靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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25遭遇(ティアラ視点)

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備品教室

信じられない、サマリアさん達~~!

縄を結んでないって言われても、両手首ぐるぐる巻きじゃないの!
怪力自慢で引きちぎれというのかしら!!両手使えなければ全然解けないから。

大きな声は、しんどい…
「誰かーー、いませんかーー、ゲホっ」
ハァ、困ったわ…お茶会をしていた時間分、居残り生徒の数が激減しているわ。

でも警備員さんの巡回!
前にクランさんが話していたわ。教室を確認して回るって。だから見つけてくれるはず!!

「助けーてー下さい、ゴッホ」

「どうした?今、行く」
えっ、反応あり…、意外に早くて良かった、助かったわ。

扉を開けた人物を見た瞬間、思わず、
「あ!」
と言ってしまった。ア、「オ」と言いそうだった所を飲み込んだ。
だって、この状況を作った生徒会メンバーの一人の顔だったから。

そして何故か相手も私に驚いていた。
こんなみっともない姿、驚いてしまうか…

「どうした?」
…この状況、遊んで見えますか?なんていうか腹が立ってくる。
「今、助ける…」

「ありがとうございます」
近づく(青)に、複雑な感情になる。

「何があった?」
と聞かれた。
これは、ある意味逆鱗の問いかけよ。感謝の気持ちよりも、腹が立つ怒りの感情が上回ってしまった。

「見ての通り、悪質な妬みの被害に遭いました…例のイベントのせいです…」
思わず、あなた達のせいですと感情のままに言ってしまった。
本当は…悪いのは、こんな酷いことをする人達。

「すまなかった」
(青)が言った。
この方、生徒会メンバーで公爵令息よね?謝られた?

「本当に申し訳ない、こちらの配慮不足だ…」
再び謝ってきた。
配慮不足だと…
違うわ、この人達は自分達が周りに及ぼす影響が全くわかってない。自分の思う通り、好き放題にやっているだけ。

自分勝手、サマリアさん達と一緒よ…

謝るぐらいなら、こんなくだらないイベントやるな!
教室内でも気を使わないといけないし!勝手に私を巻き込むな!!

「もう、名前も出て、変な噂や言いがかりの煽りを受けているんです。何がイベントですか!こんな被害を受けて、副賞を貰ったって少しも嬉しくありません」

思いのまま、言葉にした。
(青)の顔を見ながら…
これは八つ当たり。この人一人でイベントなんて出来ないのに。
わかっている。
私は生徒会メンバー全員を前にしたら、きっと今言った言葉だって言えない。
この人、(青)一人だから言える怒りの言葉。

「そうだと思う。君は、私達にとって命の恩人で、その恩を返したいという気持ちが先走って…
あの日、私をハイヒールで救ってくれた令嬢を探したいと始めたことで…イベントにしたことで君に多大な迷惑をかけた。本来なら地道に一軒一軒回って確認すれば良かったんだ。そうすれば、こっそりと見つけ出せて、こんなに知られることはなかったはずだ」
と言われた。

根本が違う。私は見つけて欲しいなんて思ってない。関わりたいと思ってない。恩人なんて大層な者として捉えて欲しくない…
考え方が違うのね。
公爵令息様とは…

「そんなことをしたら家族総出で騒ぎになるでしょうに…ハァー
何故、そんなに恩返しをしたがるのですか?いくら黒魔術で操られてたからと言っても私、公爵令息のあなた様にハイヒールを頭に落としたのですよ。そんな不敬な事をしているのですから、普通なら私が謝る立場。良くて両成敗みたいなものですよね?」

怒りの感情が引いていく。
この方が悪いわけじゃないことを奥底で理解してはいた。きっかけはあの件で、それは私がお手洗いに行ったからで、靴擦れを我慢すれば良かったことで、靴の踵を踏み潰さなければ…

結局、大元は、私。
そしてたまたま、それが、回って恩人になった。全部偶然。

「いや、あのままだったら確実に家から放逐されていた…身分というより人権さえも失っていたと思えるような…
本当に酷い術だったんだ!」

突然(青)は言い訳じみたことを言い出した。
ハァ?
何言っているの。自分が(ピンク)と仲良くウフフしていた全部が、酷い術だったって?本当にいやらしい気持ち無しですか?
浮気でしょう?単なる浮気心が招いた婚約破棄とかでしょう!

そうよ、この人達が破棄したから、私達に余波がきたのよ!!

「だとしても、皆様が、婚約破棄をなさっているため、たくさんのご令嬢達が、婚約者候補でもその立場になんとしてでも入り込もうとしている事を全く理解していないのですよ。だから、少しのことでパートナーだ、侯爵令嬢だから贔屓されているとか、初めから出来レースだったとか言われて…言われる筋合いがない悪口を言われたりしているんです。…私には、本当に関わらないで欲しいです…」

この勘違いな方に、はっきり言わないと駄目だと思う。全然わかってない。男女のアレコレは私にはわからないけど、酷い術だと言われても関係ない所に影響あったわけで、きっとこの人は何も知らないし、きちんと理解していないのよ。

「わかった、すまなかった…
まだ君をいじめた女生徒達がいるかもしれない。馬車留めまで送るよ」
と言われた。

そんな光景をまた見られたら、いじめを助長するだけだと思うわ。
どうしてわからないの!馬鹿?
「走ってそちらまで行くので大丈夫です」
と歩き出した。彼を見ずに。

「では、後ろをついていく…万が一のためだ」
と言われた。
非常に重い空気だ。
居心地の悪さは逃げ出したいほどに。
でも、彼を見たくないし意識したくないのに、どうもチラッと後ろを気にしてしまう。

ん?
目の端で捕えたのはずっとこちらを見ているセオルド様?のように見えた。
途中で先生に会い事情を説明した。

(青)顔色が…悪い。

泣きそうで
悲しそうで
絶望感が滲み出てて

鬱陶しい

ハァー、言い過ぎたわ。私も自分が酷い目に遭ったからって、乱暴な言葉で責めたてて調子に乗りすぎたかも。

「あの、ありがとうございました。馬車が見えましたから」
と言えば、
「ああ、本当にすまなかった」
とこの世の終わりみたいな顔で言われてもね、対応が難しい…

この人達は、普通を知らないから…同じ目線で考えてはいけないのに。私の方が押し付けがましかったのかも。雲の上の存在に…どうしよう…

「…はい。私の方こそ生意気な口の利き方をしてすいませんでした」

彼は、申し訳ないほど死にそうな微笑みをくれる。
「怒ってないから安心して。私の方が迷惑かけたんだから、早く乗って家でくつろぐべきだ」

彼…シルベルト様は、私をフォローしてくれていて…
自分が言った言葉が、彼を傷つけている事に心が痛くなった。



馬車に乗っても、このモヤついた気持ちが、離れない。
「ウーー、ウーー」
とただ下品に唸る。

なんでこんなに私が悪いみたいに感じるわけでしょうか?
私は悪くない。
絶対に悪くない。

サマリアさん達が悪いし、私は調子に乗っていないし、カミューラ公爵令嬢なんて、どうして出てくるのよ!

関係ないじゃない。

停学中なら、大人しく自宅待機していなさいよ。お友達だか手先だか知らないけど何故関係もない所から口を出すのよ!理解出来ないわ。

ハァーーーーーー

どうしよう。
どうしてあんな事言っちゃったんだろう。黒魔術で操られていたって、肉体も精神も…体験したことないから辛さや苦しみもわからないのに…
自分の意思で婚約破棄をしたわけじゃないかもしれないのに、なんか散々と失礼な事を言っていたよね、私。

シルベルト様は婚約者の方と破棄したかったわけではなかったかもしれない。浮気だってしたくなかったかもしれない。

ハァーーー
決めつけていたな。
この人のせいで私がこんな仕打ちにあっていると。

シルベルト様に言い訳もさせず、ただ一方的に責めた…
サマリアさん達と一緒のことをしてる。

だから、心が引っかかって、心傷つけてあんな表情にさせて、自分自身が情けなくて、後悔している。

最低です。
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