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35 剣術大会
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兄様から聞いた話では、ラザリーさん、かなりヤバい奴認定です。
「お嬢様、どうでしたか青い鳥の髪留めの効果は?」
「わからないわ。でもあちらからの攻撃はされなかったわ」
「攻撃って、そんな剣術でもないでしょうに!でも、良かったですね」
とラーニャは満足そうに言った。
「でもやっぱり、」
と私は言い澱んだ。それは、アリサさんに悪い事をしたという言葉が続く。ヒロインの代わりはしたくない、出来ない、そんな気持ち。
「まずは、きちんと安全、お嬢様らしくそのラザリーさんに惑わされないような地位を確保をしてからにされるべきでは?」
とラーニャに言われて、
「そうね、きっと変わった方だから言葉に信用がなければ、論破しても大丈夫かもしれないわ。私が勝手にヒロイン2号と言っているだけだから」
と今だけのヒロインアイテム装着と自分に言い聞かせた。
新入生歓迎の剣術大会がいよいよ今日行われる。
やっとヒョーガル王子を見れる。たまに廊下ですれ違うのではないかと廊下に出てみたりしたが、全く会うことは無かった。
「偶然なんて、そうないもの」
と笑ってしまう。
思ったより上級生の壁は厚い。王子様に突っ込んでいくラザリーさんがどんだけ他者の視線なんて気にしないで、我が道を進んでいるのか、強心臓の持ち主だとわかる。
そしてあの日渡しそびれたハンカチ。引き出しにしまったそれを手にした。なんとなく今日は、これを持っていこうと決めた。
たかが応援なんだけど…
朝食を食べていれば、お父様から
「学校はどうだい?」
なんて聞かれ、思わず、
「初日に失敗してしまって、完全に猫被りの令嬢になってしまいました」
と言えば、お父様はあまり笑わず、
「そうか。今日は騒がしくなりつつあるが、ミルフィーナ、首を突っ込まないでくれよ」
と言った。
どういうことだろう?
「はい」
と静かに答えた。
学校につけば、今日は剣術大会だからかみんなウキウキしていた。
「決勝は、レオナルド王子様対アルフィン様だな」
と誰かが言った。
クゥーー言ってやりたい。
アルフィンに勝ったヒョーガル王子がいますけど!ってね。
まぁトモホーク王国の方だから知られてないだろうけど。
新入生は並んで剣術大会の建物に入るのだが、ラザリーさんがそわそわしていた。ちらちらとピンク色のカチューシャが動いている。
カリナ様が、
「あれは何かするつもりでしょうか?」
並んでいる最中にも手足を動かし、先に行きたいとアピールしているように見えた。
関わらない。
隣の席だけどなるべく必要以上に関わらない意識をしている。先生がいる時、ラザリーさんは、目を向けられた要注意人物のようで、立ち上がれば、すぐ座るよう注意が飛んでくる。
もう見張られている状態だ。
それでも不思議なことにクラスの男の子の人気は高いらしく、朝、来ても男子グループに入っている。
可愛いらしい方だから男の子受けはいいのかな。
こういうのがヒロイン気質なのかな?
しかしその分、女子からは嫌がられているけど。
私は、嫌がらせも悪口も言っていないが、最初のように私のせいにされても困るので、結局青い鳥の髪留め、ヒロインアイテムは使用していた。
席に座ろうとすれば、ラザリーさんは、一番前でどの席にするか悩み、他の人が座れないでいる。何人かの男子生徒が、空いている席に座ると、
「あ、その席が良かったのに~」
と言う。本当にそれ言うんだと感心してしまった。ようやく私も席が決まり、ドキドキする。
生徒会から話があり、選手が入場すれば盛り上がりも凄い。
黒髪は目立つ。
3.4か月ぐらい会わなかっただけなのに、ヒョーガル王子は、背が伸びたように感じる。また前髪が目にかかっていた。
ふふっ
久しぶりに見てやっぱり、所作の美しさを見れば王子様そのもの。
嫌だわ、他の女生徒が「あの方かっこいい」なんて騒ぎ始めたから、私が街中で見つけたのですよ、と言いたくなった。すぐにマウントを取ろうとするなんて恥ずかしい。
勝ち抜き戦と言われ、表が出た。
生徒会による手書きが正面、新入生の後ろ、在校生の横側にも貼り出された。
歓声が聞こえだけど、表を見に行くなんてお嬢様の振りをしている私には出来ない。仕方ないし、すごく見たいけど!
私も一緒になってあぁだこうだ言いたい!
でも自分が被ったお嬢様風の猫が、めちゃくちゃ重い。
他の令嬢にも話しかけられてもただ笑って答えた。
私は応援しているから、心の中でね。
「ヒョーガル王子頑張れ」
ってね。
ラザリーさんは、黄色い歓声をあげ、レオナルド王子様の応援に熱がある。
「下品ですわね、わざと目立とうとしているのかしら?」
聞こえてくる女生徒の陰口。
そんな台詞を聞くとドキッとする。その台詞も私が言ったことにされるとしたら、最悪だ。
世の中の悪役令嬢って本人と関係なしに周りの声をまとめられて作られているんじゃないかしら。
「一回戦」
試合場が4箇所で、一斉に8名が並び礼をした後、各試合場所に移動した。準備を終えた組み合わせから試合が始まった。
模擬剣の音が響く。
彼方此方からの熱気や声援が一つのムーブになって盛り上がる。
みんな正面の試合しか見ていない。下の選手の方を見たら、黒髪の人がこちら見ている気がした。
自惚れも過ぎるけど、目が合う。いや感覚だけ、その他大勢の私なんて目に入るわけない。そんな当たり前なのに、何故か試合よりもヒョーガル王子が呼んでいる気がした。
歓声がまた上がる、次、次試合が終わる。そして始まる。
ヒョーガル王子が視線を切って試合の場に移動した。
私の目は、彼しか追ってない。これは、私が発見したとか、自分の家に同居していたという縁だけの感情…なの
そんな事を考える暇も与えない程、圧倒的で瞬殺で美しかった。一斉に会場が沸いた。言葉じゃない雄叫びに近い声を感じる。
「凄い」
それしか出なかった。
そして圧倒的に勝ち抜き、アルフィン様とヒョーガル王子様の準決勝。レオナルド王子様も勝ち上がっている、きっとアルフィン様、以前と同様に削ってくるだろう。
手に力が入る。
「始め」
の言葉に相手の剣が明らかに下、脚を狙っていた、ヒョーガル王子は、うちあいより一歩後ろに下がってから横に周りこむ撹乱の剣でアルフィン様に肩や胴、脚と当てては、下がり最後、首元に剣を当てた。
歓声は出ずに鎮まり、唾を飲み込んだ後破れんばかりの歓声が上がった。
圧倒的だった。全く当たらずアルフィン様が膝をついて何も出来なかったことを剣を握りしめ悔しがっている様子だ。ヒョーガル王子は、何を考えてるかはわからないが、立ち姿は絶対的な勝利者だ。
「良かった」
呟く一言はそれだけ、でもぎゅーと握りしめた手のひらは痛かった。
次は、決勝戦、レオナルド王子様との試合だ。
でも、これが最後か、
なかなか会えない。合法的にこんなふうに見れる機会がまたなくなる。
そう思うと、途端に胸が苦しくて痛くて、決勝戦が終わらなくていい、やらなくていいと思う理由は何なんだろう。
そんな事を考えていれば、やっぱり、ヒョーガル王子はこちらを見た気がする。
何も言わないけど、何か伝えようとしているのかな。
ただ時間は、あっという間に過ぎるし、会場は一番盛り上がっているし、私の握った手は痛いし、ただ見つめることしか出来なかった。
勝負はあっという間だった。ヒョーガル王子が先程とは違い、引かずに一気に距離を詰めてレオナルド王子の剣を祓い、胴の深い位置に入って終了。あっと言う間だった。
「王国騎士の戦い方じゃない」
と誰かが言った。
だから何?
勝負に一瞬の隙を突くのは当たり前じゃない。
これは練習じゃなくて試合なのよ。
「ミルフィーナ様、どうされたのですか?何か不都合ありましたか?」
と隣の席にいたカリナ様に言われた。
あっ、また口元が緩んでしまった。
私は取り繕って笑い、誤魔化す事に汗をかきながら、言い訳をする。
それでも会場は盛り上がって、新入生歓迎の剣術大会は終了した。
「お嬢様、どうでしたか青い鳥の髪留めの効果は?」
「わからないわ。でもあちらからの攻撃はされなかったわ」
「攻撃って、そんな剣術でもないでしょうに!でも、良かったですね」
とラーニャは満足そうに言った。
「でもやっぱり、」
と私は言い澱んだ。それは、アリサさんに悪い事をしたという言葉が続く。ヒロインの代わりはしたくない、出来ない、そんな気持ち。
「まずは、きちんと安全、お嬢様らしくそのラザリーさんに惑わされないような地位を確保をしてからにされるべきでは?」
とラーニャに言われて、
「そうね、きっと変わった方だから言葉に信用がなければ、論破しても大丈夫かもしれないわ。私が勝手にヒロイン2号と言っているだけだから」
と今だけのヒロインアイテム装着と自分に言い聞かせた。
新入生歓迎の剣術大会がいよいよ今日行われる。
やっとヒョーガル王子を見れる。たまに廊下ですれ違うのではないかと廊下に出てみたりしたが、全く会うことは無かった。
「偶然なんて、そうないもの」
と笑ってしまう。
思ったより上級生の壁は厚い。王子様に突っ込んでいくラザリーさんがどんだけ他者の視線なんて気にしないで、我が道を進んでいるのか、強心臓の持ち主だとわかる。
そしてあの日渡しそびれたハンカチ。引き出しにしまったそれを手にした。なんとなく今日は、これを持っていこうと決めた。
たかが応援なんだけど…
朝食を食べていれば、お父様から
「学校はどうだい?」
なんて聞かれ、思わず、
「初日に失敗してしまって、完全に猫被りの令嬢になってしまいました」
と言えば、お父様はあまり笑わず、
「そうか。今日は騒がしくなりつつあるが、ミルフィーナ、首を突っ込まないでくれよ」
と言った。
どういうことだろう?
「はい」
と静かに答えた。
学校につけば、今日は剣術大会だからかみんなウキウキしていた。
「決勝は、レオナルド王子様対アルフィン様だな」
と誰かが言った。
クゥーー言ってやりたい。
アルフィンに勝ったヒョーガル王子がいますけど!ってね。
まぁトモホーク王国の方だから知られてないだろうけど。
新入生は並んで剣術大会の建物に入るのだが、ラザリーさんがそわそわしていた。ちらちらとピンク色のカチューシャが動いている。
カリナ様が、
「あれは何かするつもりでしょうか?」
並んでいる最中にも手足を動かし、先に行きたいとアピールしているように見えた。
関わらない。
隣の席だけどなるべく必要以上に関わらない意識をしている。先生がいる時、ラザリーさんは、目を向けられた要注意人物のようで、立ち上がれば、すぐ座るよう注意が飛んでくる。
もう見張られている状態だ。
それでも不思議なことにクラスの男の子の人気は高いらしく、朝、来ても男子グループに入っている。
可愛いらしい方だから男の子受けはいいのかな。
こういうのがヒロイン気質なのかな?
しかしその分、女子からは嫌がられているけど。
私は、嫌がらせも悪口も言っていないが、最初のように私のせいにされても困るので、結局青い鳥の髪留め、ヒロインアイテムは使用していた。
席に座ろうとすれば、ラザリーさんは、一番前でどの席にするか悩み、他の人が座れないでいる。何人かの男子生徒が、空いている席に座ると、
「あ、その席が良かったのに~」
と言う。本当にそれ言うんだと感心してしまった。ようやく私も席が決まり、ドキドキする。
生徒会から話があり、選手が入場すれば盛り上がりも凄い。
黒髪は目立つ。
3.4か月ぐらい会わなかっただけなのに、ヒョーガル王子は、背が伸びたように感じる。また前髪が目にかかっていた。
ふふっ
久しぶりに見てやっぱり、所作の美しさを見れば王子様そのもの。
嫌だわ、他の女生徒が「あの方かっこいい」なんて騒ぎ始めたから、私が街中で見つけたのですよ、と言いたくなった。すぐにマウントを取ろうとするなんて恥ずかしい。
勝ち抜き戦と言われ、表が出た。
生徒会による手書きが正面、新入生の後ろ、在校生の横側にも貼り出された。
歓声が聞こえだけど、表を見に行くなんてお嬢様の振りをしている私には出来ない。仕方ないし、すごく見たいけど!
私も一緒になってあぁだこうだ言いたい!
でも自分が被ったお嬢様風の猫が、めちゃくちゃ重い。
他の令嬢にも話しかけられてもただ笑って答えた。
私は応援しているから、心の中でね。
「ヒョーガル王子頑張れ」
ってね。
ラザリーさんは、黄色い歓声をあげ、レオナルド王子様の応援に熱がある。
「下品ですわね、わざと目立とうとしているのかしら?」
聞こえてくる女生徒の陰口。
そんな台詞を聞くとドキッとする。その台詞も私が言ったことにされるとしたら、最悪だ。
世の中の悪役令嬢って本人と関係なしに周りの声をまとめられて作られているんじゃないかしら。
「一回戦」
試合場が4箇所で、一斉に8名が並び礼をした後、各試合場所に移動した。準備を終えた組み合わせから試合が始まった。
模擬剣の音が響く。
彼方此方からの熱気や声援が一つのムーブになって盛り上がる。
みんな正面の試合しか見ていない。下の選手の方を見たら、黒髪の人がこちら見ている気がした。
自惚れも過ぎるけど、目が合う。いや感覚だけ、その他大勢の私なんて目に入るわけない。そんな当たり前なのに、何故か試合よりもヒョーガル王子が呼んでいる気がした。
歓声がまた上がる、次、次試合が終わる。そして始まる。
ヒョーガル王子が視線を切って試合の場に移動した。
私の目は、彼しか追ってない。これは、私が発見したとか、自分の家に同居していたという縁だけの感情…なの
そんな事を考える暇も与えない程、圧倒的で瞬殺で美しかった。一斉に会場が沸いた。言葉じゃない雄叫びに近い声を感じる。
「凄い」
それしか出なかった。
そして圧倒的に勝ち抜き、アルフィン様とヒョーガル王子様の準決勝。レオナルド王子様も勝ち上がっている、きっとアルフィン様、以前と同様に削ってくるだろう。
手に力が入る。
「始め」
の言葉に相手の剣が明らかに下、脚を狙っていた、ヒョーガル王子は、うちあいより一歩後ろに下がってから横に周りこむ撹乱の剣でアルフィン様に肩や胴、脚と当てては、下がり最後、首元に剣を当てた。
歓声は出ずに鎮まり、唾を飲み込んだ後破れんばかりの歓声が上がった。
圧倒的だった。全く当たらずアルフィン様が膝をついて何も出来なかったことを剣を握りしめ悔しがっている様子だ。ヒョーガル王子は、何を考えてるかはわからないが、立ち姿は絶対的な勝利者だ。
「良かった」
呟く一言はそれだけ、でもぎゅーと握りしめた手のひらは痛かった。
次は、決勝戦、レオナルド王子様との試合だ。
でも、これが最後か、
なかなか会えない。合法的にこんなふうに見れる機会がまたなくなる。
そう思うと、途端に胸が苦しくて痛くて、決勝戦が終わらなくていい、やらなくていいと思う理由は何なんだろう。
そんな事を考えていれば、やっぱり、ヒョーガル王子はこちらを見た気がする。
何も言わないけど、何か伝えようとしているのかな。
ただ時間は、あっという間に過ぎるし、会場は一番盛り上がっているし、私の握った手は痛いし、ただ見つめることしか出来なかった。
勝負はあっという間だった。ヒョーガル王子が先程とは違い、引かずに一気に距離を詰めてレオナルド王子の剣を祓い、胴の深い位置に入って終了。あっと言う間だった。
「王国騎士の戦い方じゃない」
と誰かが言った。
だから何?
勝負に一瞬の隙を突くのは当たり前じゃない。
これは練習じゃなくて試合なのよ。
「ミルフィーナ様、どうされたのですか?何か不都合ありましたか?」
と隣の席にいたカリナ様に言われた。
あっ、また口元が緩んでしまった。
私は取り繕って笑い、誤魔化す事に汗をかきながら、言い訳をする。
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