靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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66レイヤード公爵家

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「ようこそお越し下さいました。ティアラ・ビルド侯爵令嬢」
と使用人の列の一歩前に立ち老年のいかにも執事というオーラを放って、私に対して礼をする。

「本日は、突然お邪魔いたします」
と当たり障りのない言葉しか言えなかった。
使用人の圧が凄い。お屋敷の玄関の扉の向こうの何とも煌びやかな圧を感じる。何故こんなみんなで出迎えようとしてくれるのか?一歩後退しようと足が引いた。
トンと私の後頭部が隣にいた人にぶつかってしまった。

「大丈夫か?何かあっただろうか?」
と言われ、

まさか圧に押し負けて後退りしたとも言えず、
「いえ、あまりにも公爵家が素晴らしかったので…」
と言えば、
「そうか、お茶をすぐ用意するので、くつろいで欲しい」

無理、くつろぐなんて絶対に無理だわ。もう落ち着かない。一歩屋敷に入れば、調度品のあれやそれや…ピカピカ、キラキラ、床まで光っている。

「どこも触れないわ…」

「何か言ったか?」

「いえ」

危険な物だらけ、きっと一つでも何かしてしまったら、我が家は、屋敷を売っても弁償できないわ。

慎重に歩く。
それにしてもこの広さに貴重品の多さ、きっと掃除が大変だろうな。横に並んでいるメイドを見ながら、心の中で
「毎日、大変ですね」
と手を合わせた。
しかし何故こんな突然の訪問に使用人が待ち構えているのだろう?
これがレイヤード公爵家の通常!?

働き口は、きちんと選ぼうと心に決めた。

「あら~、あなたが、ビルド侯爵家のご令嬢さんね、初めまして、私がレイヤード公爵夫人のミリアナよ。よろしくね」
階段の中腹から声がした。

髪を緩く纏めて、鎖骨が綺麗に出ているドレスがに貴婦人感が増し増しでお似合いだ。
凄い、本物だわ。
母様とは全く違う、ザ・貴族。オーラが眩しい~
ゆっくり階段を降りてくる姿も素敵。

「レイヤード公爵夫人、初めまして、私ビルド侯爵家の長子ティアラと申します。突然お邪魔いたしまして申し訳ございません」
と頭を下げ、膝を折りスカートの端を掴み挨拶をする。

「まぁ、可愛いお嬢さんだこと。ビルド侯爵様は、あまりにも可愛いから隠していらっしゃったのね。これからは、どうかレイヤード公爵家のお茶会にも参加してちょうだい。あぁ、夫人会にもビルド侯爵夫人とともにいらっしゃい。私が仲立ちにはいりましょうね。楽しみだわ~、我が家は、娘が嫁に出てしまって女の子がいなかったから、それにあの子はドレスより専門書ばかり読んでたから、着てないドレスも数多くあるの…せっかくだからティアラさんに色や形が合う物をデザインを変えて作り直しましょう!ねぇ、そうしましょう!」

何かトントン、サクサクと話が進められているような…全く関係ない話なのに、この追い詰められている感は何でしょうか。一体、どうして?どうしよう…

「やめてください、母上、本日は私の客人として彼女をお呼びしました。学園での出来事に生徒会に協力をしてくれて、その件で話合いにきたのですから。これ以上はご遠慮ください」
とシルベルト様が夫人に向かって話す。

ホッとした。レイヤード公爵夫人の怒涛の誘われ方にどう答えていいかわからなかったから、助かりました。
お茶会や夫人会など、今後を考えると断るわけにはいかないし、シルベルト様のお姉様のドレスを私ごときの為に手直しさせるなんて図々しいわ。
でもなんて言えばいいかわからなかったからよかったです。こういうのも含めてお母様に後で聞いておかなければ…夫人会怖いわ…

「すまなかった、母が…興奮してしまって…」

「いえ、レイヤード公爵夫人は私みたいな学生にも大変親切なのですね。心遣い感謝します」
とお礼を言うと、
「多分違うから、あれは面白がって見に来たに決まっている。…ティアラ嬢は何も気にしないで欲しい」

「はい…」
まぁ、気にするなと言われたら、公爵家様のお戯れということで気にしません。

「こちらで」
と案内された部屋は、大きな窓から薔薇園が見えた。先程見えた薔薇のアーチが遠くに見える。どれだけ大きな薔薇園なのかしら?
凄いわ、公爵家。
圧倒されて震える。

「まず、サクラ嬢だが、あの日から黙秘をしている。魔法具に関しても話さない」

「黙秘だと、責任に問われないと言うことですか?」

「いや、トリウミ王国から使者と騎士、セノー家から伯爵自身が来ている。何故ノーマン王国でこんな騒ぎを起こしたかについては、伯爵が言うには、トリウミ王国で話題になった本のファンで名前が同じ事に当時とても興奮して、私は聖女よと言っており、その時王子様と婚姻して私が王妃様になるとみんなに宣言していたと。でもトリウミ王国は王子は生まれてないから、自分の年に合う王太子がいる国を選んで、留学したいと言われ、まさか本当にこんな馬鹿な真似をするとは思わなかったと詫びていた。トリウミ王国では、確かに魔法具が一つ消えたと使者から報告があった。シリル様の助言通り調べれば、王女ルーベラ様が使用されたことは間違いないが、ルーベラ様も記憶がないと言われているそうだ」
とシルベルト様が説明してくれた。

「記憶がないですか、あの本には、4人が同じ教会で育ったと書いてありましたが?」

「ロフト公爵にも聞いたが、確かにカミューラ嬢が7歳ぐらいの時にトリウミ王国に家族で旅行に連れて行ったという。当時外務大臣をしていて家族同伴のパーティーにも参加して、その時セノー伯爵とも会い、セレナの父、ガイ男爵も参加していたと家族同伴で、それが魔法具を全員が見たきっかけだそうだ。ロフト公爵も魔法具と魔術については外交で話には聞いていたが、そのパーティーの日、教会から参加した者が魔法具を使って、鳥がワンと鳴き、犬がカァーと鳴いた催しを見たそうだ。公爵は、魔法具を信じず、何かの仕掛けだと思っていたらしい…」

「そこで、みなさんが集まったのは不思議な縁ですね、では誰一人教会で育ったという事実はないのに、関係する物語を書かれたというわけですか」

では、ブランカ先輩とミンネは?

「話を聞いた限りね。だから魔法具で鳥と犬の鳴き声を変えたのは、仕掛けではなくて本当で、子供達はそれを見て信じ、ガイ男爵は黒魔術に一層ハマっていったのではないかと。そして魔法具の使い方が、サクラ嬢が言った血を混ぜて書くと言った検証をしたいのだが一向に進んでいない。形状が刺繍針なんだが、ペンとしてインクが入れられる所がない、学者が付けて書くのも線を引くぐらいなら出来るが文字を書くなんて出来ないと検証結果でわかった。トリウミ王国も使い方を教えないんだよ、知らないしか言わずにね。これ以上は国同士の交渉と譲歩案になると思う。それで私達もこの件から引く事になった」

インクの入れる所がない?
「でも魔法具として反応があったんですよね?」

「ああ、魔石に反応したとクラード様から確かに聞いている」

針では字が書けない。
もしも、字が書けるならどういう状態?

ティーカップのお茶を飲む。赤茶の透き通った中身が波紋に揺れた。
「まさか、もしもの話として聞いてください。例えば皿にインクと血を混ぜた物の上に針で字を書くなんてことは…」

「ん?書いた本人しかわからないし、紙には残らないだろう?
いや、魔法具だ、何か仕掛けがあるのかもしれない…
学者に提案してみよう」

「はい、お願いします」
と話が終わったと思った。

「…その、建国祭なんだが…」

「あ、はい、建国祭ですね、街の賑わいも凄いことになっているみたいですよ」

今日ミンネと行こうと思っていたカフェも建国祭の特別メニューが可愛いと評判だった。

「あ、その、今回の色々やり取りがあって建国祭の夜会にトリウミ王国から王族も参加することが決まったんだ。我々生徒会メンバーも参加することになっていて…
もし良かったらパートナーとして参加してくれないか?」

夜会、パートナー?
何故、わたし?
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