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31襲撃

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憂鬱な…いえ、朝はやってくるものです。
ええ、まだ空気は冷たいながらも綺麗な青空が広がっています、あぁ、眩しい~、卒業式…

「今日はお腹の調子が悪いって事でお休みしても良い気がするわ。卒業生の皆さんが主役ですもの、私なんて行かなくても…ね」

机の上に置いている立派な箱。
あの中に白いハイヒールが入っている。…これは非常に嬉しい、とても助かるし、役に立ちますよ、これから。

ただ、ダンスを踊る必要があるのかどうか…
その為の靴ではあるけど、何故シルベルト様と踊らなければならないのでしょう?並々ならぬ靴への想いがありそうだったけど、ただの変…変わり者よね。

どうもシリル殿下には、毎回丸め込まれているような気がするし…

これでシルベルト様と踊ったら、婚約者候補やパートナー説が再び浮上して面倒に巻き込まれそうで怖い。

そんなことばかり考えていたのが、バレたのか執事が、扉を叩く。

「お嬢様、大変です!王宮から花束とメッセージカードが届きました」

慌てる様子はよくわかりました。
まず非常に怖い…
王宮に知り合いなんていませんよ、私は。
何故こんな朝早くに?
卒業生でもない私に花?

恐る恐る受け取れば、

『ティアラ嬢

おはよう、昨日は無理を言って悪かったね。でも、この卒業パーティーを最後にトリウミ王国に行くので、私達が贈った白い靴を披露して欲しくてね。

では、今日はよろしくね。

シリル・ノーマン』


だよね。悪魔からの手紙よね。
私に王宮の知り合いなんていないですし、まして花などくれる方などおりません。

嫌な予感はビシバシ…逃げるなよ!って事ですね。

ハァーーーーーーーー

最悪!見越されているのもだけど、これって脅しですからね。職権濫用?高位貴族からの圧力?を確実に受けていますから。
休んでやる!私は屈しない。


しかし逆らえるはずなく…
制服に着替え、箱から白い靴を取り出して、紙袋に入れ学園に持って行く。心の中と自分の行動の落差に溜息をつくだけ。気の重いまま馬車に乗り込む。

馬車の軋みのギシッギシッ鳴るのはいつもなのに、今日は不吉な音楽に聞こえるから不思議。
今、馬車が壊れて仕舞えば…貧乏な我が家に唯一の馬車が無くなったら…
ウッフフフ

そんなこと冗談でも思ってはいけなかった。

ドカッゴトッ

御者が慌て馬車を止めたのはわかった。

何ごと?
とすぐに思って、小窓を見れば…


外套に覆われて、騎乗している男の一人を見た。
まさかなんて思いたくもない。声が出ず唾を飲み込んだ。

御者が声にならない何かを発していた。きっとあちら側にもいるんだろう。
ガチャ

ガチャガチャ、ドン、ガシャリ
躊躇なく扉の破壊音は鳴り、男の手が伸びた。怯える私が愉快なのか楽しそうな顔をされた。
こういう時に私の生意気な口は回らず、全身から震えと怖さと危機を一斉に感じて…

「お嬢様?こちらに来てもらおうか」
と片足足首を掴まれた。

「い、や…」
側にあった袋を投げた。
精一杯の抵抗、頭では情けないってわかっているのに怖さに勝てなくて、男は袋を地面に落とし、もう片方の手も迫ってきて…掴まれた足首には痛みを感じるほど強く引っ張られ、身体が動いた。
その瞬間両手が捕らわれ引きずって私を馬車から下ろし、立たせた。
馬に乗った男は二人。そして、私を捕らえている男、全部で三名だろうか。男達の視線を感じ、更に恐怖が増す。
御者はホールドアップをして震え、私は自分でなんとかするしかないのに、足が震えて、かろうじて声を出したのは、

「な、ぜ…」
だけ。

「さぁ、連れて行こうか、お嬢様」
と笑って言われた。
誘拐?信じられない…ここは集合住宅ではないけど、大きな住宅もある。学園の通り道で…人がいないなんてありえない…大きな声を出さなければ!
わかっているのに声が出ない自分に腹が立つ。
自由な足を踏ん張り片足を上げ、地面をドンと踏み鳴らした。

「プハっハハ、何してんのさ、お嬢様!頭おかしくなっちゃったかな?」
と頭の上から馬鹿にされた声が聞こえる。
やっと冷静になれた。

「誰か~、誰か~、助けてください!」

声が出て、私の両手を捕らえた男が慌て、私の口を塞ごうとして手首の締めつけが緩み、
「このガキ、何してんだ、早く乗せて連れて行くぞ。人が来ちまう」

「誰か、助けて~」
御者も声が出た。もう一人も馬から降りて、慌てる犯人に無理矢理また押さえ込まれたが、

「何だ?」
「何、何~」
と道に出てきた人がいて、

「くそっ」
と無理矢理私を俵担ぎにした。

「おい!何している!」
と人の声と馬の息遣いと鞭が地面に叩きつけられた音がした。
誰かが気づいて戦ってくれているのかも、担がれて状況は全く見えないものの音だけは、
ビシッ、ドシッ、ズサッ
と聞こえ、男の息遣いの荒さが嫌に耳に残る。
「おろしてー!!嫌!」
と足をジタバタさせれば、
「この~うるせー、ガキ」
とバッと離された。

離されれば落ちるのが道理で…

あっと声を出す暇がない。痛みがくるはずと両目を瞑った。
が…硬いは硬いけど人の身体が私を受け止めてくれていて、
…わからない衝撃とドサっと聞こえる音と仄かに香る人の体臭…

驚いて目を開ければ、何故かシルベルト様がいた。
「あ」
と声を出したが、なんて言えばいい?

頭が混乱する。ありがとう、何故いるの?痛くありませんか?
???

「すまないが、下に置くよ。捕らえなければ!」
と私はお礼も言わないまま、地面に座り、呆然としている間、公爵家の御者とシルベルト様で、襲撃犯3名を捕らえてしまった。
我が家の御者も無事…

やはり、何故いるんですか?が一番頭に浮かぶ言葉なのですが、声をかける隙もないほど忙しく動いている。

ハァ~とやっと溜息がつけるほど怖さがなくなった。周りの人集りを見て、我が家の馬車の扉が壊れていて、地面に座っていることに気づいて、立ち上がった。
まだ足が震えている。

『何故私が…』

「ティアラ嬢大丈夫か?警備隊の手配や犯人確保で一人にさせたが、怪我はないか?」

駆け足で近寄ってきたシルベルト様に聞かれ、身振りをつけて
「大丈夫です」
と言った。

「そうか、良かった…」

「なぜ?」
思わず出た言葉だった。普通ならまずお礼なのに…

「あぁ…
その靴屋に寄ってて…
慌て学園に向かっている時に、御者が発見した。手の甲を怪我をしているじゃないか」
と言われ、見れば確かに引っ掻き傷のようなものが…
「たいしたことはありません。本当にありがとうございました。私では何も対処出来ませんでした」
と頭を下げた。

「とりあえず、手当…ここなら学園の方が近いな、まず医務室に行こう」
と促され、ついていけば足に痛みが走った。気づかないところで足もやっていたらしい…
ヒョコッと引きずって歩けば、
「足も痛めたか…」
とシルベルト様の憐れむような表情を見た。
「痛むだけですから」
と少しの笑顔を見せると、更に絶望…みたいななんとも言えない表情になった。

どうしたんだろう、この人?
なんか変なんだよなぁ…
いや、助けてもらって何言ってのかしら、私。
どうも表情の変わりようが、よくわからない。

ハァ~再び溜息が出ると、何故かシルベルト様に抱えられ…所謂お姫様抱っこをされ
「や、やめてくださいませ」
とバタバタしてもやめてくれず、そのまま公爵家の馬車に乗せられた。
それは我が家の馬車とは大違いの豪華な造りで椅子も滑らかな革、お尻に弾力性がある、内装はピカピカしていた。
シルベルト様は、また外に出て行き、しばらくして戻って来た。

向かいあって無言のまま…

馬車は走った。
(痛みからではなく、重い空気に耐えられず汗発生中)
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