プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり

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51 王子2から話を聞く

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今年の夏は、みんなで領地に帰った。

「屋敷に着くまでに工事している場所がありましたが?」
領主館で兄様に聞くと、
「治水の工事、川の水の問題が出ていて広い牧草地に対応するのは、難しいけど一つ一つ話を聞いて積み重ねていくしか出来ないね」
来年には、レオナ様も兄様の隣で話を聞いている姿が目に浮かんだ。

「お嬢様、ラーニャさんのところのお土産ですがこちらでよろしいですか?」
「えぇ、明日が楽しみよ」

最近自分の言葉の嘘が酷くなっている気がする。ラーニャに会って何を話そうとかどうしようとか楽しみとは真逆な嫌だなという感情がある。

情けない。

ラーニャに会って、話をして、ロマンス小説を借りたり、お店で色々買ったり、時間が潰れてくれて助かる。

「お嬢様、大丈夫ですか?」
「何が?」

変なの?今楽しいんだけどな。心配されるような事は何もないよ。

「ヒョーガル王子様のことです」
「ラーニャ、流石だね、ずばり聞くね。いや、恥ずかしい勘違いをしちゃってさ。家族に気を遣われて大変だったのよね。まぁもう、三か月になるからみんな気にしてないかな。大丈夫よ」
「いえ、私は、お嬢様の心の方が心配なのです」
「嫌だわ、ラーニャ。後悔はないわ、勉強は、本当に自分のためになったの。この私がサボらなかったのよ。学校の成績も良いのよ、兄様よりもよ!凄いでしょう。礼儀作法だって全部自分に返ってくるでしょう、刺繍だって、早く刺せるようになったのよ。コツさえわかれば、私だって出来るってわかったわ。そうだ、ラーニャの赤ちゃんの涎掛けに刺繍してあげるわ、贈るわね」
と言えば、ラーニャは泣き笑いの顔をした。妊娠中できっと涙腺が弱くなっているんだ。そうに違いない。

たぶん本当にいいたい言葉は、飲み込んでくれた。それがラーニャだ。
ラーニャの前なら、本当の気持ち、心の全てを話せるかと思ったけど、ミルフィーナ・ダルンのプライドは高かったよ。
無様な独白なんて、私には無理。

「また来年、会いましょう」

私は、お義母様と領地内で茶会に出たり積極的に活動した。
アリサさんも来て話をしたり、新商品の試作を持って来てくれて盛り上がった。麦で編んだ帽子の周りに綿生地を垂らしていた。確かに独特だけど貴族向けではないだろう。
本人は後もう少しで閃くと言って笑っていた。この話で伯爵領の夫人会でもアイデアを募ったり、そこから年齢層もまばらな関係性が出来て楽しいと話す。

正直に羨ましいと思った。

忙しいのは、好きじゃない。
私に合わないと思う。こんな風に妬みの感情を生み出して得がない。

もっとダラダラしたいよ。せっかく領地に帰って来たから自然を満喫したい。この独特の匂いが欲しいし、牛を愛でたい!放牧している場所に行って癒やされたい。
自分が、忙しくしたくて頷いてしまった予定表に逆らうことも出来ず、馬車から牛の姿を見るだけだった。


領地から戻ると、王宮から手紙が届いていた。
なんと、レオナルド王子様だ。
アルフィン様がトモホーク王国の情報を教えてくれるのかなとは考えていた。
面倒くさいな、嫌だなって。

でも王子様自らって、断れないじゃないですか。行きたくないけれども…
家族に伝えて、日時の調整をしていれば、夏休みも終わり頃を迎えた。

「では行ってきます」

王宮で、レオナルド王子様と会うのは、あのパーティ以来かな。学校で見かけることはあっても。
婚約発表がまだされてない事が気になる。

「お久しぶりでございます、レオナルド王子様。本日は、お招きありがとうございます」

「あぁ、ミルフィーナ嬢、座ってくれ」

見通しのいいサロンに、護衛騎士一名とメイドが二名。
「本日は、マリネッセ様は、ご存知なのでしょうか?」
と聞くと、
「いや」
それは、私としては困った話だ。派閥の下っ端が内密な行為をしてると受け取られたら困る。

「それは…」
と言った後、遮られ、レオナルド王子様は、
「トモホーク王国に行ってきた。国内外で情勢が安定したことのアピールのための夜会だ。もちろん、親善大使として務めてきた。で、ここからだが、表面上は安定したと言っているが、国力が落ちているのははっきりわかる。王弟派の粛正が大きいのかもしれない。他国を招くにしては圧倒的に警備兵が少ないと感じた。ヒョーガル王子には会えたが、今現在で言えば、彼に自由はないように見えた。…一国の王子に自由はないんだよ。国内の安定は第一に国外との貿易は有利に、そのために縁を結ぶ」

随分と気持ちが入った強めの言葉に驚いた。
「レオナルド王子様、どうしたんですか?お優しいですね、いち貴族令嬢に対して、お兄様になんか言われました。ヒョーガル王子に聞いてきてくれとか。私も貴族令嬢です、家のための結婚は理解していますし、当然の義務だと理解しています。ヒョーガル王子が誰と婚約しようが結婚しようとも、それは国にとって当然の事ですから」

気にしていません。
言葉に出して言えなかった。

「そうか、まず夜会で発表されたのは、トモホーク国内の公爵令嬢との婚約が第二王子と、第一王女が、現在のミラン国国王の側妃になる事が発表された」

んっ?去年会ったミラン国の第二王女は、国王の娘だよね?
第一王女っていくつ?
「えっ?ミラン国国王の側妃って親子ほど離れているのではないですか?」
と質問すると、
「年は19歳になっている。それでも親子ほどあるな、今回、王弟派の金の流れにミラン国が関わっているそうだ。抑止のためだろう。そして第二王子は、国内の統制。ヒョーガル王子は、王族発表の時に前に出なかった。意味はわからない」
と断言した。

「王族の証がなかったからですか?ペンダント、ペンダントなら今日、お持ちしたんです。お渡し下さい」
と頼んだ。

レオナルド王子は、お茶を優雅に飲むが、私にはお茶の味なんてわからなかった。

「彼とは会えたと言ったね、彼は王族の衣装は着ていなかった。女王陛下の後ろに立つ騎士の衣装だった。夜会が終わった後、アルフィンと共に少し時間をもらってね、話をしたのだが、皆には第一王子として認められている、大丈夫だと答えていた。何故騎士をと聞けば、いつ女王陛下が狙われるかわからないからと国力、騎士団員の数が少ないから警備に回っていると言う話だ。何か聞きたい事はあるか?」

「それは第一王子としていいのですか?まるで第二王子が王太子になるかのようではありませんか?」
と思ったまま質問する。
レオナルド王子は、長い足を組み、
「それはどうなんだろうな?第二王子は、11歳だ。どこまで女王陛下が政務をやるのかはわからないな。だいぶ変わった陛下だと思う。もし仮に第二王子が時期王太子としても、繋ぎとしてヒョーガル王子が出てくるかもしれないな」
と私に説明しながら、自分の考えを教えてくれる。レオナルド王子、結構いい人だ。

「だから今回、ミルフィーナ嬢に招待状が届かなかった理由は王族として参加していないというあたりかな」
と私から視線を外して言った。
「やっぱり兄様に聞いてきてと言われたのではありませんか?」
「いや、ダルン侯爵にも」
と困り気味な表情で言う。
「もう、何やってるんでしょうか二人とも!レオナルド王子様も私は、伝書鳩じゃないってはっきり言わないと駄目じゃないですか」
と言えば、
「いや、私も一国の王子として考えさせられた。今の現状を知っているだろう。もう少し早くマリネッセが婚約に同意してくれればミラン国の横槍が入って来なかったのに!どちらを王妃にするかで、揉めている」

深い溜息が聞こえた。

少し声を抑えつつ
「重鎮がですか?」
と聞く。派閥って集団だからがっつり意見言うものね。揉めるって…

「あぁ」

「レオナルド王子様のお気持ちは?王妃にしたい人と好きな人は違うのですか?そう言った感情は王子という立場上考えてはいけないのでしょうか?」
と聞くと、急に考え始めた。

あぁ、お茶が冷めるわ。
決まってないなら、いいや。他人の恋愛に首を突っ込むほど面倒なことはない。自分の恋愛さえ処理できないほど、恋愛能力低いのに。

「では、お忙しい所、貴重なお話ありがとうございました。どうかこのペンダントは、ヒョーガル王子様の元に届くようお願い出来ますか?」
と頼んだ。

レオナルド王子様が、考えていた顔から、一瞬ハッと気づいた顔になって、私を見てから私が差し出した物をまた私の前に、押し戻した。

なんじゃこれは!

「いや、これは、ミルフィーナ嬢のものだ。預かる事は出来ない。絶対に!あいつとは、剣術大会でボロカスにされた。王宮で打ち合った時も隠しやがって。全て考えてのことか、そうか、だから王族の衣装も着なかったのか。もう今日は終了だ」

突然立ち上がり、サロンを退出する。
何かよくわからないけど、勝手に盛り上がって、元気になって行ってしまった。受け取ってもらえなかったペンダントが残り、メイドが片付け始めた。

全く勝手な王子だ。
いや、どこの国の王子も勝手だ。
と、私はペンダントの入った袋をまた手の中に入れた。
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