【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり

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39落とし穴3

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「卒業生の皆様、おめでとうございます」
副会長のエリオンが、送辞を述べた。とても素敵な笑顔な会長のサミエルから卒業の言葉が話された。
生徒会メンバーから卒業するのは、サミエルさんとローズリーさんだった。ナダルさんが会長になるかと思ったが、ここでも身分差があるらしく、エリオンが会長になった。
和やかに進むパーティー。
ルイーゼがいないだけでサラとリリアンは見る影がないくらい存在感が薄い。これは、本当に不思議なんだけど、ルイーゼの悪役令嬢がいなくなった後、すぐに似たような扇子を口元に当てて、廊下を取り巻きを連れて歩く令嬢がいたことだ。それが、サミエル会長の妹、カレンさんそして従姉妹のコルンさんも取り巻きのように行動するようになった。いつもそんな感じだったのか、ルイーゼが、強烈過ぎて目立たなかったのかわからない。
でも、確かにルイーゼの高笑いや高圧的態度や言動は、廊下や食堂で争いが起きていた。
その相手だったのかな。
学園に大きな派閥を作っていた。カレン・バミューダ侯爵令嬢、真っ直ぐ伸びた金髪にきつめの顔立ち、卒業パーティーでは、卒業生より目立つ赤色のドレスを身に纏っていた。
何故こんな派手な人、注目されてなかったのかしら?
そして、何故かこの令嬢、マリーゴールドさんに突っかかっていた。不思議な光景だ。
私の知らないうちに数々の争いが起きていたことをクラスメートに聞いた。ローズリーさんの所に逢いに行ったりしていたから知らなかったけど、予告書のあれやこれは、カレンさんに不幸が降りかかったそうだ。
一番は、マリーさんが売っていた胡桃と栗のクッキー、今、あれはブームだ。王都にも何店舗もある。
私が買ったすぐ後に、カレンさん達がきて、イチャモンをつけたと聞いた。
「平民上がりの成金が学園の権力を利用して売り込むなんて、汚い子」
と言って、文化祭の屋台を壊してしまった。その後、赤茶髪のゼノンさんが来て、追い払いワゴンでクッキーを売ったところ、来賓に来ていた貴族が買って口コミで広がったらしい。

クラスメートから聞いて、そこからの因縁で事あるごとにぶつかっている。ゼノンさん絡みなのでは?とさすが恋話大好き令嬢達が噂をしている。
私の気がかりは、コルンさんだ。以前のように食堂の席どりだけじゃなく、取り巻き化しているから。従姉妹だからなのだろうか?
クラスメートからも
「ほっときましょう、アーシャ様。ドミルトン公爵令嬢のことも馬鹿にして高笑いしておりましたし」
「いえ、それは本当にルイーゼ様が悪いのですから」
と言っておく。
気づくと私が知らないうちに、違う側で絵を描きたくなるような話が転がっていた。いつもニアミスというか、自分の目で見る前だったり、終わりの捨て台詞だったり、鳥のフンが落ちて帰っていく姿だったりといつも残念ながら、
「どうしたの?」
と他の令嬢に話を聞くだけだった。

カレンさんが、マリーさんに
「何、そのピラピラした安そうな生地のドレス」
「あら、カレン様、卒業生より目立ってますわ。ご卒業されるのですか?」
えっ!?まさか嫌味言うの?前から負けてないというかルイーゼにも歯向かっていたけど、撃ち合いなの?
私は、片隅で行われる令嬢の争いも気になるが、これからもっと大きな劇が始まる予定なのに、令嬢同士の長くなりそうな争いに内心焦っていた。
「クッキーが売れたからって、貴族の質が高くなったわけではありませんのよ。もっと控えたらいかが?」
「私は、カレン様のように廊下の真ん中を歩いたりしておりませんわ。それに聞いた所、園庭に鳥がいたのを皆さんで追い払ったとか、そちらの方が貴族の質を疑われかねないです」
と言えば、コルンが、
「何よ、奇行ばかり繰り返していたくせに、鳥に餌ばかり撒いているから、木に鳥ばかり止まっているじゃない」
と、とても正論を言っていた。私もそれは気になっていた。この学園、やたら鳥多いよねと、かなり地面にフンが落ちているよ。
「動物を愛でる心もないのですか?」
と呆れているマリーさん。いや、もういいだろうと思った時、
「そう言えば、奇行で思い出したけど、私の前でよく転んでいたわね。こんなのおかしいでしたっけ、あれ何だったの?あなた病気だったのかしら?ホホッホ」
周りの人達も流石にあの奇行は覚えていた。顔を真っ赤にしたマリーさん。

そしてそこに颯爽と現れた、赤茶髪のゼノン。バッと片手でマリーを守り、
「人、それぞれ心に傷を持つ。何故それを掘り起こすんだ。カレン嬢」
「ゼノン様、掘り起こしているわけではありません。私の前で起きたこと、理由が知りたかっただけでございます」
とカレンは言った。ゼノンは、顔を振り
「私にも心に傷がある。幼い時拐われた記憶だ。目の前で起きた事も言語化出来ない時もある。それが人の心だ。それを理解し寄り添ってくれたマリー。その優しい心がわからないなんて、カレン嬢君は恐ろしい令嬢だな」
と言い捨てた。
何、何なんだこの劇場ぽい、景色。私は、持っていた書類を落としそうになった。これがまさか、マリーさんが予告書の通り、心を解き放ち、通じ合うというものなのか。凄い、一気に華やかさが増した。マリーさんは、ピンク色の頬にして上目使いでゼノンさんを見つめ、お互いの視線が噛み合った。まるで薔薇が咲いているように二人の世界。
カラーページの扉絵! 

って何?私の思考は停止した。

「何故ですゼノン様、そのような成金と一緒にいては、ゼノン様の価値も下がります」
とキーキーと騒ぐカレン御一行。卒業生達も傍らで起きている騒動に気づき見始めていた。
カレンさんの良いところは、みんなの視線を感じ、その場を去るところだ。
捨て台詞、
「なんて子なの!」
と言い放った。

劇場ぽいものに、途中から呆気に取られて端で観客として見ていた私の首筋に視線を感じた。
毎回思うのだが、ユイナさんは私の命を狙っているんじゃないか。首筋ばかり視線が当たる。

ローズリーさんが来たという知らせに、第二幕が始まると気合いを入れて、持っている書類をエリオンに渡した。

卒業パーティーが歓談も半ばに差し掛かり、フランツ王子とエリオンが前に出た。
「みなさんに非常に残念なことをお伝えしなければいけないことがある。以前、アステリア王国の交流会、事件が起きて交流会が出来なかったのを覚えているか!」
とフランツ王子は声高らかに言った。突然何が始まったのかとフランツ王子に注目が集まる。
「ある組織によって、みんなが練習してくれていた剣舞の発表が出来なかった。理由は、生徒会の副会長ローズリー嬢が、挨拶し終わった私に近づき襲うのではないかと思ったからだ。周りはローズリー嬢が用意した私設警備隊で私も疑心暗鬼になっていた。深く反省している。実際にはローズリー嬢は、数年前に起きた取り潰された侯爵家の件で申し立てがあったとのことだ。その場で言えと唆した組織があるな、サミエル!生徒会だ。リア王女とも内密に打ち合わせをし、私がアステリア王国の関係者に対してしたことを責め立てられて、それを見て楽しんでくださいだとよく言ったな」
と煽った。サミエルや生徒会のメンバーは、いきなり交流会を潰した組織扱いされて戸惑っている。
サミエルは、
「いや、フランツ王子様、勘違いをされております。私達は、準備していたわけで内密に打ち合わせなどしておりません」
と言えば、扉が開いた。
今回証言を頼んだローズリー嬢の登場だ。
「発言の許可をお願いします」
「あぁ、ローズリー嬢。君に起きたことを教えて欲しい」
「失礼します。私の母の実家がお取り潰しになったことで、家族の関係が悪くなりました。王子様が入学するというときに私は生徒会メンバーに胸の内を告白しました。まだエリオン君はメンバーに入っていない時です。その後も王子様は、中々学園には来られなかった。5人の婚約候補者達の争いも私には、イライラして、文句を言ってやりたいとサミエル会長に漏らすと、その場を用意してあげると言われました」
「何を勝手なことを、こいつは罪人ですよ、嘘つきです」
とサミエルが言った。ローズリーは、目の色変えて、
「罪人ですって!そのあとサミエル会長は、側妃様に会いに行き、アステリア王国の交流会やリア王女様の来国を決めて来たと、自慢されていたじゃないですか」
「交流会を決めたのもサミエルか?」
フランツ王子が聞けば、サミエルは、急に動揺して
「生徒会で交流会があれば、楽しく未来にも繋がるという提案が出ました」
と言えば、同じ副会長のナダルが、
「会長がひとりで決めてきたじゃないですか」
と言えば、サミエルは焦って
「嘘言うな。みんなで決めたじゃないか、この状況にうんざりだと、夜会やパーティーに同伴者として婚約者を連れていけないと王子の文句を言っていたじゃないか!」
「違う、我々は、文句じゃない。いつ決まるかなと言う世間話だ」
と生徒会メンバーが言う。
やはり若い。権力者が強い発言をしたら、自分だけは守ろうと動く。
「サミエル会長がリオン王子につこうと言い出しただろ、幼い王子なら、重役のポジションは、我々に手に入ると。それを家に話してそこからは、トントン拍子に笑うと言ってたじゃないですか!」

会場が静かになった。
優秀な人は、人に責められたり、叱られたりしないらしく、いつも涼しい顔をしているのに、こんな焦って何でも話してしまって、動揺しているメンバーに驚きだ。

そして何より打たれ弱い。

あっと言う間に、計画を自分達の口から言ってしまった。証拠はいらないかもなとエリオンを見れば、青筋が浮いている。そして高く書類をあげ、
「ここにアステリア王国リア王女の滞在中の娯楽費や贈り物などの領収書がサミエル会長宛で文化祭にかかった費用として計上されている。明らかに不正だ。サミエル会長とリア王女が繋がっていることは明白」
とかなりのしたり顔で言った。フランツ王子も睨みつけ、
「リオンにつくのは、お前の勝手だ。学園に自分が使った金を請求するのは筋違いだろう。バミューダ侯爵家にはその旨を報告し処分があると思え。そしてサミエル他生徒会メンバーは、ローズリー嬢に自分達が計画したものを全て擦りつけた事を謝れ」
と裁いた。フランツ王子に拍手が出た。挨拶運動も相乗して王子の株爆上がり中だ。エリオンはローズリー嬢を見つめている。

「良かったね、エリオン様」

私は、人混みの中、扉に向かった。ドミルトン家の評価は上がらないけど、とりあえずこれ以上の落とし穴は、回避出来たんじゃないかなと溜息を吐いた。

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