プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり

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19 プロローグでヒロインを退場させます3

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アリサside


私は、お母様から部屋を出るなと言われ、メイドが扉の外に待機するようになった。
「冗談じゃないわ。牢獄でもあるまいし、何故私がこんな目にあわなきゃいけないの?」
バードナー伯爵なんて聞いたこともない。私の勘がいっているの、関わっては駄目と。

『違う』

不思議とそれだけはわかる。

料理の方に入ったヒョウという青年、サラに聞いた時から会いたい欲が膨れ上がった。
きっとそういうことだと思う。私と合う合わないで、きっとバードナー伯爵は合わない人だ。
明後日まで見つからなければ、伯爵領に行かないで済むのではないかしら?
きっとお義父様もそんなに嫌ならと考え直して下さるわ。
だって家族だもの。

まず、メイドの監視をくぐり抜けなくてはいけないわ。
交代の時かしら?

荷物を入れましょう。鞄に先日買ったワンピースや髪留めや靴に帽子。
入らない。
サラを呼ぶにも、外のメイドを通さないと無理。
帽子は諦めることにした。靴は今履けば良い。お気に入りのワンピースを着た。

気づくとお金がない。

「先日使い切ってしまったわ。使用人の酒代、あれが高くついたわ」
と後悔をしながらも、お金がなければ、宿に泊まれない。

宝石を売ろう。

この間の公爵家の茶会につけたネックレスやイヤリングを鞄に入れた。
これは、侯爵家に引っ越してきて商人から買った物。ほぼ新品だ。
「きっとこれで大丈夫ね」
と交代のタイミングを扉の外で耳をすます。
眠い目を擦りながら、誰も居なくなったタイミングで廊下に出た。朝ならば調理場でヒョウに会えるかもしれない、そう思った。

調理場で待っていれば、ダラダラと歩いてきた年配の男性と蜂蜜色の髪の毛の男性が話している。
「あの若い方がヒョウ?サラの感覚おかしいんじゃないかしら?平民の感覚だとあれがカッコいいに当たるのかしら。はぁ~ダメね、サラとは好みが違うし、あの子の言う話を鵜呑みにした私が馬鹿だったのかしら」
と調理場を見ていると扉が開いたままに倉庫に食材を取りに行っていた。

「今ね」

簡単ね、家を出るのなんて。

歩いて歩いて、街に出た。履き慣れていないヒールの靴に苦戦した。靴擦れも酷い。最近馬車にしか乗らないから歩くことを忘れて、こんなおしゃれな靴を履いてきた。

「ここまで歩くのも大変だったわ。早く宿屋に行きたいし、いい匂いがするし、お腹も空いた」
とお金を持ってない。質屋に行かなければとまず骨董品店で宝石を見てもらう。

「そうだね。中古扱いで全部で銀貨5枚かな」
「そんな本物なんです。私侯爵家の娘ですし、一度しか使ってないんです」
宿屋の値段がわからないけど二日泊まりたい、食事もとりたい。もっと高く買ったはずだ、何故こんなに安いの!
「おかしいわ!」
と言って骨董品店を出る。まだ宝石店もある。

「いや、銀貨3枚かな」
「さっきの店より安いじゃないの」

まだ商人のいる商会がある。

「銀貨3枚」
「なら、私、骨董品に戻るわ。あそこは銀貨5枚と言ってくれたもの」
これでこの店でも銀貨5枚にしてくれるはず。
「そうだね、骨董品店の方がいいよ」
と言われた。
なんでよ!どうして高く買ってくれないの?

ガツ
肩がぶつかった。
「痛い!」
と声を上げた瞬間に突然鞄が引っ張っられ取られた。
「泥棒~!」
声に出したが、私の鞄はずっと前に進んでしまった。足が痛くて追うことも出来ない。

誰も助けてくれない。

荷物が取られた。骨董品店に行けなくなった。足の痛みがズキズキする。
足の痛みを考えたくないのに、もう嫌だ、誰か助けて!

その場に座り込んでも誰も手を貸してくれない。酷い。
誰のせい?
助けないのはどうして?私、侯爵令嬢よ!
「助けなさいよ」
「私、侯爵令嬢なのよ!」

ぐるぐる繰り返すこの嫌な感情に不安と痛みが巻き付いて、何か私の真ん中が痛い。

お腹も空いた。足も痛い。
お金もない。

結局、帰るしかない。

エルフィン兄様!
彼に頼ろう。部屋に匿ってもらえばいいわ。
エルフィン兄様なら私の気持ちがわかってくれるはず。
大丈夫。
何とかしてくれる。

ゆっくり痛む足を動かして進む。
靴擦れの足は、血が出ていた。
朝より倍の時間がかかったと思う。
裏口に誰もいない事を確認してから、靴を脱ぎ、痛む足で兄様の部屋を目指した。

扉に手をかけると、メイドが二名現れ両手を抱えられた。
「待って、エルフィン兄様に!ねぇ、ちょっと~待ちなさいよ!」

そしてお母様の部屋に連れて行かれた。

「何故なのアリサ!こんなに迷惑をかけるなんてどういうつもり!」
お母様の剣幕が凄い。

そんなつもりはなかったと言おうか?
こんな怒っている人を前にして、何を言ったら気が鎮まるか考えているのに足の痛みが涙を引き出し、

「私、やっぱりバードナー伯爵とは結婚出来ません」

正直に言った。大丈夫よ、お母様ならわかってくれる。そう信じて。

「アリサ、バードナー伯爵のところに行かなければ、あなたは修道院に行く事が決まりました」
えっ!?
「な、何故、お母様、そんなの酷い!修道院なんて」
「すぐに出発してもらうわ」

お母様は本気だ。
私に時間をくれる隙を与えないつもりだ。荷物も食事も与えないで、連れて行こうとしている。

「わかったわ、わかりました。明日バードナー伯爵領に向かいます」

私は宣言した。あまりにもお母様が怖くて。

『どうしてこうなった?』

二年間の花嫁修行、伯爵家に行けば、結婚まで時間がある。まだ戻ってこれる機会はいくらでもあるわ。花嫁修行が何をするのかわからないけど、みんなと仲良くすれば、私のお願いを叶えてくれるかもしれない。

希望があるわ。
本当に?
大丈夫?
誰かが言うのよ。

お母様の吊り上がった目が落ちつき、私をみんながいるダイニングに連れて行ってくれた。

「みなさん、アリサがご迷惑をお掛けしました。無事明日バードナー伯爵家に出発します。今日は、アリサの送別会だと思って、今までのことお許しください」
とお母様は謝った。

すぐ帰って来ますと言いづらくなってしまった。
瞳に涙を溜めて、お義父様を見たが、怒っているのは、明らかで、今は何を言っても駄目だ。
エルフィン兄様もミルフィーナ姉様も私を見ない。

仕方なく、
「行って来ます」
と一言挨拶した。

丸一日ぶりの食事はとても美味しい。
わざわざ街に出ないで隠れていれば良かった。馬鹿なことをしたと痛む足を引きずる。

お風呂でしっかり疲れを取った。昨日ほとんど寝ていないので睡魔がくる。
ずっと誰かが言うの、本当に行くのって囁く人は誰?

扉がガシャンと音がした。
「何の音?」
聞くと錠前だと言われた。
すっかり信用もない。
お母様は、この家に来てすっかり変わってしまった。
それが悲しい。前は私のやることに何も言わなかったのに。

今日は眠い。明日のことは明日考えよう。


「では、行ってまいります。エルフィン兄様、お願いですからお手紙を必ずくださいね。私あちらで一人になりますから必ず手紙をください」
と潤んだ瞳でエルフィン兄様の服を掴み、最後の抵抗を図ってみたけど、反応が薄かった。

『おかしいな?』
『どうしたのかしら?』
『学校に行かなくていいの?』
『君を大好きな人達が待っているかもよ』
また誰かが囁いた。
たくさんの質問を投げかけられているみたいなのに、ただ私は何も答えられないまま、気持ちを何かで流されているみたいだった。

何度兄様を見ても、手を差し出してくれない。そのまま馬車に乗る。
扉が閉まった。

『ねぇ、どうしてこうなったの?』

まるで何か目の前の光景に、ストンっとガラスの板が落ちたように遮断された。

馬車が動き出す。
誰ももういない。

「お母様、私が、一体何したっていうの?誰が悪いの?私、意地悪されているんじゃないの?ねぇ、お母様、調べて!絶対何か変よ!」

私の言葉は、お母様の溜息と説教で踏み潰された。
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