プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり

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62 色々回収したいと思います3

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朝からメイド達が忙しくしている。兄様の着付けなんてアッと言う間なのにね。

いえ、違います。今日は、卒業式ももちろん大事ですが、バードナー伯爵とアリサさんの婚約パーティーも身内でやるのです。伯爵領で婚約書類は書いて王宮に提出して半年後に結婚式だけど、せっかく揃ったなら、みんなとパーティーをしたいねって事で。使用人やバードナー伯爵の王都にいる姉夫婦などを呼んで夕食会。


「リン、あなたそんなのんびりしていていいの?」
と聞けば、リンは笑って
「ラーニャさんからは、常にお嬢様の側にいて、外からの干渉も中からの干渉も関わらず、楽してメイド道を極めろと言われてますから。どうせ巻き込まれるしと」
「ラーニャ…」

執事長が、
「今、王宮から使者が来まして、こちら、二通手紙が届きました」
と言い、
「ほらね」
と聞こえた気がした。

渡された手紙は、真っ白な紙の封筒とオレンジ色の花が散らばる封筒。

真っ白な封筒は、レオナルド王子様。

『マリネッセの具合も良くなったので、今日の卒業パーティーで婚約を宣言する。
今日を迎えられるのは、ミルフィーナ嬢のおかげだ。来賓の招待状を送る。すぐに準備をして欲しい』

ハア!?
何これ?俺様感満載!
真面目なはずの王子2もミラン国相手にして…
マリネッセ様と姫様の間に立って、少しずつ変わったのかな?いい子じゃいられないか、女の嫉妬や僻み嫉みって怖いものね。占いに逃げるぐらいにね。
次世代か、大丈夫かな本当に。なんとなく伯爵が凄く嫌な顔をする未来が見える。

いや、準備はしてはいたけどね。
いやいや、しかし…

もう一通、オレンジ色の花柄封筒は、ヒョーガル王子様。

『レオナルド王子から聞いた。午後二時に迎えに行く。荷物を贈ったから、約束は果たす』

何このめちゃくちゃ短い手紙。
えっ、こんなの数年の恋心も一気に冷めてしまうよ。
ノー、NO、ロマンスですよ。
彼には、やはりロマンス小説を読ませるべきだと思うわ。

「お嬢様、百面相は終わりましたか?急いで準備します。ヒョーガル王子様より贈り物が届きました」
とリンが言うと、執事長が並びメイド達が、箱をつぎつぎと運び、開けては出していく。

ドレスはオレンジの濃淡にスカートの裾部分が赤に腰の太いリボンは黒
髪飾りや装飾品は、黒と赤の宝石が散りばめられてなんだか魔王ぽい。
靴のサイズも合っている。
すぐ用意してこの質の高さ既製品だとしても随分とヒョーガル王子に寄ったデザインを見つけたなと驚く。
よっぽどの有能な側近か執事。


あの時の約束
『私は、そうドレス一式に、靴にアクセサリーに倍々返しっていう悪役令嬢らしい物を後ほど請求しますわ。だから絶対に死んではいけないの』
覚えていてくれたのね。

それにしても、こんな無茶振りに喜びを感じるなんて私ったらどんだけ変態…いえヒョーガル王子に夢中なのかしら。馬鹿ね。

我が家の使用人は大変だろう。そんな中、何故かラザリーさんも使用人として、走り回っていた。

「ラザリーさん何故その格好をしているのですか?」
「あぁ、奥様に頼みまして~、メイドさせてもらってます~」
と答えた。

どうして?パーティーの参加者でしょうよ?
彼女とはちゃんと会話しなきゃよくわからないのよ。

「お嬢様は準備です!」
とリンに身体を固定され、準備を施されていく。
「あっ、でも…」
「時間ありませんよ」
とリンの圧一撃で終了。
どんどん着飾り、これは偽証罪に問われるのではないかというレベルまで我が家のメイド達とラザリーさんは、頑張ってくれた。
特にお胸の辺りを!

「ありがとう、みんな、このみんなで一丸となって作った谷間、私、一生忘れないから!」
と言えば、

「「お嬢様!」」

「あまり動かないで下さい、流れてなくなります」
サラにキツく体型維持を指示された。

知っていた?胸って流れてなくなるものらしいのよ?

あとね、もうすぐ16歳、お胸の成長期に入る年頃よ、ふふすぐにみんな驚いて
「なんとたわわな」
と言わしてやるわ。
みんなをホォーと感心させるわ、だってお年頃ですもの。

そして、足を引きずるお父様やお義母様、バードナー伯爵やアリサさんと談笑しながら待っていれば、
「ヒョーガル王子様がお見えになりました」
と声がかかる。

「いいなぁ、ミルフィーナ姉様、卒業パーティーなんて」
とヒロインが言った。
確かに、私の知っている乙女ゲームのエンディングのワンシーンはピンクのドレスを着たアリサさんがレオナルド王子と真夜中星空の下で踊っている光景。
今日の彼女の衣装そのものかもしれない…

「私が行っていいのかな?」
零した言葉を拾ったのは、アリサさんだった。
「ミルフィーナ姉様が行かないとパーティーは始まりませんよ!来賓なんでしょう!」
と私の手を取り引き上げる。

不思議。身体が軽くなった気がする。引っ張られる力で導かれているみたいに。

これが本当のヒロインの力?
攻略されるって導かれるの?
少しだけわかった気がした。兄様が何故あんな風にサクッと断罪したのか…
ヒロインの力、恐るべし!

玄関には、ヒョーガル王子様がいた。素晴らしい、完璧に他国の王子様だ。
私は隣に並んで大丈夫だろうか?笑われない?批判されない?馬鹿にされない?

「うん、凄く似合っているよ、ミルフィーナ」

ハアー
その一言でお腹いっぱい。
ありがとうございます。
そして、もう駄目かもしれない。世の中のイケメン男子に言いたい。君らの言葉には殺傷能力があるため、もう少し後先考えて発言した方がいい。
お世辞でも簡単に一人の令嬢の人生を狂わす発言が出来るのだから。

全く私は、令嬢として駄目駄目なはずだ。勉強も嫌い、貴族の礼儀作法も嫌い、楽したい、茶会やパーティーも面倒くさい。

だけどね。

そんな台詞をあなたから言われたら、頑張ってしまうじゃない?
努力してなんとかなるなら手を伸ばしてしまうでしょう。

全く乙女ゲームを馬鹿にしていたわ。結局、こんなに人生を右往左往させられるなんてね。
それは、私が思い出したからかな?

色々手を出して、変更して、追い出してそれで見つけて、巻き込まれたり、沢山教育されて、傷を作った。

全く乙女ゲームはハードモードだ。こんなはずじゃなかったもの。こんな忙しい人生想像もつかなかった。

「どうしたミルフィーナ?」
と隣に座る王子様が聞く。
「何故私、今日、卒業パーティーに出席するのかなと不思議でして」
普通来賓なんて有り得ない。

「そうだな、私も半年も在籍していないのに、来賓として参加するなんて、帰国する時は思わなかった」
「そうです、か…ヒョーガル王子様も…」
と言えば、
「はぁ~、ヒョウでいい」
と私の目を見ながら話す、王子様。
「それは、いくらなんでも良いわけないですよ。だって平民時代の名ですよ」
と言えば、再度私の手の上にご自分で手を乗せて軽く握って
「ヒョウがいい」
と不貞腐れて言う。なんか変?
「どうしたんですか、突然」


「昨日の騒動、レオナルド王子もアルフィンもミルフィーナ嬢はとんでもないと褒めてた…」
と目線を外しながら言う。
「えっ、それは褒めじゃなくて、じゃじゃ馬とか取り扱い注意という意味合いだと思いますけど」

「違う、褒めていた」
何故不貞腐れているのかわからない。
頑なに譲らなそうな意志に、
「ヒョウ様…」
と言ってみた。
いや、その後の後ろの台詞が言えない。
何このめちゃくちゃ照れが出るのは?
私、今、また真っ赤になっている。多分、足の先から頭の上まで真っ赤だ。
たかが愛称。

そっと隣を見てみれば、手を口に当てて真っ赤になっている黒髪王子がいる。

あぁ、馬鹿だよね、恋愛不慣れな者達が照れたら…

まぁ、そこから無音になるよね。
話すことより緊張感が爆発してしまうよ。
この全身の熱は、幸せの温度だ。
あなたがいて初めて成立する熱。
ダラダラしたい私が、頑張ろうと手に入れようとした熱を感じながら、私は、ピクニックに行った日の兄様の言葉を思い出した。

『ミルフィーナ、努力は嘘をつかないから』

真面目ちゃんの兄様の言葉。努力しても駄目なものもたくさんあると知っているし兄様に反発するのも出来るけど、今は、兄様の積み重ねてきた努力もわかる。それはレオナルド王子様にもアルフィン様にも理解されているから友人関係が成り立っている。本当にこんな真っ直ぐに育ってきた人柄が言わせる言葉。

最近、私に巻き込まれすぎて棘が所々出ているけどね。
「どうかしたか?」
「少し昔を思い出しました」


馬車が止まった。会場に入れば、卒業式後のパーティーの賑やかさだった。

そしてそこは、キラキラ豪華な輝きを放っていて乙女ゲームのエンディングらしい会場だ。
笑い声も音楽も庭園も別世界。

私は、ヒョーガル王子にエスコートされ、その会場に踏み入れる。


屋敷の私の部屋には、ラーニャから届いた花束とカードがある。


『お嬢様、お嬢様の言う乙女ゲームという世界がエンディングを迎えるということでおめでとうございます。

もちろん、ハッピーエンドですよね!

悪役令嬢万歳!』
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