隣から笑い声が聞こえた。視線を移せば、小宮主任が爆笑していた。

「相馬さん…っ、頭いいね…!」

肩を震わして笑う小宮主任に、わけもわからないまま私まで釣られて笑ってしまう。そんな私たちを真顔で見ている水瀬課長に、少しだけ怯えながらも微笑んでおいた。

「じゃあ、失礼しますね」

そう言って小宮主任が水瀬課長の隣に座れば、水瀬課長が逃げるように壁際にピタリとくっつく。それを見て、2人と向き合うような形で私も席についた。

水瀬課長は納得がいっていなさそうだけど、「相馬さんを困らしてばかりいたら嫌われますよ?」と小宮主任に言われて渋々頷いていた。それは、きっと諦めてくれたということなんだろう。

こんなに良くしてくれて、気に入ってくれているような、そんな素振りを見せる2人に少し戸惑いながらも嬉しいことには違いはなかった。そして、楽しいと思っていることも事実だった。

「何でも好きなもの頼んでね。あ、課長は自腹でお願いします」
「ケチ臭いなぁ。俺が相馬のもお前奢ってやるよ。俺の方が稼いでるからな」
「…そうですか、ではお言葉に甘えて」

明らかに作っているであろう笑顔でそんな会話をする2人を見ているとわたしまで自然と笑みが零れた。喧嘩するほど仲がいいってこのことか、なんて納得してしまう。本気で嫌い合ってるわけじゃないんだろうなと、思った。

それから、小宮主任がタッチパネルで料理を何品かとお酒の飲み放題のコースを頼んでくれた。

「今日は飲みまくろう!」
「はいっ!」

小宮主任のペースにすっかり巻き込まれてしまった私は元気よく返事をしてお酒を選んだ。料理の前に運ばれてきたお通しとお酒を目の前に手を合わせて「いただきます」と言えば、小宮主任がふわりと笑って「どうぞ」と言ってくれた。

それに水瀬課長が「いや、奢るの俺な」なんてツッコミを入れて、3人で笑った。
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