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28初イベントに遭遇

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「毎日、何故そんな争いの種があるの?」
と聞きたくなるほど、1日に数回は、どこかで婚約候補者達の牽制や嘲笑や高圧的な声が聞こえてくる。
どうして声がそんなにも大きいのだろうか?
もちろんその中心にいる人物は、私の従姉妹ルイーゼ・ドミルトン公爵令嬢。
学園に入って間もないのに、有名人だ。私は、はっきり言って、ドミルトンの名は出したくない。
「あの!」
と言われ始めているから。

「フランツ王子様は、何故放置しているのかしら?」
さすがにクラスメートからもそんな疑問の声が出た。
確かに、と思って頷く。でも私なら、面倒くさいからだな、
「私、従姉妹が候補者じゃないですか」
とコルンが話出した。
「ここだけの話ですよ。実は、フランツ王子様には、本命がいてカモフラージュのため5人も用意したって噂があるんですよ。本命には、花を贈っているって」
「「「えー!」」」
とクラスメート達。みんな頬を赤く染め見上げる先は想像の世界。

コルンさんって情報通なのかしら?従姉妹の為に席取りして情報仕入れてくるのかしら?

「アーシャ様は、聞いてません?」
と振られても、
「ごめんなさいコルン様。私、ルイーゼ様とは仲がよろしくないの。怖くて近寄れないから挨拶もままならない関係ですの」
と言えば、皆さん、
「ルイーゼ様はね、ちょっとね」
「確かにアーシャ様とは雰囲気が違いますものね」
築き上げた悪役令嬢の名前の力は絶大だ。
そして聞いた話によるとを付け加え、コルンさんが話し始める。朝、フランツ王子様は、出席して、授業内容は全て理解している事を申し出て、レポート提出をする条件で執務を行っているらしい。

今ごろ寄宿舎にいるのかしら。まだ鉢合わせしたことない。あと、他の寮生にも。ガレットさんに聞いても大丈夫ですよと答えられて、誰が一緒なのか名前さえ知らない。寮生活って想像と全く違う。

そして今日は、令息達は、合同剣術の授業でいない。私達令嬢は、刺繍。だから噂話が止まらない。
「そう言えば、リリアン様は?」
とリリアンがいない事に気づいた。刺繍はいつもの教室じゃなくて合同教室の為移動した。
「リリアン様は、いつもルイーゼ様の教室におられますから、移動教室の件知らないかもしれませんね」
とクラスメートが言った。ルイーゼ達のクラスは、礼儀作法になっていたはず。リリアンは、悪役令嬢の取り巻き、関わりたくないけど従姉妹だし…

私は立ち上がり、
「みなさん、失礼しますね。私、伝えに行ってきます。先生にも声をかけてきます」

廊下を抜けて、剣術が見える校庭の渡り廊下を越えていくと、
「どうしたの?小鳥さん」
と声が聞こえてきた。その瞬間、私は、扉の影に隠れた。そして落ちついて、少し顔を出した。
キョロキョロしているセミロングの髪を靡かせている令嬢。髪色は茶色、制服を崩して着ていない。真面目令嬢に見える。
「どうしたの?小鳥さん」
再度同じ台詞。何だろう。
またキョロキョロしている左右に花の髪留めをしている。可愛らしい令嬢だ。
しかし、
「どうしたの?小鳥さん」
が続く。その続きは、どこ?
何だろう。不気味だ。
この方がコルンさんが言っていた、鳥に餌を撒く人じゃないの?
マリーさん!?

隙間からじっと見る。キョロキョロしている理由は何だろう。さっきから、小鳥に話しているようだけど、小鳥はどこにいるんだろう?木の下には餌が撒いてある。
大きなカラスが来た。餌に向かって来た瞬間、
「あなたは、小鳥ではないからあっちに行って」
と何か光る物を投げた。カラスはそっちを追うように石畳の方に行った。
見れば、あちらにも餌が撒いてある。

そしてまた
「どうしたの?小鳥さん」
を繰り返した。

「さすがに怖いわ。違う道を通りましょう」
と歩き出せば、足音が聞こえる。
あっ、とうとう動きがあった、と思わずまた扉に隠れた。
一人の令息が剣を持って走ってきた。
「どうしたの?小鳥さん」
という令嬢の脇を勢いよく通った令息。その瞬間、
「あぁ、行っちゃったわ」
「すまない、悪いことしたのか?」
と背の高い赤茶の髪が揺れた。
「今、怪我した鳥がいたんです。手当てをしようと思ったら、あなた様が現れて、怪我した翼で飛んでいってしまいました」
と悲しげに話す令嬢。赤茶髪の令息は頭を掻いて、
「そうか、すまなかった。小鳥戻ってくるといいな」
と言えば、令嬢は笑って、
「あなた様は、お優しい方なのですね」
と言った。照れた令息は、
「そんなんじゃない、あなた様じゃない。私の名はゼノン・アキュアだ」
「私は、マリーゴールド・タイカと申します。嬉しいです。入学してから初めて対面して自己紹介ができるなんて」
「いや、もう入学してから何日も経っているだろう?初めては大袈裟だろう」
「いえ、私、元は、平民なので中々貴族の学園に馴染めずにいつも動物達と話して過ごしているんです」
「変わったやつだなぁ」
「奴ではありません、マリーとお呼び下さい。ゼノン様」
「あぁわかった。マリーだな。一年だろう。同級生だな。今後もよろしく頼む。少し急ぎの用があるので失礼する」
と赤茶髪の令息が言った。

まさかここでゼノンさんに会えるとは思わなかった。騎士だっけな。マリーさんって自分からマリーと呼んでって言うのか、それに最初何度も繰り返してた台詞は何だったのかな。
何だか出るに出れなくなり、少し心臓がグッとした。

「何故ゼノン様なの?フランツ王子どこよ、まだ会ってないってどういうこと!なんでゼノンなの」
と地団駄踏んでいる。嘘だろう、まさか最後は、呼び捨てで何か怒っているよ。マリーさんって明るく優等生なはず。見られている視線と斜め後ろから服の擦れる音を見れば、クラスメートの方。名前は誰だっけ?とりあえず、人差し指を口に当てて、向こう側にと合図をした。リリアンどころじゃなくなった。
今すぐ紙を見て確認した方がいいのではないか?何か私、見過ごしているような違和感。
「アーシャ様、どうされました顔色が優れませんよ」
「申し訳ございません。クラスメートの方ですよね。お名前を忘れてしまって」
「ユイナ」
「そうですか、大変失礼しました。ユイナ様。今のご覧になりましたか?」
と聞くと、
「赤茶の髪の学生があちらに走って行き、あの女生徒が怒っていたところですか?」
全部説明してくれた。
「ユイナ様は、変だなと思われませんでしたか?」
と言えば、頷いたのでこの話は終了。
「リリアン様を一緒に探して頂けますか?移動教室をご存知ないと思いますので」

歩き始めた。ユイナさんは、斜め後ろを歩く。並んでくれないのね。この位置はシンさんがいてくれた位置だ。
「ユイナ様は、騎士を目指しているのですか?」
と聞けば、眉毛が動いたのちに、
「私は、令嬢の勉強をしています」
「そうですか」
人には事情があるものだ。深く聞く必要はないだろう。
教室内ではリリアンが半泣きだ。クラスに誰もいないのだから。
「リリアン様、この時間は、移動教室で刺繍ですよ」
顔を背けたまま、
「あ、そうだったんですね、私勘違いしておりました。参りましょう」
と言った。リリアンがどんな顔で言ったかはわからないけど、まだ新入生だもの不安になるよねと思った。

新入生と言えば、マリーゴールド・タイカ…
放置しておいて良いのだろうか?
予告書では、マリー対ルイーゼらしいのだけど、なんだか変わった人だった。
漫画とは、絵があって動いて、話して、あんな感じなのか。

マリーさんは、ゼノンとフランツ王子の名前を言っていた。あの言い方だと本来あの場所を通るのは、フランツ王子だったのだろうか?マリーさんも漫画を知っていると言う事かな…
初めての自己紹介と話していた。あれってまさか初イベントってものなんじゃないかしら?
調べるべき?いや今頭に残っている残像をすぐに絵を描くべきじゃない!?
でも、先生にすぐ戻ってきますと、言ってある。スケッチブックは、教室だし、リリアンもユイナさんもいるし、抜け出せない。
絵を描く時間が無く、モヤモヤはその日ずっと続いていた。
理由は絵だけじゃないことはわかっていた。
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