靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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36三者三様

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現在、私は、学園の中庭にいます。
時は、卒業パーティー真っ只中。

あぁ~微かにワルツのゆったりとした気品高い音楽が聴こえてくるわ。フフフ~クルクル回って逃げ出したい。


あぁ無言。
それはそうです。この三人で何を話せというの?共通点なんてありません。

ただ今、現場にいるのは、ティアラ・ビルド(16歳)、目の前にいるのが、元婚約者セオルド・ブリジット(17歳)、私のぴったり横に付いているのが、シルベルト・レイヤード(17歳)貴族位なんてどうでもいいでしょう、現場からは以上です。

ブチッと切りたい、ここで中継を終わらせて、卒業パーティーに場面が切り替わって欲しい。

ハァーーーーーー

「あの~」
と話し始めた。どうしようかとも考えたけどまず紹介が先かなと。心の中では皆様に紹介は終えたけど…

「知ってる」
隣から、声がした。
えっ、心読まれた?

シルベルト様が、
「イリーネ侯爵令嬢と婚約したセオルド・ブリジット伯爵令息ですね。この度はおめでとうございます」
と言った。

すると、セオルド様が、鼻で笑った。

「これは、イリーネ様と婚約破棄されたシルベルト・レイヤード公爵令息から祝われるとは驚きだな。セレナ嬢と良い仲だから、私に押し付けたのではなくて?」
と言った。

えっ?こんな人だったのと二度見しそうな展開。

もう不穏…
ピリピリ、ギリギリと空気を読まない最悪なケース。

そんな誰が聞いているかわからない中庭でそんな風に言ったら不敬だ。
「セオルド様、その言い方はイリーネ様に対してよろしくないと思います。おやめください」
と慌てた。そんな風に言う方ではないはずだ。私のことだってずっとお金だけ強請った家というのを我慢して言わないでくれたのだから。

多分?

「あぁ、ティアラ、ちゃんと本音で話したかったんだ。邪魔をしないでくれないかな、シルベルト様。もし叶うなら、イリーネ様に謝って元サヤにお戻りくださいませんかと言えばよろしいですか?あなた達のせいで、こちらは二次被害に巻き込まれたんですよ。突然、ミュラ侯爵家が横ヤリに入られて…よくわからない物語風な恋愛話を作り、誰かわからない奴らに祝われて!」

「セオルド様?」

どういうこと?
これじゃまるで、セオルド様も余波を受けた被害者みたい…

少し震えながら、それでもはっきりとした声で、
「すまなかった」
とシルベルト様が謝った。
頭を下げている。
格下の私達に。

「やはりそうだったのか…私の婚約破棄によって、君達の仲を引き裂いてしまったのか。医務室でセオルドがティアラ嬢のことを婚約者だと言っていたと聞いて、ミュラ侯爵家が無理矢理二人の仲を裂いたのでは、と思っていたんだ。本当にすまない。愛し合う者達を別れさせるなんて…ミュラ侯爵家には私からお詫びとお願いをしてみるよ…」

シルベルト様が言えば、また元に戻る?
何それ!!ふざけないで!!

「何を、言っているかお分かりですか?破棄しました、戻りましたって何それ。婚約ってそんなに軽いノリなんですか?愛?誰と誰がです?私達の関係はビルド家の借金をブリジット家が肩代わりして、今回の婚約破棄を文句言わないことを条件にチャラにしてもらったという政略的婚約であり破棄ですけど!」
と言うとシルベルト様はこれでもかというぐらい目が見開き、セオルド様は口をパクパクさせている。

えっ、何か間違えたかしら、私。

セオルド様が、
「…ほら、ティアラ、やっぱり私達は二人で話す必要がある。誤解があるようだ。馬車を用意してあるから二人で帰ろう、君の所のは、壊れてしまったからね。我が家のはしっかりしているから安心だろう、こちらにおいで」
と言われて、手を伸ばされた。

ずっと怖くて身構えていたのに、隣に人がいるというだけで強気になれる。
気になった疑問をぶつける。

「何故セオルド様は、我が家の馬車が壊れている事をご存知なのですか?」

聞いた。先程はシルベルト様に聞いたとかなんとか言ってたけど。

「どういうことだ?」
とシルベルト様もセオルド様の言葉の先を促す。

一気に顔色が白くなった。
青ではなく白…
次に歯の噛み合わせが悪いのか、歯がカタカタ音がする。
これは間違いない、アウトだ。

関わっているか、もしくは、犯人はこの人だ。

シルベルト様の片腕が私の胸前に広げられた。やっぱり気づいたらしい。
「君が首謀者か?それとも頼まれたか!」
低く唸るように聞く。

私もセオルド様を睨んだ。

「違う、怪我をさせろ、なんて言ってない。ティアラを連れて来てくれと頼んだだけだ」
と慌て言った。

あぁ、犯人でしたか。

ゆっくりとシルベルト様が小さな低い声で刺す。
「町外れの娼館に…か」

その言葉にセオルド様は更にガクガクして縋るような目でこちらを見た。
信じられない…

彼を記憶から抹殺したくなり、フラッと倒れてしまいそうになった。
いや、踏ん張れ、私。それよりも娼館ですって…
まさかそこで働いてお金を返せって事なの!働き口ぐらい自分で見つけますわ。
キッと睨みつける。

「違う、違う…違うんだ、ティアラ。こんな状況は全部違うんだ。私はただ二人で今後の話をゆっくりとじっくりと話したくて…
…その流れで、勿論二人で話し合ってからティアラが許してくれるなら既成事実を作ってミュラ侯爵家とは婚約を反故しようって」
とセオルド様は小さな声で否定している。

それを聞いて驚いてしまった。

「えっ、既成事実って…どうして私があなたと?身体でお金を返せって事?イリーネ様が嫌だから?」
と私もガクガクするわ。そこまで追い詰められていたの、私は?
そんなご立派な身体ではないですが。

「お金、あぁさっきの強請った話か…違う、誤解、いやそうか、私はティアラを強請ったんだ始めから…欲しいのは君だけだ。
私は、飾らないティアラを着飾りたかった。でも、甘えないし強請らない君が、いつかどうしても必要な時に私が全てを叶えてあげれば、君は私に微笑むだろうと。学園に入れば、人付き合いも必要になって、私を頼らざるえなくなる、私だけが婚約者だからね。いつか君から言ったならと夢を見て、じっと待っていたんだ。流行りにも乗れない君が、私を求めて甘えてきた時、私無しじゃないと生きられないようにしたくて」

何、この人、めちゃくちゃ怖いこと言ってない?さっきも私が図書室で借りた本とか知っていたし。
ヤバい人だったの?
ヤバさ確定だよ。なんであんな今まで無表情だったの。
怖いを通り越しているよ。

「貴様の話を聞く限り、金で心も身体も奪ってティアラ嬢を雁字搦めにして、自分の好きなようにしたいとしか聞こえないが?それを利用してミュラ侯爵家とも破棄するとか、言っている事もやる事も貴様最低だな。雇った三人は警備隊に捕まっている、早く自首しに行け」
とシルベルト様がセオルド様を罵った。

ええ、もちろん警備隊に捕まって欲しい。それは間違いないけど…怖いけど確認のため、

「まさか、セオルド様、私のことがお好きだったんですか?」
と聞いた。

「当たり前だろう。君の婚約者になりたくて父に頼んだのだから。それなのに、侯爵は、去年の税を納めたら借金を返すって言うし、それだと私が無価値になってしまうから、麦の積まれた荷台を壊すよう指示をしたのを、ビルド侯爵に知られてしまった時もピンチだったけど困った顔をしながら、ティアラが大事なら傷つけないで、誠実でいて欲しいと…願われ許してくれた。そう思っていた。それを忠実に守っていたら、こんな羽目にあって父は勝手にミュラ侯爵と決めて来てしまったし、まさかビルド侯爵が領地を返納して家格を落とそうと考えていたなんて思わなかった。それを父から聞いた時、私は、騙されていたんだと気づいたよ。あの時点で侯爵は、君との婚約破棄を画策していた。だから借金もしようともしなかったんだとね。そしてシルベルト、私にイリーネ様を押しつけた張本人が、私のティアラにどんどん近づいていた。セレナ嬢の次はティアラに目をつけたんだな。みんなを騙して、余計なものを捨て、押し付け、汚いぞ。ティアラに靴をプレゼントしたり、抱き抱えて触れて、許せないよ!それは全部私がするはずのことだ!」
とセオルド様は心内を全部吐いた。

去年の税が払えなかったのはこいつのせいだったのか!何か騙されたとかいつのまにか自分が被害者みたいな事言っているけど、あなたずっと最低な事言っているからね。

「最低ね、セオルド様。あなたに私、気を遣わなかったことを謝りたかったのよ、婚約者として気持ちも寄せずに、淡々と政略的なものとして。今は、あなたの言葉全部が有り得ないわ」

冷静に淡々と言ったつもりだ。ここで怒りを当てることもできたが、私の前に広げた腕も背中も震えていて、不思議と言葉が抑えられた。

勿論、私はセオルド様が許せない。
嫌、もう絶対に嫌。無理、有り得ない。気持ち悪い。見たくもない。

凄い私は怒っている、最低な人だと思っている。
でも少しだけ
『もし私達に会話がある関係だったら』
こんな風にならなかったのではないか?
頭に過ぎる。

「セオルド、第三者として聞いていても貴様最低だよ、考え方も行動も。好きな人を自分の欲だけで絡め取ろうなんて、悪いが知り得たこと、襲撃犯の件も、ビルド侯爵に伝えさせてもらう」

「ふざけんな、全部お前のせいだろ!」

シルベルト様は私の手を握って歩き始めた。後ろを振り返る。
セオルド様は地面に膝をついた。
その姿を見て悲しくなった。私の二年間の婚約者がこんな人なんて、全く知らなかった。

「セオルド様…私はあなたの気持ちには答えられないわ。もう二度と会いたくない、話すこともありません」

シルベルト様の握った手は少し力が込められた。
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