靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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21お茶会

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学園内のサロン

「本日はお日柄も良く私達のお茶会に来ていただき、いえ来てくださって、非常に感謝しております。そう、そうでした、気軽な会ということで堅苦しい話はここまで、みんなで友好を楽しみましょう。」

とユリアーノ先輩の少し辿々しい挨拶から始まった。
私の隣には、クランさんが着席している。
凄い緊張する。

いつも警備員の服だったので私服なんて…どこか別の方、外で会う大人の男性だ。
黒のビロード生地の細身のジャッケットに中の白シャツ、そして黒の細身のパンツ、飾り気が一切ない。
しかしすでに体格やその他諸々学生では絶対有り得ない、がっしりして、安心感が半端ない。
シンプルがより一層大人の魅力的な色気を引き立てている。周りの空気が色香で漂いそうで…

「ティアラさん、ご気分が悪いのですか?」
と聞かれ、

クンクンしているの見られた!?
誤魔化さないと!

「いえ、そうではなくて、実は、私もこのような会は初めてでして。ユリアーノ先輩同様緊張しております」
と小声で話した。

自己紹介ということで、ユリアーノ先輩、ブランカ先輩、私、ティアラの三人とブランカ先輩の新聞部から三年のアラン先輩、ユリアーノ先輩の幼馴染のギースさんと学園の警備員クランさん。
ギースさんは騎士団に所属中で衣装も制服で参加。

つまり

「いや、参ったなぁ、私も制服に着替えてこようかな。一人だけ浮いていないかい?」
とクランさん。

ブランカ先輩が、
「クランさん、とてもいいですよ!ザ大人の男という感じで、場慣れ感とお洒落感の融合ですよ。とても新鮮で学園新聞でも大人の社交場のコラムを一本書けそうですよ」
と言い、アラン先輩も
「私も学園卒業後、制服を脱ぎ私服に戸惑っていたので、そんな感じを着るのかと参考になります」
と言っていた。

「参ったなぁ」
と笑うところがまたチャーミングです。

「全く突然ユリアーノが婚約破棄されて、これから社交場に出なきゃ行けないって相談されて来てみたが、全く話さないじゃないか」
とギースさんは、ニタニタしている。

「うるさい、ギース。少し戸惑っているだけですぐに感を取り戻すわ」
とユリアーノ先輩が言えば、ギースさんは更に揶揄う。

「フフフ、とても仲が良いのですね」
と言えば、
「そんなことはない」
と急にギースさんが否定した。



「私達、突然婚約者を取られてしまうという驚きの体験をした仲間ですが、私はなんていうか新たな情報、人脈が広がって話を聞くだけで楽しいのです。今回もこの学園の生徒会主催のイベント『落とし靴の姫君を探せ』で見事姫に選出されたティアラ様に直接イベントの話を聞けて、みんなが知りたい、私が知りたいこと満載の記事が書き終えましたのよ。やり切った感がありますわ」
とブランカ先輩が熱く語る。

嘘でしょう!?

「本当にあの話を記事にしたんですか!貼り出されるのが怖いのですけど」
と言えば、
「凄いじゃないですか、ティアラさん姫君に選ばれるなんて。ブランカさん記事楽しみにしています。校内を巡回する時に見学出来ると嬉しいですね」
とクランさんが大人のフォローを入れてくれる。

やはりかっこいい。
長い前髪が、目線を隠し私を見ているのかもわからないが頬に熱が溜まる。

すると、突然扉が開いた。

みんな一斉に振り返るとサマリアさんがご自分の友達だと思われる女生徒達と現れた。

「あら、このサロンかと思ったら、使用中だったわ。あらあら、被害者の会の皆さんがお使い中でしたか!失礼しました。ほら、やっぱり時間の無駄だったでしょう?」
と笑いながら、扉を閉めた。

「一体なんなのかしら、あの子」
とブランカ先輩もユリアーノ先輩まで
「性格悪い子よね、泣いていたと思ったらやさぐれちゃって…。元から意地悪なのかしらね」
と言っていた。

どういう事情があるのかわからないけど確かに感じ悪い空気を出していた。

「まぁ、本日はサマリアさんはご欠席と聞いてますから、あの方の事は放っておきましょう」
と先輩達を宥めた。

すぐにクランさんが警備員の失敗談を話して場を楽しませてくれて、ギースさんが騎士団の練習の過酷さと野営で蜂に追いかけられて最終的に川の中に逃げこんだ話をしてくれた。

二人とも流石就職しているだけあって、面白おかしいエピソードを話してくれる。

だから私も先日の靴屋の失敗談を話した。
「まさか靴の採寸の前に飲み物を選ぶなんて知りませんでした」
と言うと、アラン先輩が
「確かティアラ嬢は、侯爵令嬢ではありませんでしたか?」
と疑問形で聞かれたので、
「お恥ずかしい限りですが、我が家貧乏侯爵家で、何故新年に王宮で階級の降格を宣言されなかったかわからないぐらいなんです」
と申し訳なさげに話した。

すると、思いついたかのようにギースさんが
「新年か…いや、年の瀬あたり急にある男爵家を一斉に捕縛して大量の書類を王宮に運ぶのに人員駆り出されたな。文官達も先にその書類の解析が回って四苦八苦していたよ。そして新年明けたらお取り潰しの上、処刑だろう。何ごとかと思ったな」
と話した。

ブランカ先輩は口を手で押さえた。
嘘、処刑って



「何かごめんな、ブランカ嬢」
とギースさんが謝ってユリアーノ先輩が、彼の頭を叩いた。

「違うの。私、彼女にも何回も取材させてもらったの。なんていうのかしら、決してめげないで自分の欲に忠実、それでいて私達とは違う光の中心を歩くような人…
他人の話を聞かないような人だったから、黒魔術を使用して生徒会メンバーを操っていたと聞いて、納得する部分も見えていたの」
とブランカ先輩が言えば、アラン先輩が、
「不思議な人でしたよね。生徒会メンバー以外気にしない。真っ直ぐでそれなのに、他の人間なんて見えてないようで、でも悲劇の主人公のようにもなる。不思議だった」
と話された。

私は接触がなかったから知らない。

「いや、あのクリスマスパーティーの婚約破棄からの元婚約者達への断罪は驚きましたから」
とクランさんが横の私を見た。

ああ余計なことは言わないで!

「ティアラさんも大変な目に遭いましたね」

「ハッハハハ」
…笑うしか出来ない。
「突然何が起こるかわからない」
ユリアーノ先輩が言った。

確かにそう。

「選択肢がなかった私がいろんな事が出来るなんて思わなかったもの、私の家は代々騎士ばかりで娘は唯一私だけ…だから縁の関係上、婚約していたけど本当はあの方苦手だったの。野心が見え隠れしていて」
とユリアーノ先輩が言った。

「えっ、マジか」
幼馴染のギースさんも驚いている。

「そうしたら、今度は、後妻なんて話を父様からされた時は焦ったわ。でも自分勝手に少し歩いてもいいかもしれないわ。いつ死んでしまうかなんて誰もわからないもの」
とユリアーノ先輩は清々しく前を向いて話してくれた。

「確かに私も自分の至らなさばかり感じて棘のように深く刺さって考えてしまっていますね。もっと楽しめる私になりたいです」
と言えば、クランさんは、
「とても立派だね。君達はまだ若い。世間を知らないで箱の中に入っているご令嬢は汚れていなくて綺麗だけど、鑑賞用になりがちかな。男もちゃんと会話のキャッチボールが出来る物事を知る令嬢の方が、楽しくて面白くて毎日が飽きないっていう奴も多いんだよね。ちなみに私は、後者のご令嬢の方がすきだな」
と言った。

好きだって。
箱入りより好きだって。
傷物の方が好きだって。
(それは言ってない)
ハアーーーーーそれ、聞けただけで十分幸せーー

婚約破棄されて良かったわーーーー!

そんなクランさんの言葉に酔い、もう私は他人の話を聞かなかった。
(素敵だわ~)
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