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24遭遇

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(シルベルトside)

「ちゃんと言われた通り脅したり、いじめたりしたんだから、高位貴族を紹介してくれるんでしょ!」

廊下が騒がしい。
女生徒同士の言い争いのようで、キーキー響いている。この角を曲がれば、嫌でも遭遇するわけだが…気になる名前が出て立ち止まって盗み聞きをした。


「カミューラ公爵令嬢が…
良い方を紹介してくれるって…噂になっていて。お願い、お茶会に私も招待してくれるように言ってよ」

「知らないわよ、たかが子爵令嬢が仲間顔しないで」

ドンッと音がした。壁にぶつかった音か?

「私だって、ちょっといじめて来てと言われただけで、都合が良かったからあなたの作戦に乗っただけ。それを一々カミューラ様の名前をあの地味令嬢の前で言って…あなたの取りこぼしよ、私達は何も知らないわよ。万が一あの子が騒いでもただ通りかかっただけ」

「そうよ、私達は通りかかって見て見ぬふりをしただけ。もう二度とカミューラ様の名前を出さないでね、わかった?約束守らなかったら、あなた間違いなくどのお茶会にもパーティーにも招待されないわよ」

カミューラ令嬢?
シリル様が要注意だって言ってた、いじめ?
チラッと覗く。
一人は、落とし靴のイベントにクラード様に食いついていた女生徒で、後の二人は、セレナの教科書を捨てたりしていた女生徒か…またか!

「おい!」
声をかけた途端に、また走り出した女生徒達。

顔は覚えたが…
今の内容だと誰かをいじめたってことか?地味令嬢?先生に確認すべきか?
この話を、早く生徒会のメンバーに言うべきか?

今、来た道を戻ろうとしたが、ここまで来たし、備品があるか無いかを見た方が効率的かな…
とやはり先に調べてからにしよう。それほどかかるまい。

再び歩き始めた。
備品教室の廊下で異変がわかった。

「誰かーー、いませんかーー、ゲホっ」

んっ?
「助けーてー下さい、ゴッホ」

「どうした?今、行く」
さっきのイジメの発言だな、地味令嬢をいじめたとか…閉じ込められたのか!慌て走り備品教室の扉を開ける。

「あ!」「あ!」
と言われ、こちらも同じ対応になった。

地味令嬢の正体は…

目の前には先程サロンで、とても、それはとても楽しそうに男性と話していたティアラ・ビルド侯爵令嬢がいた。



「どうした?」
いや、みたらわかるだろう。
先程の女生徒にやられたんだろう、何を言っているんだ、俺は!

「今、助ける…」
彼女は、
「ありがとうございます」
と気まずそうに言った。

「何があった?」
まあ、だいたいの予想はつく。あの落とし靴のイベントにいた女生徒がいたからな。しかしきちんと本人の口から聞いた方が、これからの対策としてはアリだろう。

「見ての通り、悪質な妬みの被害に遭いました…例のイベントのせいです…」

かなりはっきり言われた。それはそうだろう。

「すまなかった」
女生徒のアレコレはセレナの時よく知っていたはずなのに、また繰り返してしまった。

「本当に申し訳ない、こちらの配慮不足だ…」
と言えば、彼女は俺を睨みつけた。あんなにさっきは楽しそうに、幸せそうに笑いながら話していた彼女だったのに。

俺にはそんな顔は一切ない…

「もう、名前も出て、変な噂や言いがかりの煽りを受けているんです。何がイベントですか!こんな被害を受けて、副賞を貰ったって少しも嬉しくありません」
と言われた。

「…そうだと思う。君は、私達にとって命の恩人で、その恩を返したいという気持ちが先走って…
あの日、私をハイヒールで救ってくれた令嬢を探したいと始めたことで…イベントにしたことで君に多大な迷惑をかけた。本来なら地道に一軒一軒回って確認すれば良かったんだ。そうすれば、こっそりと見つけ出せて、こんなに知られることはなかったはずだ」
と言えば、彼女は、困った顔を見せた。

「そんなことをしたら家族総出で騒ぎになるでしょうに…ハァー
何故、そんなに恩返しをしたがるのですか?いくら黒魔術で操られてたからと言っても私、公爵令息のあなた様にハイヒールを頭に落としたのですよ。そんな不敬な事をしているのですから、普通なら私が謝る立場。良くて両成敗みたいなものですよね?」
と彼女は本気で訴えている。

これは、本当の事を話すべきだろうか?しかし、淫魔とキス…
いや、駄目だ。ご令嬢には刺激が強すぎる!!

「いや、あのままだったら確実に家から放逐されていた…身分というより人権さえも失っていたと思えるような…
本当に酷い術だったんだ!」

上手く誤魔化せただろうか?

「だとしても、皆様婚約破棄をなさっているため、たくさんのご令嬢達が婚約者候補でもその立場になんとしてでも入り込もうとしている事を全く理解していないのですよ。だから少しのことでパートナーだ、侯爵令嬢だから贔屓されているとか、初めから出来レースだったとか言われて…言われる筋合いがない悪口を言われたりしているんです。…私には、本当に関わらないで欲しいです…」

ドガンと頭の中を殴られたような気持ちだ。
いや彼女の立場なら、そう思って当然だ。俺が配慮が足りなかった。恩人なのに…

「わかった、すまなかった」
その言葉を絞り出して、
「まだ君をいじめた女生徒達がいるかもしれない。馬車留めまで送るよ」
と言えば、
「走ってそちらまで行くので大丈夫です」
と歩き出した。

「では、後ろをついていく…万が一のためだ」



心が痛かった。
まさか、『関わらないで』なんて言われるとは思わなかったから。

令嬢にそんなこと言われたのは初めてだ。いや、誰にもそんなこと言われたことはないな。
どうしてこんなに痛いのだろう…
恩人に言われたからか、恩を仇で返すとは私のことだろう。

途中で先生に会ったので事情を説明した。まず傷ついた彼女を送ってからもう一度自分が説明に行くと話をつけた。

黙って後ろをついて歩く私を何度もチラッと見ては前を歩く彼女。
気にしているのか、俺を。
優しいな、彼女は。
あんなに怒っていて、怖い思いもして、あの女生徒達に罵倒されたはずなのに、怒った相手まで気にしている。

そんな顔をしないで欲しい…
君を困らせたいわけじゃなくて…
贈り物をして喜んでほしかったんだ。
俺にも幸せそうに笑ってくれないかな…

ハァー
なんて不様な男だろう。

「あの、ありがとうございました。馬車が見えましたから」
と言われた。
「ああ、本当にすまなかった」

「…はい。私の方こそ生意気な口の利き方してすいませんでした」

ちゃんと彼女を見た。
俺には勿論笑ってはくれない。ただ顔色を悪くしていた。
「怒ってないから安心して。私の方が迷惑かけたんだから、早く乗って家でくつろぐべきだ」

馬車に乗る彼女を見送った。

サロンで見た彼女とは大違いで、さっきの男は彼女をあんな笑顔にして、俺は心配や恐れ、そんな顔を彼女にさせている。

最悪だ。

心が折れるってこんな心境なのかと初めて知った。
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