靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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34心の中

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(シルベルトside)

医務室を出た。

うわぁ~マズイマズイ、マズイ。
思わず触ってしまった。
タイツ越しだが触れてしまった…
何ていうか…あぁ~やってしまった…

気持ち悪がられたかな?

婚約もしていない令嬢の足を、触るなんて。ティアラ嬢の御足を…
マズイマズイ、変態だろ!!俺は何している!何も考えるな。

ここは学園だろ、しっかりしろ俺。

ハァ、タイツ越しでもわかる、多分あの滑らかな肌を感じた、間違いないな。あの日の甘い美味そうな足…

想像と合致した。

女神の足…

を触ってしまった。うわぁ、身体中のあらゆるところが熱を持つ。
俺は今日死ぬかもしれない。

いや死ねない

絶対彼女を襲わせた犯人を許さない

そう考えると集まっている熱が、怒りにかわる。
クゥ、くそ~、壁を叩いた。
喜びが引いていく。
何故彼女があんな怖い目に遭わなければいけない!
あいつらは明らかにあの場所で待ち構えていたと言った。依頼者については言っていなかったが、
『ここを通るボロい馬車を狙い、王都の外れにある娼館に連れてこい』
と言われて前金を貰ったと白状した。

間違いなくティアラ嬢を狙ったものだ。
何故彼女を?
また落とし靴の姫の件か?イベントにしたのは失敗だった。

誘拐の上、娼館だと聞いて冷静じゃなかった…馬車の中でもっと気の利いた優しい言葉をかければ良かったのに…

ティアラ嬢の表情はずっと怯えていた。
だから怖がらせたくなくて、誰にも触れさせたくもないし、見られてしまうのも、痛みも感じさせたくなくて、抱き抱えてしまった。

あれは、セーフだろうか…

思わずなんだが、彼女は降ろせと言っていたような…気がする。
舞い上がってしまって、ちゃんと言葉が聞き取れなかった、顔に力を入れておかないと緩みそうで心臓の早鳴りもやばかったしで…
ハァ~、役得だったな。

そして、何なんだ、あの警備員は!!
馴れ馴れしい。
『何が私が引き継ぎましょうか?』だ!はぁあ!?なぜあの者にティアラ嬢を抱き抱える名誉を変わらなければならない。彼女は私の恩人だぞ!貴様のような男が触っていいわけあるかという言葉を飲み込んだ。
これは乱暴だし、身分差別すぎる。いや、それよりもなぜ『クランさん』とか呼ばれて親しげな雰囲気出して…
そういえばあの顔、あの日、ティアラ嬢と楽しげに話していたサロンの男じゃないか!
もっとはっきり言った方が良かったか!

全く油断も隙もあったものじゃない!

「どこにいたんだシルベルト!もうパーティーの会場に在校生を入れてしまったぞ。卒業生を迎える為に陣形を指示してくれ」

「ログワット、悪い遅くなった。すぐに花道の準備する」

在校生を入り口から並ばせ、音楽を演奏し始めて貰った。クラード様は学園長と話しているらしく、こちらに顔を見せてない。ティアラ嬢が襲撃されたことを話したいのに。

卒業生の入場が始まった。
ここまで来れば、あとは、クラード様が乾杯の挨拶をするだけだ…
本当なら、私とティアラ嬢がファーストダンスを踊る予定だったのに、怒りが再び湧き上がる。

「おい、シル!シリル様が呼んで…
何睨んでいるんだよ」

「ああ、わかった、シリル様な。話したら今日は失礼する。クラード様に伝えてくれ。詳しいことは明日話す」
とログワットに告げて、歩き出す。
「おいっ」

まぁ、ログワットだし無視しても構わないだろう。
早く彼女の元に戻らなければ。
最初に花道を潜り終わったシリル様に話しかけた。

「遅くなりました」
と言えば、
「トラブル?」
と聞かれ、卒業生に話すのも心苦しかったが、

「はい、ティアラ嬢が襲撃されました。たまたま我が家の御者が発見して、襲われている途中で交戦しました。彼女は、足の捻りと手の甲に擦り傷。あと馬車の扉の破損程度で済みました。三名の族で警備隊に引渡し済みです。待ち伏せしていた事は聞きました。詳しいことはまだわかっておりませんので」
と言えば、

「ティアラ嬢は今は?」
と気遣うシリル様に顔がこわばった。何故そんな心配そうな顔をする?会いに行くつもりか?彼女を誰にも触れさせたくない。

「医務室にいます」

「そうか大変だったね。ダンスとか言ってしまったし、朝、花とメッセージカードを送ってしまって脅しと取られちゃったかなと謝るつもりだったけど、それどころじゃないね」
と申し訳なさそうにしていた。

「はい…」
シリル様そんなこと彼女にしていたのかよ!油断ならない人だな、この人も。
クラード様の伝言は、ログワットに頼んだしもう彼女の元に行っても良いだろう。なんかあの警備員が医務室を覗いていそうで嫌な予感がする。

「こんなことなら学校に連れて来ないで我が家で手当てすれば良かったか…」

急いで戻る医務室。
「失礼、シルベルト・レイヤードですが、戻りました。入室してよろしいでしょうか?」
と扉前で聞いた。
先程黒タイツを脱いで治療すると聞いたから…紳士としては当然の気遣いだ。

ハァー、女神の足…
意識を外さなければ!

「あら、戻ってきたのシルベルトさん!今、卒業パーティー中でしょう?大丈夫なの?彼女、ティアラさんは、婚約者と先程出ていったわよ。何でも聞いて欲しい話があるとか言われて…セオルドさんと言ったかしら?」

「セオルド・ブリジット伯爵令息…イリーネの新たな婚約者…何故彼がティアラ嬢の婚約者と名乗る?」

どうして、パーティー会場ではなく、ここにいる?
嫌な予感がする。挨拶程度しかしない関係だからどんな人となりかは知らない。
彼が元婚約者…イリーネとも同学年だが二人が仲が良いなんて聞いたこともない。イリーネは、いつもカミューラ嬢の横に付いていた。その縁もあってカミューラ嬢が王妃になり、私がクラード様の側近だから、これからのノーマン王国を支えることの出来るだろうとの婚約だった。
だから、私と彼女に恋愛という情はない…
しかしティアラ嬢とセオルドは?
もしかして、私の婚約破棄が二人の仲を裂いて、無理矢理ミュラ侯爵家が、ブリジット伯爵家に縁を迫り結んだとしたら…
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…確かに罵ったり派手な事はカミューラ嬢だったが、調査するとイリーネは腹黒さが見え隠れしていて、カミューラ嬢に擦りつけるのも上手かった。
今日の事件、ミュラ侯爵家?
いや、まさか…
では誰だ?
いや、そんな話を聞いて…
セオルドがティアラ嬢を心配して駆け落ち…!?

「ティアラ嬢どこだ?」

いや、早合点しすぎだ。突然の婚約無効とか言われて、お互い話合えなかっただけかもしれない。
私達じゃあるまいし、一方通行の手紙ではないだろう。

「ティアラ嬢~、返事をしてくれ!」
大丈夫だ。
「ティアラ嬢、どこ、だよ…」

全然大丈夫じゃない。
心臓が痛い…
どうして…
「ティアラ」
(嘘だろう、苦しい、呼吸も上手く出来ないほど苦しい…ティアラ)
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