プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり

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23 余計なお世話

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王宮の騎士とメイドの目、やばかったな。
王子様なんだから真面目な方が良いに決まっている。

『やってしまった』

話す事止まってしまったのと、あまりに私とかけ離れているのに、別世界の人でいいのに、何故介入しちゃったんだろう。余計なお世話で、要らぬことだし、侯爵令嬢が調子に乗ってしまった。

参った、不敬罪かな。

ハアー
気が重い。

「おかえりなさいませ、お嬢様!」
ラーニャの明るい声が全てに響く。神よ、お許しあれ。
ニコニコしているラーニャに対して、どんよりな私。
「ラーニャ、聞かないの?メイド達の休憩場の話題としてウキウキじゃなくて?」

驚くラーニャがわざとらしい。
「そんなお嬢様、めっそうもありません。お嬢様をつまみにして休憩するなんてことはありません!」

嘘だ。私なら、するね、絶対、他人の失敗談つまみにするね。

「夕食まで休むわ」

 ハアー、みんなに伝えなければ、いけない。私一人が不敬になるのも嫌だけど、仕方ない。
説明したら、恨み節を聞かされそうだ、なら言うのやめるか!
いや、明日、兄様も学校で王子から直接聞くかもしれない。お父様も明日、王宮で叱られるかもしれない。

「後で言われるより、他人に言われるより、家族に今、事実を聞いた方が、叱られるのも浅いか?そもそも私は王子様とお茶の招待を受けたくなかった。始めから全力で拒否していたのに、了承した父も悪い。私もどこか飛ばされてしまうかな。それも平等でいいかもしれない」

私は窓から、ずっと雲の流れを見ていた。ぼぉーとして、最高。
何時間見ても飽きない。空の色が変わる。扉が叩かれた。
「お嬢様、夕食の時間ですよ」
「そう」

「そんな死にそうな顔しないで下さいな。大丈夫ですよ。お嬢様得意の屁理屈論破すれば良いんですよ」
「勘弁してよ。論破できる相手じゃないわ。一家離散の危機かもね」
と言えば、驚愕した顔を見せた。

すみませんラーニャ。事態は、そのぐらい深刻なんです。

ダイニングに入る。
お父様、お義母様、ヒョーガル王子、お兄様、座っている。

私は、お父様の前に立ち、貴族の礼をしながら、まず、詫びた。
「申し訳ございません、お父様」

お父様は、ゆっくり私の肩を叩き、
「失敗したか」
と聞いた。
「はい」
と答えた。お父様の顔が見れない。
だから私には無理だって言ったじゃない?なんて言えないし。

「家族の皆さんにも迷惑をかけてしまうと思います。私にいたっては不敬罪で裁かれるのも覚悟しております」

お父様が溜息を吐いた。
「ミルフィーナ、何をした」
お父様の低い声。
みんなが唾を飲み込む音がした。お兄様が、
「夕食を食べ終わって、ヒョーガル王子様は自室に戻られてからでいいのではありませんか?父様」
と言った。流石、兄、真面目に周りを見て判断してくれた。

「そ、そうだな、そうだ、身内の恥を王子殿下に聞かせるわけにはいかない」
と父様もいい。私は席に着いた。

まぁ、暗いし、料理を口に運ぶのが遅い。ヒョーガル王子は察して、スマートに食べ、すぐに、席を立つ。
「先に失礼する」
流石、黒豹と異名を取るだけあって動きはしなやかにスピードもある。

別な意味で関心した。
「ところで、何をしたんだ」
お父様が重い口を開いた。

「趣味を聞かれて、特にないと答え、レオナルド王子様にもその質問を振ったところ、鍛錬と答えられたのです」
お父様は、
「何も間違っていないじゃないか、真面目な王子殿下で素晴らしいよ」

「はい、真面目ですねと私は答えました」
「あぁ」
「すると、馬鹿にしている?と聞かれて」
と言うと、お父様も自分の口を押さえた。
「いいえ、とんでもないと言ったのですが、ふと、お兄様の真面目さが頭を浮かび、お義母様、すいませんね、少し前の真面目ゆえに騙されるというか利用される姿や言動を見ていたので兄様に聞いて下さいとかもっと余裕を持った方が良いとか余計な事を申し上げてしまいました。みなさん、申し訳ございません」

みんな、サァーと青褪めた。
我が家の爆弾だ私は。
私一人ならまだしも、家族まで巻き込んでしまったらと私は、
「修道院に行きます」
決意した。
たぶんこれでいい。ヒロイン追い出して悪役令嬢だけのほほんと暮らすのはあり得なかった。
私は、修道院に行く。
これで本当にゲーム終了。

お兄様が立ち上がる。そして、
「明日、学校でレオナルド王子様に話しかけてみるよ、大丈夫さ、ミルフィーナ、たかが真面目と言ったぐらいだろう、何とかなる」
と言った。
お兄様、多分、その後半の騙されたり利用された云々あたりが不敬極まりないかと思う。きっと兄様は真面目という部分で耳を閉じたな。
ダイニングから出て行くみんな、現実逃避だ。

「お嬢様、参りましょう」
と、ラーニャに促され、移動する。

翌日の夕食

「父様、申し訳ございませんでした」
兄様が声を震わせながら、謝った。

「学校でレオナルド王子様にお時間を作ってもらったのに関わらず、私は、先生から資料を運ぶのを手伝って欲しいと言われ、断れず、待ち合わせ時間に遅刻し、慌ててしまい、ペラペラと我が家の事情を話してしまいました。私と義妹のアリサの件は、ことのほか笑っておられまして、余計なことを話してさらに助言までしてしまい、後ろに立つ、護衛の側近にも睨まれました」

あー一緒だ。兄様、それ一緒だから。
お父様が頭を抱えている。
兄妹揃ってやらかした。ダルン侯爵家は、離散だろうか?
お兄様は震えている。

ヒョーガル王子様が、
「大丈夫だろう。レオナルド王子様は笑っていたのだろう。きっと大丈夫だ」
とスープを飲む。
お父様は、
「確かに、王宮から、ミルフィーナの苦情は出ていない、不敬罪はないだろう」
というと、お兄様が
「私は…」
「わからん!」


王宮、第一王子執務室

「いや、アルフィン、ダルン侯爵家の兄妹、愉快だなぁ。もっと生活に余裕を持てか。確かに楽しいとも思わない毎日だよ私は。今日聞いたエルフィンの話、義妹に騙されるって、どんだけお人好しなんだよ。私との面会時間なのに、先生の手伝い断れなかったって真面目だなぁ。ミルフィーナ嬢は、兄を真面目と言った。そして私も真面目ですねと言った。うっ!似ているのか?」

「失礼ながら、申し上げますと、殿下ももし先生から荷物を運ぶように言われたら、運ぶと思います」
「確かに、断るわけにはいかないな。先生だし」
「そうですね」
「アルフィン、言いたいことがあれば言ってくれ」
「殿下は、アルフレッド公爵家マリネッセ様を応対すべきかと存じます」
「わかってる。婚約者候補の筆頭だ。早く婚約者を決めなければならない。ハア~、それよりも執務だ。ペンを動かせ」
「はい、殿下」

夜になっても続くこの生活に、楽しいという感情はない。義務、責務。鍛錬。
第一王子だから。


『「例えば、いかにサボろうとか楽したいとかふらっと街に出て屋台で串焼き食べてすぐ帰るとか、誰かに嘘を吐こうとか思わないのですか?」』

ミルフィーナ嬢の言葉が頭の中をぐるぐるまわっている。
ズルイじゃないか、そんな魅惑的な言葉で…
これをしたら、誰かに怒られる、誰かにガッカリされる、毎日しっかりこなさなきゃ、第一王子として陰口を言われる。
いつもそんなことを気にしているだけだ。

真っ暗な夜に溶け込みそうになりながら、ペンの音だけが響いた。
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