靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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38靴を投げたら、魔法使いになれるらしい

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(シルベルトside)

ハァーー
「良かったー」

一人乗る馬車で思わずこぼす一言…
いや、全く良くないじゃないか、彼女はここ最近二度も襲われている…

非常識なことを言ってしまった。

「あっ、渡せば良かったな」
端に置かれた木箱…

「…踊れなかったな」

それどころじゃないことぐらいわかっているが…この期待した心が少し浮いている。

それに、すっかり彼女の中で元婚約者とのことは縁が切れていた、いや初めから無かったようだと知れたのも大きい。

セオルド・ブリジット、私の印象は、大人しくみんなと一緒にいる一人…特徴なんてない…

あんなに彼女に執着していたなんて、彼女にこの靴をを贈ることも知っていたな。

私は彼女を抱き上げて…
「ウワァーーーーー
嘘だろう!!!そんな大胆なことをこの手に、この手で…ウワァーーーー
マズイ、マズイだろう。
それに私の手にすっぽりと入ったあの小さくて柔らかな手、温もり、ウワァーーー、俺を殺す気か!!」

と案の定この興奮は馬車内なのに、悶々と妄想して…懸命に立て直した。

「…シルベルト様到着致しました」

「あぁ」
御者は表情が崩れていたが気にしない。扉を開ければ、すでに警備隊がいた。

浮かれた気持ちがすぐに現実に引き戻された。

「レイヤード様、事情をお聞かせ願いますか?ブリジット様は、今は何を聞いても答えられない混乱状態で…このまま隊舎に連行しても構わないのですが、まだ学生、学園長の許可が取れてません」
と隊員の一人が警備員の待機所、正門前で話された。

確かに、まずは学園長だったな…早くセオルドをティアラ嬢から遠ざけたくて、気が急いた。

「申し訳ない、私の考え不足だった」

「すみません、隊員の方、生徒に見られないように職員入り口からお入りください。学園長が応接室でお迎えすると…シルベルト様…お戻りですね、では、引き続きお願いできますか?もうすぐパーティーが終わりますので、私はここの門を守りたいので」
と言ったのは、ティアラ嬢と笑顔を交わし合う仲の警備員、クランという者。

「あなたは、…数々の手配感謝します」
と言えば、
「それがこの学園での私達、警備員の仕事ですから。生徒さん達に何かあっては敵いませんから。もちろん捕らえた彼もこの学園の生徒です。医務室の先生にも見てもらい、今は応接室です。先ずは学園側と話し合いをしてください」
といちいち私のダメ出しをするかのように指摘された。

ティアラ嬢は、とても良い人と言いそうだが、私はこの人が苦手だと…会話だけでも感じる。何か指摘がイラつかせる。

「はい、わかりました。では、参りましょう」
と歩き出した。


応接室には、学園長と汗をかいているセオルドの担任教師、そして警備隊二人に腰をロープで巻かれたセオルド。

ずっと、ブツブツ言っている。

「事件の事を聞こうか?」
と学園長はセオルドを見てから、鋭い目を私にぶつけた。

クリスマスパーティーの婚約破棄が原因で、ブリジット家は今までの婚約者と破棄しミュラ侯爵令嬢と婚約を結び直したが、それにセオルドが、納得出来なくて既成事実を作るつもりでビルド侯爵令嬢の馬車を襲撃させ、誘拐しようとしていたことを話した。

「…犯罪だな、同情すべき部分はあるかもしれないが、これは学園で処理出来る範囲を超えている。本日をもって退学処分となる…」
と学園長は冷ややかに言った。

セレナに同様な事をしたカミューラ嬢達は、停学。それが公爵家の圧力というものなのか、私も…謹慎程度で済んでいるから何も言えない。

「ブリジット伯爵には?」
と言えば、
「はい、警備隊から早馬で伝言は聞かれていると思います」

「セオルド…」
意味もなく声をかけた。

ギロっと見上げて、
「お前のせいだ!お前の…私達は学園を卒業したら結婚するはずだったんだ…全部、全部お前のせいだ!!」
セオルドの目には私への憎さが出ていた。
それは、強くてドロっとした憎しみと恨み。真っ黒な意思を当てられた。

「おい、こちらはレイヤード公爵令息だぞ、お前呼ばわりなんて失礼だぞ」
担任教師は慌てていたが、そんな事は本当にどうでもいい。
私はこう言われるのが、わかっていて、こいつに声をかけた。
いや寧ろ批判や罵倒された方が、私の中では助かるぐらいで…

本当に自分勝手で、お前のこれからが…
「すまなかった」


「ふざけんなぁ!!!」
と叫びが心を抉った。

「連れて行ってください。後はそちらで事情聴取願います」
と学園長が言った。伯爵を待つこともしないのか。


残ったのは、学園長とセオルドの担任教師と私。

「君達が勝手に婚約破棄騒動、随分と影響が出ていますね。私は生徒会の自主性を重んじておりますが、最近風紀も乱れ、沢山のクレームが来てました。こんな犯罪事件まで引っ張てきているその責任は感じてますか?それからこれ以上は…ハァ~わかってますね、私も頭が痛い」
と学園長は言った。

「はい、今回の事きちんと生徒会長に報告します」


生徒会

「シル、お疲れ様…大まかな事は聞いたけど…」
卒業生のシリル様にまで迷惑をかけてしまった。
みんなと最後賑やかに楽しめるのに、私を心配して、生徒会室に駆けつけてくれたのか…

「すみません。楽しいパーティーの所を。婚約破棄の騒動が原因で、セオルド・ブリジット伯爵令息に事件を起こさせてしまいました。親による政略で私の元婚約者だったミュラ侯爵令嬢との婚約、ビルド侯爵令嬢と婚約破棄することになり…納得いかず暴走する結果になりました」



誰も言わない。

「ブランカ嬢の言った二次被害というやつだな…シルベルトはどうすることも出来なかったじゃないか。セレナが…いいや関係なくイリーネ嬢との関係修復は難しかったのだろう?」
とクラード様が言った。

ご自身の胸あたりを片手で握って。
きっと先日のロフト公爵の横暴が頭にあるのだろう。
そう、もうどうにも出来なかった。
ミュラ侯爵に婚約者のいる家に破棄させてまで婚約するななんて、私の口からは言えない。


これは、この罪は消えない。私の軽はずみな行動で、セオルドは間違いなく伯爵嫡男の座を下される。罪人、その後は…。
一人の人生を、壊した。

「ねぇ、シル。もう起きてしまったこと、やってしまったのはセオルド自身。何故罪までシルが背負うのさ。普通は親に言うぐらいだ。強硬手段に出たのは、彼だ!罪まで被るな!」

シリル様の声が怒りで震えている。
こんな大きな声を聞いたことがない。

重い雰囲気の中、
「私は偶々、婚約者がいなかったから好き勝手言えるかもしれない。でも自分のしたことと他人のしたことの線引きはきちんとしなさい」

みんなわかっている。だから何も言えない。でも、そのきっかけは私達。

重い、無言が続く室内。

私の軽はずみな事は、実際に沢山の人に迷惑をかけた。それは記憶から消えない。

扉がノックされた。
「失礼します。シルベルト・レイヤード様、お渡ししたいものがあります」
扉から顔を見せたのは、警備隊の一人。

「はい、明日また隊舎に向かう予定ですが」
と言えば、顔を振られ、

「実は現場に紙袋とこの白いハイヒールが広がって落ちてまして…
多分攫われそうになったご令嬢が、襲撃犯に投げたものかと思われます。新しいものですがヒールの部分が片方欠けてしまっていて、お知り合いとの事で、お手数ですが、ご令嬢に返していただけないでしょうか?」

「は、あ、はい」
と破れた紙袋と壊れたハイヒールを受け取った。

ティアラ嬢は、襲撃犯に我々が贈ったハイヒールを投げつけたのか。



みんな想像したらしい。

「フッハハハッハ…」
誰かが笑った。
こんなのティアラ嬢にとって失礼だとわかっているのに、つられて笑ってしまう。

「ハハハッ」
意味もなく最初笑い、自分勝手な解釈してなぜか目尻に涙が出てきた。曇っていた目の前が晴れるようだ。

最初の出会い、靴を足から飛ばして俺にぶつけて、俺が拾って、御礼として贈った靴を犯人に投げて、また俺に戻ってきた。
こんなの適当なこじつけ。

「なぁ、これって運命かな?靴が私の元に帰る魔法にかかっているのかな!!」
と言えば、

「何言っているんだよ。ティアラ嬢の靴がシルベルトの元に帰る魔法?そんなの彼女だって喜ばないだろうな。嫌な顔しそうだ」
とクラード様は笑って言う。

「違う、違いますよ。私を呪縛から解放してくれる魔法の靴ですよ。最初のセレナも今もセオルドの事を考える事を解放して、視界をクリアにして笑わせてくれて前に進む力をくれるなんて思ってしまう」

「随分とロマンチストだな」
「変わったな」
ログワットとフランに言われた。
「どんだけご都合主義なんだシルベルトは!」
とそう言いながら、クラード様が一番楽しそうに笑っていた。

シリル様は、
「運命か、凄い良いね。シルベルト、なんか魔法とか本当にある気がするよ。だって一瞬でみんなを笑顔にしてくれて、最高だね。面白いご令嬢だったんだね、ティアラ嬢は!もっと早くに知り合いたかったなぁ。足から靴を飛ばして、次は手で靴を投げる落とし靴の姫君か。随分とじゃじゃ馬だな。そして心が囚われた王子を助ける…素敵な物語をトリウミ王国で披露してくるよ。9歳の王女様には喜んでもらえそうな話だ。ありがとう、シルベルト!!最高な卒業の贈り物だ」
と満面な笑顔と笑い声を弾ませているシリル様は言った。

本当に彼女の靴は、俺を助けてくれる。
彼女は、いつでも俺の恩人で、一瞬で視界を開ける。

「魔法使いなのかもな」
と呟いた。それをみんなに聞かれ、全員がニタリと笑う。

「「「「私達の魔法使いな!」」」」

そう、自分勝手、そんなのわかっている。でも心の鎖が切れたみたいに軽くなった。どこかでまだセレナと繋がっていた何かが消えた。
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