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20靴の魔人

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(シルベルトside)
生徒会室

「いつ、靴屋に行こうか?」

シリル様が言った何気ない言葉。

「もう採寸は終わった頃合いだと思いますが、彼女の様子だとのんびり優雅に靴屋で色々見るということもなさそうですし…注文をつけるというタイプにも見えませんね」
とログワットも言った。

「フフ、忙しない女生徒だな」

ん?フランお前は寡黙キャラでいろ…彼女のことをあれこれ言うな!
と睨みつけたのは仕方ない。

「シルベルトは、考えているのかい?靴のデザイン」
とクラード様に聞かれ、

「まぁ、一応、サファイアを散りばめた華やかな鉱石の靴を…」
と言うと、


答えがない。
「鉱石の靴って!それは、どうやって踊るのさ?」
とログワットが呆れながら聞く。

「いや、飾る物として調度品にしても良いではないか?」
と言えば、シリル様も顔を振って
「わかってないよ、シルベルトは!彼女は飾る物を欲しがってはいなかったよ。そういうタイプには見えなかったし。使える物を希望していたと思うよ。もう少し令嬢の言葉や仕草を観察した方が今後の為になると思うな。頑張れシルベルト」
と言われた。



「手を動かせ、卒業式が終わればすぐに新年度、入学式、歓迎会だぞ、私も春休みは学園には来られない。再教育と国王に言われている…前倒しで執務を終わらせろ」
とクラード様はサインを書くスピードが尋常じゃないぐらい早い。
そういう私も春休みは領地送りで再教育を言われている。これぐらいで済んだことに安堵している。

「お前は遊ぶな」

父上の一言。そして家族は笑っていた。あれは色々バラされているような…ますます、俺に対しての母上の視線が残念な者を見る目になってきている。せめて嫁いだ姉上だけには伝わらないでもらいたいと願っている。

「申し訳ありません。クラード様。すぐ歓迎会の予算も割り出します」
と言えば、


話を止めたはずのクラード様から、
「シルベルト、さっきの話だが、鉱石の靴という部分を止めれば、夜会やパーティー用の見栄えがいい靴になるんじゃないか。例えばサファイアを細く砕くものを万遍なく全体に貼り付けるような…」
と言われた。

おおぉ~

「クラード様、それは予算も職人の手間暇も尋常がなさそうですけど。パーティー会場で靴だけ照明光が反射しっぱなしじゃないですか?」
とログワットも想像上の靴を思い描いているようだ。

「まぁそうだね、でも貼り付けるっていうのは良いね。ドレス一式贈るよりは安くあがるね、きっと」
とシリル様にも言われたが、
「お言葉ですが、恩は金額じゃありません。もちろん気持ちですから!でもやっぱり宝石をドカンとですね」

フッフッ
良いこと言ったな。
女性の扱いに慣れているシリル様だが、そういった忠義的な意味合いはわからないはずだ…
ずっと、側近として支えてきた俺は忠義の心はかなり熟知している。

みんな一斉に私を見て、うわーと同情してから目を伏せた。

「んー…シル、なんて言うか色々残念だよね、君って。もう少し美的感覚を研ぎ澄ますべきか、素直すぎるのもどうかと、いや…きっと自分を理解した方がいいと思うよ。いつまでも恩とか言ってないでさ。学園にいるのも一年と限られた時間でしょう?お姫様はあっと言う間に違う者の手を取るなんて当たり前の話だよ。セレナによって自由恋愛に臆病になってしまうのはわかるけどね…」
とシリル様に言われたが、何を言っているのかわからない。

「自由恋愛ですか?」
と聞き返したけど返答はなかった。
みんな仕事をこなしながら何かを考えているようだったが、俺にはピンっとくる話ではなかったようだ。

そして二日経ち急ピッチの生徒会の執務も終わりが見えて学園長のサインを貰ったり、先生方との打ち合わせ、細々としたチェックを残すだけとなり、いざ、靴屋へ!
あの白い肌、滑らかな曲線に合う最高の逸品を贈る…

「シルベルト、何か暑苦しいよ」
とクラード様に言われた。

何故?何もしていないのに。
もちろん何も話してない?

「みんな最後の追い込みで手首と目を酷使していただろう。安心すると疲れが出るだろう?わからないか、この唐変木」

と言われても。

「ログワット、余計に疲れるから相手にするな色ボケが考えることも何を言いだしても惑わされるな、そして期待するな」

「そうですね、クラード様」

全くこいつらは、やっと解放されたこの昂りを楽しめないなんて、頭を仕事脳に変換されているな、残念な人達だ。

「憐れみの目で見るな」
「本当にウザイ」

「でもシルベルトの気持ちも私はわかるよ。だって誰かに贈り物をするってなんかワクワクするし喜んでくれるかなと考えるだけで仕事していた脳が幸せになるよね」
とシリル様。

「流石シリル様です。私もその言葉を言いたかったのです」
と拍手したくなった。

実は私もシリル様ぐらいの男の流儀的なものが感じ得ているのかもしれないな。浮き名は流していないが、紳士としての教育は完璧だ。

最近はあの生足の映像が浮かぶぐらいでは、私の息子も我慢出来るようになってきた…
大丈夫だ、誰にもバレない。
バレてはいけない。

あとは靴の匂いに惑わされなければ!よくよく考えて私は、足や血の匂いではなくて靴の匂いに惹かれていたのではないかと気づいた。

やっと冷静になれた気がする。
(ずっと例の落とした靴を見ながら、ひたすら考えた)

そしてあの靴とは別れは告げた。
新しい靴と共に返そうと思っている。絶対その方がいい。俺の手元に置いておくと、メイドや執事が変な顔をするから…

お別れは告げてある。今日新たな靴は門出だ。俺としても彼女に恩を返せる時、それは何とも言えない幸福感がある。

「本当に良かった。やっと渡せる」

そんな呟きは他の生徒会メンバーの呆れた顔が勢揃いした。



「おいシルベルト、まだ悩んでいるのか?近年の流行の形で良いだろう」

「いえ、彼女は少し甲が高いので、この見える部分をシャープにした方が美しいラインが出ると思うんです」
と言えば、デザイナーが、
「確かに…この採寸では甲が高めですが、通常デザインでも範囲内…
シャープにして更に高さを目立たせるのですね。それなら…」



「そうするとヒールの高さも変えた方がいいかな」


「ちょっと待てつま先部分の形のバランスと崩れていないか、おいデザイナー、これは美しさが損なわれる可能性がある。あくまでも足が主役だ。デザインコンテストではないだろう」

「はい、申し訳ありません…」


『嘘だろう、あいつティアラ嬢の足の形覚えているのかよ、変態じゃないか、かなりヤバいな…』
顔を見合わせた4人…

「…先帰るよ、私達は。公爵家には連絡しておく」
「…じゃあな、シル」
「…楽しい時間をシルベルト」
「また」

「世界で一足しかない物がいいんだ。デザインが多少奇抜でも、やはり履きやすさも重視したい。彼女は靴擦れを起こしやすいから、皮は柔らかめは譲れない」

白熱した靴デザイナーとの攻防は、知らない間にメンバーが帰っていて、靴屋の扉を開けたのは我が家の御者だった。

「…シルベルト様、あのそろそろ夕食の頃合いだと…」

あぁ、充実した論争を繰り広げられたな。あの足をいかに美しくみせるか考え語るのは非常に楽しかった。

甘く、美味そうに、白い肌がスゥーとあの靴の入り口から滑らかに入っていく。想像、
それだけで血が一箇所に集まって…

私の下半身がまた勝手に集中し始めた。
私は…
変態ではない、ただの思春期の男だ…
(ハァー毎回、どうして…)
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