靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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30お誘い(命令)

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数日前からログワット様御用達の靴屋から最終調整するのでお越しくださいとの連絡、やっと行けます!

「ティアラさん」

「クランさん、本日は勤務終了ですか?」
と声をかけてくれた人は、警備員の服を着ていなかった。
シンプルなシャツと黒のベストとパンツ、丈夫そうなジャッケットを羽織っていた。
「はい、明日の卒業式の警備で最後なんです。ですから、今日は早めに仕事を上がって片付けと掃除と先生方に挨拶をしてきたんです。ティアラさんも再試験、その様子ですと合格したみたいですね。良かったですね」

再試験、知られていたなんて…
恥ずかしいわ。でも一人補習を受けているなんて、だいたいわかることよね…

「クランさんにまで知られて恥ずかしいですが、無事進級できます…二年生は心を入れ替えて頑張ります」
何となく恥ずかしくて、目が見れない、本当にちゃんとやろうと心に決めた。

「本来ならティアラさんは、成績悪くないのでは?あの日から、生徒会メンバーに巻き込まれて色々迷惑をかけられた被害者ですよ」

クランさんがこの学園の生徒の事をこんな風に言うなんて…驚いた
それも生徒会メンバーなんて、聞かれたら大変なのに。明日で最後だからかしら?クランさんも警備員として生徒会メンバーに手を焼かされたのかな?

「ご心配頂きありがとうございます。確かにイベントで一度選ばれましたが、本来なら全然接点がないんですよ」
と言えば、困った顔をしながら、
「そう…なんですか?…聞いた話では、生徒会メンバーに入ると…
以前入っていた女生徒が学園を辞めた後を引き継ぐようなことを聞きましたが?」

またその噂ですか!!

「嘘ですわ!」

「嘘?そうだったんですね。少し心配していまして。放課後、我々警備員は教室内の確認をして注意をするという話をしたでしょう。生徒会メンバーにも何度か注意したんですよ、不純異性交遊。ティアラさんはそういうタイプには見えなかったので、勝手に心配してしまいました。私の早合点です。失礼しました」

「いえ、本当に誰がそんな馬鹿な噂を流しているのか…呆れしまいます」

「そうですね、…そういった意味でもティアラさんは気をつけた方がいいですよ。誰かに目をつけられていると思うべきかも知れません」
とクランさんは真面目に身の危険性を心配してくれた。

「はい」
せっかくクランさんと話せたのに最後めちゃくちゃ気持ちが沈んでしまった。明日で最後なのに。

「では、気をつけて」

またカミューラ様の手先さんが噂を流しているのかしら?警備員のクランさんまで聞いているってどんだけ広く浅く流しているのかしら?
でもミンネ達には聞かれていない…
言われたのは、先生とクランさんだけ。大人限定の噂?
そんな噂話に何の意味があるのかしら?

靴屋の扉を開けた。出来上がった白いハイヒールが、机の上の赤い正方形の薄いクッションに鎮座していた。

「赤と白が映えますよね」
と店員が言った。
「はい、ソウデスネ…」
靴は、まず視覚で見る物と言っている気がした。私は履く物だけど…きっと高級靴というのはそういうものだろう…

知らない世界コワイ

「では、ティアラ様、お座り頂いてフィッティングしていきましょう♪」
と店員さんは楽しそうに言った。
「やっとこの子が歩き出すのですからね、私としても最高の仕上がりで送り出したいのですよ」

「はい、お願いします」

また紅茶とケーキが出て来た…その後何度も店員さんは調整をしてくれた。
「本当にこんな素晴らしいハイヒールを作ってくださりありがとうございます。一生大事にします」
と御礼を言うと、
「いや、待ってまだ5足調整がありますから」
と何勝手に終わらせて帰る気でいるんだ的な感じで言われ、新たな紅茶が来た。
これは…

店員が運んで来た長机の上にフットインクッションに鎮座する靴達。

それは夜会やパーティーで履くような美しさと派手さとお洒落さと一目でわかる高級感…

「何ですか、これは?」
と聞くと、
「王子殿下やログワット様それぞれから注文を頂きました靴です」


白いハイヒール5足って言ってなかったかしら。
「私の…ですか?」

「もちろんです。ティアラ様のサイズに合わせて作らせていただきました。では、こちらの王太子様の発注された赤の靴から…」

机の上に並んだ靴。
左から、薄い緑のハイヒール、中央に光る大きな宝石が付いている。その隣、青いハイヒールに細かく全体的に宝石がまぶされているかのようにピカピカと眩しい。中央は、薄い赤のハイヒールに薔薇を模した飾り、その右側薄い黄色のハイヒール、靴の縁取りのように宝石が満遍なく付いていた。その隣に黒の靴…
これは、シンプル。弔事の時に履こう…

何故このカラー?
クリスマスパーティーを思い出すのだけど、なんか自分の色って高位貴族にはあるの?
ドレスもないのに何故か靴だけ一人歩きしているように思えて苦笑した。

「あの~、この白い靴だけ頂くってことは…」
と言ってみれば、店員さんがサッと青褪めて
「申し訳ありません、デザインがお気に召しませんでしたか!直せるところは直します!すいません」
と頭を下げられてしまった。

やってしまった。
この靴達は当然私のサイズ…オーダーメイドなのだから、私が嫌だと言えば処分に値する言葉になってしまう。

「いえ、こんな素晴らしい靴を合わせて6足もなんて夢のようで、頂いて良いのかと恐縮しただけです」
と身振りも合わせて店員さんに話した。

すると、
「自信作ですから!」
と自慢のデザインと縫製など説明され、併せて調整され、気がつくとすっかり日が暮れた。
「申し訳ありません、家に帰らないと」
と言えば、
「では、調整しておきます。こちらの白い靴は整っておりますので、お持ち帰りください」

「はい、ありがとうございます」
「失礼する」
と聞いたことがある声がして、そちらを振り返ってしまった。

「「あっ」」

しっかり顔を合わせた。
「シルベルト様…」
「ティアラ嬢…」

気まずい。

靴!
「シルベルト様、この度は素晴らしい靴をありがとうございます」
と御礼を言えば、まるで同じ人物か疑わしくなるほどの笑顔で、
「あぁ!良い出来だっただろう、あの靴!最終確認をと思ってもう一度訪ねたんだが、ティアラ嬢が気に入ってくれたなら、嬉しいよ」
と言われた。

青い靴…あの信じられないぐらいピカピカ光り輝いている靴…靴全体に細かい宝石が散りばめられていて、履いただけでパラパラと宝石の煌めきが落ちてしまいそうな…非実用的な靴。

「いや、靴のサイズの調整がちょっと難しいかなと思って、せっかくの靴としての流線美が乱れてないかって…いや君に似合っていれば線なんて崩れたっていいのだけど…気になって。出来れば最高に良い物を君に贈りたいとね」
と何故か照れ照れで言っていた。

あれは、やっぱり履く物なのね、すっかり飾る物だと思っていたし、あれだけはきっと一度も使用はないと思っていたわ。

「は、い。ありがとうございます。シルベルト様は大変お詳しいのですね。私はこのような高級店も初めてで、色々無知で恥ずかしいですわ」

これでわかったかな?公爵令息様と私みたいな無知な貧乏令嬢とは世界が違うからもう構わないでくださいって伝わったかな?

「いや~、詳しいわけではなくて、想像してね、きっとこの形が君の足の形には合うだろうなぁと」

想像?足の形?
何それ…
なんか変、
この人に足なんて見せてないよね?
何言っているのこの人!!!

後退りした。
すると店員さんにぶつかってしまった…
店員さんの顔を見れば、やはり怪訝な顔を一瞬して私と目が合って慌て笑顔で何も聞かなかったかのような態度を示した。

あぁ、ここは何も聞かなかったという態度が正解なのね。そうよね、だって相手は公爵令息様…

私は何も聞いてない

「では、私はこれで失礼します。あまり遅くなると家族が心配しますので。明日は頂いたこのハイヒールを履かせてもらいます。ありがとうございます」
少し腰が引けたままシルベルト様に挨拶をして、店員さんに別れを告げ、プレゼント用に包まれた箱を抱きしめた。

「あっ」
と声をかけられた気がするが怖いから無視をする。

「どうしよう…あの靴達…」

前方にセオルド様がいた。お買い物かしら?軽く一礼だけした。
それよりも、急いで馬車止めまで歩くが、後ろから荒めな息遣いが聞こえた。

怖い怖い、何かが迫ってくるかのごとく…
「待って、待って欲しい…ティアラ嬢。その…もし…いや
…せっかくなので…新しい靴の調子を見たいからダンスを一曲踊らないか?」

あぁ…
振り返れば、とても高揚した美しい顔の変た…シルベルト様がいらっしゃった。

嫌だ、
絶対踊りたくない!
踊ったら最後、またみんなに注目されて何されるか、何を言われるかわからないわ。
嫌だ…

「どうだろうか?もしパートナーの許可が…必要だろうか…」
と何故か絶望感を急に出すのはやめて欲しい…

「パートナーはおりません…けど…生徒会の皆様は確か希望される女生徒と踊られる予定ではありませんでしたか?私は…」
希望しておりません

と言いたかった…
ここまでいって何故私ごときにそんな死にそうな顔をするのか!!
逆にめっちゃくちゃ悪いことしているみたいですけど。

そんなに靴が気になるの?
なら今回はこの靴は履かないで、また先生に借りようか?

ハァ~
「シルベルト様、その出来れば注目されたくないのですよ私は。だから…」
とここまで言うと、

「あれれ、ティアラ嬢にシルベルト?」
と弾んだ声が聞こえた。非常に今聞きたくない声だ。


挨拶しなきゃ、

「シリル殿下、この度は、素晴らしい靴を皆様より頂きとても感謝しております。ありがとうございます」
と御礼を言えば、笑って、
「気に入ってくれたかな?嬉しいよティアラ嬢。で、少し聞こえたのだけど、卒業パーティーの一曲目シルベルトと踊ってくれないかな~その今回の落とし靴の姫としてさ。王太子よりは良いのではないかなぁと思うんだよね。勿論パートナーとしてじゃなくて、本当に副賞がその白いハイヒールだと証明するためにね」
と私にウインクをした。

やめて~~~~
それ脅しですから~

「…は、い」

これは、またしても逃げれないお誘いではなく命令だわ。
「よろしくお願いします、シルベルト様」

…私はいつ馬車に乗って、いつ自分の部屋に辿り着いたか全くわからなかった。
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