プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり

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30 入学式は始まりです?

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新しい制服が、クローゼットに並んだ。
そして、処分出来なかったハンカチは、引き出しの中にある。
明日は、入学式、もちろん自分でこのハンカチを使ってもいいと思っている。濡れたといっても水差しの水、汚くはない。

まぁ、言い訳なんだが。捨てれない言い訳。

「お嬢様、明日は青い鳥の髪留めつけていかれますか?」
「まさか、つけないわ」
「どうしてですか?本当にあの髪留めつけると勉強が捗るなんてびっくりですよ。家庭教師の先生が、驚いてましたからね。お嬢様に全過程を教えきれましたって!エルフィン様と同じレベルまで達したと泣いて喜んでましたよ」

「確かにね、怒涛の追い上げって言われたわ」

小さい頃から努力をしてきた兄様には悪いとは少しだけ思っている。ヒロインアイテム、これは私の小遣いで買ったので個人資産、当然の権利を主張する!

「まさしくですよ。ヒョーガル王子様が来るまで、隣国の事だって知らなかったじゃないですか?周辺国家まで終わらせたなんて素晴らしいと思います」
とラーニャは笑顔で言う。

さぁ、そんな辛かった思い出は忘れさせて!いや、忘れたらまた勉強し直しになるから知識よ、出ていかないで!

その中でもトモホーク王国の情勢は気になった。もうすでに国王が実権を手放し、王弟派が国を統治しているそうだ。ヒョーガル王子は、国に帰っても第一王子ではなくなると先生から聞いた。


「お嬢様、髪型はどうしますか?髪留めつけないならリボンにしますか?」
「いえ、学校で目立ちたくないわ。そういった飾りは一切無用よ。両サイドを三つ編みにして、まとめて結い上げて!髪の毛は垂らさなくていいわ」

地味路線でいこう。目立たず、声を上げず、クラスメイトの一人として存在するわ。

乙女ゲームの私の悪役令嬢は髪を垂らしていた。つけていた髪留めは花をモチーフにしたもの。何の花かは覚えていないけど。

「えっ、お嬢様、そんなシスターや使用人のような髪型じゃなくて、もっと14歳らしい女の子っぽいのにしましょうよ」
と言われたが、
「ごめんね、ラーニャ。学校に入学してまず様子見よ。アリサさんはいないけど、時系列が色々おかしくなっているから予想がつかないの。だから目立つような真似はしたくない」
と答えた。

ラーニャは呆れながら、聞いた。
「例の乙女ゲームの悪役令嬢ですか?」

「うん」

『婚約話』結局マリネッセ様とレオナルド王子様の婚約は発表されてない。まだ筆頭婚約者候補。マリネッセ様は、それを悲観していない。心ここにあらずな様子らしい。

本編に身を投じて見ないとわからない。
そしてもし乙女ゲームの世界なら、やっとプロローグの終了。
「ねぇ、ラーニャ、アリサさんから手紙が来なかったわね。バードナー伯爵様のお屋敷で幸せなのかしら?」
と言えば、ラーニャは笑って、
「そうですね」
と言った。

ラーニャは黙っていた。アリサ様から来た手紙は、誰宛の物でも必ず執事長に渡さないといけない。
そしてアリサ様の手紙は、一週間ごとに届く。奥様が何度かお返事を送られているが、それだけ。
奥様以外、誰も内容を知らない。


「今日からボルドート王立学校に一緒に通うんだね。目立つようなことは、止めてくれよ。生徒会として注意しなければいけなくなる」

この地味路線を見て、それでも注意してくる真面目さ、流石兄様!

お兄様とレオナ様は三年生で生徒会メンバーに選ばれた。お兄様は会計で、レオナ様が副会長。
「もちろん、兄様に恥をかかせないよう気をつけます」
入学式ももちろん生徒会メンバーは、仕切ってくれるらしい。本来は早くに準備するところ、レオナ様が兄様は私と一緒でいいとの心遣い、大変ありがたい存在です。
ヒョーガル王子様にも久しぶりに会えるかもしれない。ドキドキする。


やっぱり、髪型は可愛い方がいいかな。新入生らしくとも考えたけど、ゲームが終了したかどうか、本編の始まりを見ないことには。


学校の門を潜る。兄様が前を歩く。後ろをついていくと太陽の光が何かに反射して私の目に直撃した。
「ま、眩しい」
「ミルフィーナ、どうした?」
「何か眩しいものが目に入ってきて」
と言えば、濃いピンクのカチューシャに黄色のヒヨコ?鳥がついている茶色のストレートヘアーの女の子が、手鏡で自分の顔を見ていた。
鏡の反射が直撃したわけだ。

「あの子は何を?」
と言うと、兄様が、
「あぁいう子に声をかけるとレオナに怒られるから」
と言った。
「兄様、凄い、成長しましたね。女性のあざとさ、変わり種対策完璧です」
と兄様の後について、スタスタと関わらないように少し回り込む形で、入学式の講堂についた。後ろを振り返るとまだ手鏡をだしている。何故あんな道の真ん中で身だしなみを整えているのだろうか?

「不思議な子。カチューシャが目立ちますね」
と言えば、兄様は既にいなかった。確実に独り言になった。周りを見て恥ずかしくてさっさと講堂に入る。

新入生は前方部分の空いている場所ならどこでもいいらしく端の席に座った。
騒つく中、みんな14歳の同じ歳頃が集まるなんて場所がないから、挙動不審になってしまう。マリネッセ様の派閥の令嬢が偶然近くに座ってくれれば!
なんて願いも虚しく知らない人に囲まれていた。

大人しく座って待っていれば、後方部分に在校生が座り始めたらしく、話し声も大きくなり、レオナ様が注意していた。
「あの女の先輩カッコいいな」
どこからか聞こえた男子生徒の声に私も一票。あんな感じで文学少女なんだから、素敵すぎるのよ、レオナ様は。
本当にお母様は亡くなる前、兄様とレオナ様の婚約が決まったことに喜んでいた。

きっとお母様はお見通しだったんだろうな、レオナ様の優秀さを。

私には最後、
「自分の幸せを望み、笑っていられるミルフィーナでいてね」
と言った。
その意味は、わからないけど、一生懸命勉強してねと言われなかったのは、お母様も私の令嬢としての能力の低さをわかって、私にとって楽が出来る男性を見つけてねって意味かなと思っている。

そんなことを考えてれば、来賓の入場が始まった。先頭にレオナルド王子様がいた。ヒョーガル王子を探したけど、居ない、後ろの在校生にいるんだろうか?

学校長挨拶そして来賓挨拶の代表、レオナルド王子が壇上に上がると、後ろから
「王子~」
と言う可愛いらしい声が聞こえてきた。
なんだなんだと後ろを向いたけど、誰だかはわからない。私の端の席でもみんなが振り返っただけでわからなかった。

ただ、ヤバいやつがいるなと思った。頭に浮かんだのは、兄様と避けたカチューシャの女の子。
まさかとは思うがアリサさんと同タイプの女子か?

いや、まさかね。アリサさんの代理なんて言わないよね。
神様。

嫌な予感を感じながら、レオナルド王子の話は耳に残らない。先程の語尾長めの声に意識していた。

気づけば入学式が終わり、今日はクラス分けを見て、明日からの資料を貰うだけと説明されて解散と言われた。

私はAクラスと認識して配布の資料の列に並んだ。
生徒会メンバーが配っていて、兄様に声をかけた。
「先に帰っていいからね、やっぱりあの子は関わってはいけないタイプだったよ。まさかの新入生なのにレオナルド王子様を追いかけて校舎内に入って行った。今、レオナが連れ戻しに行っているけど、レオナが怒りそうだよ」
と小声で教えてくれた。
兄様にお返しとして、
「最近、レオナ様オレンジなどの柑橘系のフィナンシェがお好みみたいですよ。食べに行くか差し入れがいい案かと思います」
と言えば、兄様は凄く喜んでいる。
兄様も真面目で優しいから、人の喜ぶ顔を想像できる。本当にそういうところ、羨ましい限りです。

お兄様みたいな人が、幸せになれる人だろうな。

それにしてもカチューシャの女の子、レオナルド王子を追っかけたって貴族令嬢的な常識がないって事かな。平民の特待生ってこの学校のシステムにあるのか?
また兄様が帰ってきたら聞けば良いと、全くその子の正体を、調べなかった。
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