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「おはよう、ティア。クラス分けの紙もらったよ。またよろしくね」
と一年の時の教室に入りすぐにミンネに捕獲された。
領地経営や商売経営、騎士科、とは離れることはわかっていたので、私みたいな女生徒は、婦人科になる。

「よろしく、ミンネ。また迷惑かけるかもしれないけどよろしくお願いね」
と言えば、
「うっ、カミューラ様やイリーネ様には関わらないでよ、ティア…春休みも随分と情報収集に熱心な子達がいたから。そう言えば知らない子がカフェランチの集まりで、質問ばかりされたのよ。留学生だと自分で言っていたわ」

あの子かしら?

「私、学期末の最後の日、知らない子に話かけられたの。その子、(小声で)カミューラって呼び捨てで、生徒会やセレナさんのこと聞いてきたの」
と言えば、
「呼び捨て!怖っ、命知らずね。同じ子かしら?サクラと言っていたわ。聞かれたことは、生徒会メンバーについてばかりかな、カミューラ様の事は聞かれてないわ。あっ話の流れで落とし靴の姫君探しのイベントの話しちゃったな」

まぁ、それは仕方ない。
私の部屋には、そのイベントの副賞の靴が全て揃った。見るも眩しいシルベルト様の靴は、領地に行く前日に届けられた。その他は、春休みに靴屋に取りに行き、まさかまた白のハイヒールに会えるとは思わなかった。

「シルベルト様にお礼言わなきゃ」

あの襲撃で投げた靴を再度靴屋に直す依頼をかけてくれていた。お代も支払い済みだった。

「ほら、入学式終わる前に新しい教室に移動よ」
とミンネに言われ、廊下を歩けば、みんな足を止めて、端による。
そして口を閉じる。
ピリッとした空気。長い廊下で威圧感がある。

「全く、どうして私があのような羽目に合わなければいけなかったのでしょう。酷いと思いませんか、カミューラ様。警備隊の隊舎には、再々苦情を入れてますの」

あぁ、あの声は!
すぐにミンネに隠れるよう端による。

「そうね、イリーネが行く必要性を感じないわね。知りたい事があるなら、あちらから来ればいいものね」

「そうでしょう、カミューラ様!」

「カミューラ様、またブランカ様が市井に下世話な本をばら撒いておられますよ。騎士の家に生まれた令嬢の悲劇みたいな書き出しで、結局騎士と結びつく…騎士家の令嬢が婚約破棄されて公爵家に
取られ、更に策略で後妻にさせられる所を騎士達が守り、幼馴染の騎士と結ばれる…そんな話です」

私達の横を通り過ぎる、令嬢一団。
紺のネクタイの制服に、キツい香水。
金の巻き髪のイリーネ様の横に立つ赤茶色のストレートの髪に両サイドを編み込みにして流している。真っ赤な宝石がついた髪飾り…
丸い目に目尻が上がって、猫のような可愛いさがあるのに高嶺の花のような令嬢。イリーネ様達より頭一つ高い身長。ピンと伸びた背筋。
迫力がある、貴族のオーラ。

「キャサリンは、ブランカさんの新作を買いましたのね…お父様と私を別としてくれなきゃね。フフ、お父様の失敗も私のせいされているようなものでしょう?イリーネもわかるでしょう?」

「勿論ですよ。カミューラ様!お父様の見る目がないせいで私は、笑い者ですよ。キャサリン、そんな怪しい新作買い占めて燃やしなさいな。ブランカの本なんて耳にするのも嫌よ」

「失礼しました」
謝る後ろの令嬢。
カミューラ様やイリーネ様は後ろを振り返らない。

良かった、通り過ぎてくれたわ。

また絡まれたらと、少しドキドキした。

「怖かったわね、ティア」
「ええ、最近巻き込まれることが多かったからドキドキしたわ」
「確かにね、私達は行きましょう」

歩き出した。
気になって後ろを振り返って見れば、その一団は随分と縦に長い。それでも一人背の高いカミューラ様は圧倒的で、何かが違うと私でもわかった。

この方がみんなが気をつけろという人物。

関わらないのが一番と理解した。

「そう言えばティア、髪の毛が落ち着いて艶やかになっているわ、髪質が変わった?シャンプー?香油?何使っているの?凄い良くなったよね。劇的ビフォーアフターでしょう!」

「私も気になった!」
周りの子達にも言われ、おしゃれで注目されたことのない私としたら恥ずかしい。

「ええ、王都の雑貨店のアロエシャンプーと椿の香油…」

勿論、私が買ったものではない。シリル殿下と買い物に行った10日後、沢山の贈り物が届いた。

『処分してね』
と一言添えて。

「珍しいね、自分にご褒美?」
「良いことあったのかしら?」
「羨ましい~、高かったでしょう?」
「何、本格的にお見合いに乗り出すのかな?ティア。ライバルがまた一人増えたなぁ~」

教室の扉が開いた。
新しい先生と新しい女生徒…

「今年、このクラスを担任するキアヌスよ。そして転入生を紹介します」

「わぁー、緊張しますね。初めましてトリウミ王国から留学にきました。サクラ・セノーです。寮に住んでいます。私のこちらの国での保護者は、学園長です。私をいじめたら学園長に言っちゃうぞ、ってね。嘘でーす。みんな仲良くしてください」
とぺこりとお辞儀した。
そして同時に笑い声。

可愛いや面白いと声が聞こえた。

その令嬢は、私に質問してきた小動物系の子、カミューラと呼び捨てにした子。
じっと見たが目はすぐに逸らされ、

「わぁーミンネ様!やったね。知り合いがいて私、幸運だわ~!仲良くしてくださいね。よろしく」
とミンネに手を振っていた。

「よろしく」
とミンネも手を振って返す。

「そう、今、学園長の話が出たから言うけど、今学期から変わりました。まぁ、あなた達と直接のやり取りはないと思うけど、赴任されて間もないので、校内や外周りを散策すると言ってました。会ったら挨拶するように」

そして、明日からの連絡や準備品、簡単な自己紹介をして解散。

席を立てば、
「ミンネ様、嬉しいわ、知り合いがいて」
とはしゃぐサクラ様。
「様なんてやめてよ、子爵なんだから、ミンネと呼んでサクラ様」

「なら、私もサクラでお願いね、留学生だし、みんな、サクラでお願いします」
とクラスを見渡して声を掛けた。

何となく入っていけない空気感。
ミンネと目が合ってすぐに手を振って、別れた。
後ろの教室でまたブランカと言っていた気がしたけど気にしない。

どうも私は初めて会った時から、サクラさんが苦手だわ、ミンネを取られたから不貞腐れているわけではない。
なんかあの方は受付ない、何か嫌な感じがする、それだけよ。

その足で図書室に向かい、本を借りるつもりで入れば、迫力がある美人、カミューラ様がいた。
あぁ、私はまた失敗したのね、と思いながら前に進んだ。
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