靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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28ブランカ先輩

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生徒会室に到着した。

躊躇なく扉をノックするブランカ先輩。
「失礼します」

「…失礼します」
もう二度と来るつもりはなかった部屋…
に再び入る。

「これは女生徒が二名もどうしました?」
とシリル殿下が戯けて言った。その奥で凄く嫌な顔をしたのは、クラード殿下の方。

「生徒会の皆様にご相談事がありまして…」
ブランカ先輩が言い始めると、言葉を待たずに
「新聞部は部として認めない…」
とクラード殿下。

ブランカ先輩も苦笑いして、
「流石に部員が一人になった今、部として認めて欲しいなんて言いませんよ。ただ今回の事も本来なら根掘り葉掘り取材して学園新聞に載せたい所ですが、縁あってここにいるティアラ様と仲良くさせて頂き、刺激をもらっておりますから、ただ私なりに協力させていただきたいだけですの」
と言った。

凄いわ、ブランカ先輩ってクラード殿下にも真正面から意見を言える方なのねと尊敬の眼差しになった。

「君は、入学当初から知りたい事は、一直線に取材として突撃してきて、何故か新聞部を認めろと毎日の要望書が届いていたから、ついね」
とクラード殿下は冷ややかな目で見た。

ブランカ先輩たら、やっぱり有無を言わせず行動派なのか…突然のお茶会の提案を思い出した。

「まぁ、私の事は水に流して下さい。全く貴方様方の婚約破棄で、私達への二次被害、軽く見ておりませんか?ティアラ様に聞いた話では、カミューラ様に目をつけられているとか。彼女の駒になった令嬢がティアラ様にちょっかいを出して、次は、ユリアーノ様にちょっかいを出し始めているそうなのです!ユリアーノ様のご自宅にティアラ様を連れて来いという命令みたいなんですが…ユリアーノ様が板挟みになっていると思うのですよ」
と少しブランカ先輩の気持ちの上乗せが若干入っているけどね。そこはブランカ先輩の頭の中に物語があるのだろう…

「ユリアーノ嬢とは三年のゼルシュ伯爵令嬢か、確かカミューラの新しい婚約者サイモン殿の元婚約者…」

「クラード殿下がどこまでご存知かわかりませんが、すげ替えられた事ぐらいは理解していますね。ご自分がなさった婚約破棄ですから。あのプライドが高いカミューラ様が殿下に破棄されたという事実よりも献身的な愛という噂で上書きしていますでしょう。ユリアーノ様が奪われた悲劇の令嬢と言われないように、手を回してロフト公爵の末弟の後妻として求められているのですよ、圧力ですわ、ご存知ですか?」
とブランカ先輩は捲し立て話した。


生徒会メンバーは何も言わない。

破棄騒動に関して勝手にした罪の意識があるのかしら?

「まぁ、ダンマリですか?ご意見を聞きたい所でしたが、残念ですわ。ここでティアラ様を名指しなさった所にあの方のプライドの執着があると思うのですよ!落とし靴の姫に選ばれた侯爵令嬢、噂では、クラード殿下の婚約者候補になったとか」

「それはない!」
そこはすぐに否定してくださり感謝するけどクラード殿下、間髪入れずに答えたね…
いいけどね、ただ若干乙女として心に冷風が…

「学園に来てないカミューラ様が噂を信じるもそんなこと私達にわかるはずありません。ただ殿下達がイベントとしたことは、一部の女生徒の馬鹿な噂話や妄想を過激に助長したのは確かですよ。そして何より私に反論も出来ない生徒会メンバーの皆様が一番わかっているでしょう?考え無しの愚か者って」
と言い切った。

ブランカ先輩かっこいい~!

「私達も対策として、カミューラ嬢にはロフト公爵への警告はしてある」
とクラード殿下は下向きで言った。

「ではそれが、ユリアーノ様のご実家へロフト公爵家からの圧力になったのでしょうか?ティアラ様を連れて来いなんて…私の想像では連れて来なかったら、卒業と同時に後妻として嫁ぐよう命じられていると思いますよ」

何故!そんな大事に?
それはブランカ先輩の妄想ではないでしょうか?

「いくらなんでもそれは横暴だろう」
とクラード殿下は言ったけどシリル殿下は否定した。
「ん、確かにありえる話だね。ロフト公爵領地とゼルシュ伯爵領地は隣だ、何か断れない弱味を伯爵が握られているということはあるね、ゼルシュ伯爵の家系は騎士だ、ロフト公爵は文官、大臣も務めるほど交渉や貿易の手腕は長けている。一方でゼルシュ伯爵は、領地経営は苦手分野だろうし」

ブランカ先輩が、
「楔を打ち込みませんか?この中の一人とユリアーノ様が婚約者候補になれば良いのではないでしょうか?勿論、ユリアーノ先輩の意思も考えて、お見合いの席を設けるだけでもロフト公爵家に睨みを効かせる事が出来るのではないかしら?」
と言った。

本人無視で勝手にそんなことを!?

とんでもない人だ…
他人の人生を思い付いた風で提案するなんて…
候補ということにゆとりを持たせてるけど。

「確かにブランカ嬢の言う事はロフト公爵家に対して有効だと思うけど、私はトリウミ王国との縁談が決まっている身だから、安易に答えられない」
と申し訳なさそうにシリル殿下が言った。

いや、そんないじめ問題から婚約問題に発展するなんて、どんだけ蟻地獄のグルグルに落ちれば辿り着くの?

「流石にブランカ先輩、それは、ユリアーノ先輩のお気持ちも無視して勝手な事を言い過ぎだと思います。本当にまずいですよ。婚約問題は本人だけじゃなくて家同士もありますから…
少し落ちつきましょう、ね?」
とブランカ先輩を見れば、ブランカ先輩はずっとフラン様を見ている。

まるで答えを待つみたいに。

「…わかった、この件は私が引き取る」
とフラン様は口を開いた。

「ゼルシュ伯爵家は私も知っている。騎士団に所属しているからな…騎士団長に話に言ってくる、早いが失礼する」
と荷物をまとめてフラン様は出ていった。

ブランカ先輩は頷くと、
「では失礼しました。今後もティアラ様の周りには目を光らせてあげてくださいね。今回の事、学園新聞で書いていいですか?騎士の忠義とか堅牢の令嬢を助ける騎士とかの設定で」
と言った。

意味わからない設定です。

私の事は構わないでくださいな。
いや、その設定の学園新聞って学園小説じゃないですか?

「書くなって言っても演劇にするか市井での物語として発行するんだろう?色々市井の噂話が回るのが早いのは、ブランカ嬢、君が色々発表しているからじゃないのかな?」
とクラード殿下が黒い笑顔で言った。
それをブランカ先輩は、片手で手を振って、
「人は新たな情報や物語を求めているのですよ。喜怒哀楽、夢物語、お金を払ってでも知らない世界に浸りたくなるのが文化ですよ、クラード殿下。それに見られて困る腹の中なら最後まで隠すべきです」
と言って廊下を歩いて言った。

私はこんなふうに意見を言えない。勝手な人だとも思ったけど…
やっぱりブランカ先輩かっこいいと思ったのは、内緒。

「ブランカ先輩、何故そんな情報入手出来るのですか」
と聞けば、
「私達のように被害者の会があるように、セレナさん、いえカミューラ様に陥れられた被害者の会もあるって事よ。ちなみに私はどの会でもメンバーよ!!フフフ権力に対抗する情報…傑作が生まれるわよ~腕がなるわ」

…笑っている。
ブランカ先輩は魔女みたいに笑っている。黒い影が揺れているような。
この学年の方達に何があったか、知りたいようで知るのが怖いと思った。

(あぁ、私が何をしたっていうのでしょう?こんな怖い人と知り合うなんてどんな巡り合わせなの)
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