プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり

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12 黒豹の正体

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「ご本人に聞いて下さい」
と執事長に言おうか、知らないヤツ連れて来たとなれば怪しむに決まっている。困っていれば、執事長の後ろから、ラーニャが来て、
「ヒョウさんです!」
と言った。
ナイスタイミング!
と心で叫んだ。
でもこのままでいいのか?隣国の王子にジャガイモの皮むきだの肉の下処理などさせていいのだろうか?

執事長は疑う顔を見せたが、一旦そういうもの全部飲み込んでくれた。それが、
「お嬢様、旦那様には説明をしてくださいね」
という言葉だ。

「やりましたね、お嬢様!私、良いタイミングでしたね」
と得意気な顔で私に言ってきたが、そうなんだけど何か褒めたくない感情。
「ラーニャ、そろそろあなたも嫁入りを考えるべきなのに、やりましたね!はないわよ。得意気な顔は良くないと思うわ」
と言えば、ラーニャは少し膨れた。そういうところが可愛いのだけど。
「ヒョウさんっておいくつなんですか?」
と聞かれて、
「さぁわからないわ、それよりヒョウさんって、本人が言ったの?」
「はい、調理場で自己紹介の時に」
「黒豹だからヒョウなのかしら?王子のくせに安直ね」
「お嬢様こそ、もし仮にあの黒豹さんが王子様だとして、安直なんて言ったら、不敬罪ですし、だから婚約者がいないんですよ、きっと」

な、違うし、一応打診はあったけど、乙女ゲームやアリサさん調べていて攻略対象者だったし、悪役令嬢と破棄騒動なんてベストマッチすぎて、お父様に屁理屈こねて断ったんだけど!
と言いたい。
しかし今日は疲れた。
もう駄目だ。働きすぎだ。

ベッドに仰向けで倒れる。

「お嬢様、全くもう!令嬢らしからぬと言われますよ」
「知っているわ。悪役令嬢ですもの。少しだけ」
とラーニャに、甘えた。

やることを整理する。
まず、黒豹の名前を調べる。トモホーク王国について。
「さぁ、歴史書と近隣の地図と貴族名鑑を用意しましょう」

机に向かい、トモホーク王国の場所を確認。確かに北に位置していた。北の森から広がる山脈がある。ここを越えたということだ。
何故?は置いておこう。
王族名鑑に載っていた、第一王子ヒョーガル・トモホーク。ヒョウも入ってるんだ!

そう、私はこの乙女ゲームを、クリアしていない。ちょうどヒロイン、アリサが黒豹に祈りを捧げて記憶が戻った所でやめてしまったと思う。
ここらへんが曖昧で私は自分がその時誰だったかも何をしていたかも知らない。
ただお母様が亡くなって、この世界が乙女ゲームだと気づいただけ。

さぁ、お父様になんて言おうか?

夕食では、アリサさんが私にお茶を断られ、街に一緒に行くことも断られたとみんなの前で嘆いている。
アリサさんの視線は、チラチラお兄様を気にしながら。
お兄様はガン無視。顔色一つ変えない。やれば出来るじゃないか兄様!
さては、学校でもレオナ様に言われたのではないか?
お義母様は、お父様とアリサさんを交互に見ながら顔色が悪い。婚約者を選定中なのだから、少しでも良い所に娘を送りたい、親心だと思う。

私は、申し訳無さそうに、
「アリサさん、ごめんなさいね。マリネッセ様のレターセットを買うのに迷ってしまって、アリサさんにお土産も買いそびれてしまったわ。街だけでなく外出する時は前日にメイドか執事長に声をかけるのが、我が家の約束になってますよ」
と言えば、
「知らなかったんですもの、お母様」
と相槌を可愛いく求めた。
「アリサ、子爵家でもそうだったでしょう。何故あなたは…」
お義母様の声が萎んでしまった。
可哀想だ。
でも貴族の常識を教えなかったのは、お義母様であり使用人達。
ここでも何故?になってしまうが、この性格と気質や常識を知らないってところがヒロインである理由なのかも知れない。

アリサさんも怒られている事はわかるらしく黙って食事をし始めた。

食事を終え、私は、執事長にお父様との時間を取って頂きたいと申し入れた。

「お父様、失礼します」
「さっきのアリサのことならわかっているよ」
と作業しながら話す。
「いいえ、とても大事な話です。アリサさん以上に。今、我が家にはトモホーク王国、第一王子ヒョーガル・トモホーク殿下がいます」
と言うと、部屋は無音になり、

「何を馬鹿な事を!冗談はよせ!」

「お父様には迷惑をかけていることは十分承知しています。私は、予知夢のようなものをお母様が亡くなってから見たのです。二年前に!信じていただけないのはわかっていて、それでも言わないといけない、見て見ぬふりは出来なかったのです。お願いします。トモホーク王国の第一王子様が行方不明者になってないか調べて下さい。北の森で見つかったと本人は言っております」

「本人が言っているなら何故身元を警備隊に言わない」
と不信感を露わにする。それでも引き下がれない。
「彼は記憶喪失です。自分が王子なんて思っておりません。だけど唯一、彼には王族の証拠のペンダントを持っています。私の夢では、我が国の第一王子レオナルド様の持つ指輪にペンダントが反応するはずなのです。こちらも王族同士の決め事なのかわかりませんが、夢で見たんです」
「馬鹿な事を言うな。それが拾ってきた使用人ということだな。ミルフィーナ、少し勝手が過ぎるぞ!」

重なってしまったのだからしょうがないじゃないか!

「わかっております。しかし調べるだけ調べてみてください。彼は北の森で盗賊団に拾われたのです。そちらに戻すわけには参りません」
「は!?盗賊?…一体どうしたって言うんだ?ミルフィーナ。そんな夢見がちな娘ではなかっただろう…」
と言いながらも頭を抱えた、お父様。

アリサさんのこともあって、私が突然とんでもないことを言い出せばそうなるに決まっている。

「ごめんなさい」
私もぼそりと言った。
お父様が顔を上げた。
「いや、今までミルフィーナはそんな夢みたいなことを言う子供ではなかった。確かに夢を見た人物に、今回連れてきた使用人が似ていたから、驚いて連れて来てしまったのではないか。ただ馬鹿な事は言うのはこれで終わりだ」
「お父様…」

これは駄目だ。
お父様の両肩が、がっつり落ちている。これ以上言っても意味がないし、聞く耳を持ってくれてない。

惚れ薬という薬物もあるし、これからどうしよう。



執務室では、
「フレデリック、いるか?」
「はい、旦那様」
ハアー深い溜息をついたあと、
「今日新しくミルフィーナが入れた使用人はどうだ?」
「ヒョウと申します青年ですね。スラリとした体型で前髪で顔を隠しておりますが、かなり見目麗しいかと」
「ミルフィーナが顔に惚れたから連れてきたと?」
「いえ、ミルフィーナ様は一度も調理場にも使用人部屋にも訪ねてきてはおりません。それから、旦那様、私の個人的感想なのですが、ヒョウという青年、立ち振る舞いに気品や洗練された作法を感じるのです。どこかの貴族なのではないでしょうか?」

「本気で言っているのか?フレデリック。…
ミルフィーナが夢を見たというのだ。隣国トモホークの第一王子、ヒョーガル殿下が北の森で盗賊団に拾われると。二年前に見た夢だとか」
「夢ですか?しかしミルフィーナ様がそんなとんでもない事を今まで言ってこられませんでした」

大きな溜息と共に、
「わかってはいる。何故今まで黙っていたか、きっと本人も夢で片付けていたのだろうし、調べるだけ調べよう。フレデリック、その男の監視を頼む」
と未だ半信半疑だが、存在しているかだけ調べてみようと思った。
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