靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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イベントもあっけなく終了したし、次は問題の方を解決しなければ。

本当に被害者の会のお茶会をどうしたらいいのかしら…やっぱり申し訳ないけどミンネを巻き込む形でお願いすべきかしら?
「でも何も御返しが出来ないのが心苦しいところなのよ」
と一人朝からブツブツと独り言を言って正門を潜り歩いていれば、

「あぁ、クリスマスパーティーの裸足の生徒さん」
と声をかけられ、顔を上げながら、思わずシィ~と言ってしまった。警備員の服が目に入る。

「あぁ~、あの時はありがとうございました。スリッパ助かりました」
と言って目の前の人の顔を見る。
…茶色の髪、目にかかるぐらい長い前髪、肌色も健康的で鼻梁も真っ直ぐ、唇は薄いタイプ…
朝の光ではっきりと若さというかイケメンぽさがわかるわ。

うわぁー私ったらなんていやらし目で警備員さんを見てしまったのかしら。お茶会を誘う人のことばかり考えていたから、無意識的に人の顔を…顔で判断していいわけないのよ!
馬鹿だわ、私。

「どうしました?」
と聞かれ、動揺した感情を落ち着かせないと、一呼吸してから、

「いえいえ。すみません、スリッパお借りして御礼も言いにいかずに失礼しました」
と言えば、ほんわか優しい空気を出してくれた気がした。
話す間が私を待ってくれるような。

「いえ、あれはこの学園の持ち物ですし、気にしないでください。それより下ばかり向いていると目の前の人間にぶつかってしまいますよ。気をつけて下さい」
と言われ、頷いた。

目元は見えないが随分と顔立ちは良い、大人の落ち着きとか優しさとその間にあった空気が無理をしなくていいみたいな…素敵な男性な気がした。
ふんわり笑ってくれたのか、少しだけ前髪が揺れていた。

去っていく後ろ姿に興味を引かれながら別れ、教室に入る。

「新情報よ、今日生徒会からあの落とし靴の姫君探しから当てはまる女生徒が呼ばれるって話よ」
と盛り上がりを見せていた。

「おはよう、みんな」

私の挨拶よりも生徒会のイベントの方が興味深々で、悲しいかな無視されている。

「あら、ティアおはよう。今の話聞いた?さらに選抜があるそうよ」
とミンネに言われ、苦笑いをした。
どこからの情報?
これはあえて生徒会が情報を漏らしていると見るべきなのかしら。

それより、
「そうだ、ミンネ、学園の警備員さんって知っている?若めの茶髪の前髪長めの方!」
と聞くと、少し驚いた顔をされたがニタリと笑って、
「ティアラ様、あらそっち系気にするなんて珍しいこと!でも流石、お目が高いわね。あの人は三ヶ月前あたりに入ってきた人。かなりのイケメンよ、名前はクランさん、何でも叔父さんがこの学園で警備員をやっていたのだけど腰痛になりピンチヒッターですって。春には叔父さんが治れば交代して治らなければ辞職するって言っていたわよ」

「随分とミンネ詳しいわね」
「それはね、イケメンアンテナ立っているから、なんてね!一度立食パーティーに来たことがあるのよ。クリスマスパーティーの後だったかな…」
と言われ、
「え?そういう集まりに警備員さん誘っても良いの?」
と聞けば、

「まぁ、イケメンは蜜蜂を寄せるからね~平民でも関係ないでしょう。ほら、婿養子募集中の子もいるから。誰かが誘ったのよ」
とミンネは笑って言っていた。

「確かにね」
紹介システムは、第一印象が色濃く出るかな。朝の事を思い出せば、まず性格より目が引く容姿に惹かれてしまった。私的にクランさんは完全にアリだ。

「例のお茶会のこと?平民オッケーなの」

「わからないけどね。身分的な事を言っていたのは同学年のサマリア様で先輩方は年上希望だったはずなの」
と少し困った顔で言った。
もしミンネから、仕方ないから紹介してあげる的な言葉を言われたらと、少し期待していた…

「年上は年上だったよ。確か20歳だったと思う」

紹介はしてもらえないか。
確かに図々しいわよね。築いてきた人脈を無断で借りるようなものだからね。

「そう、ありがとうミンネ。聞くだけ聞いてみてだけど、これで私のノルマが達成されるかもと思うと…やっと少し気が晴れたわ」

警備員のクランさんに帰宅する時に声をかけてみようと思った。違うパーティーに顔を出しているなら、もしかしてお願いを聞いてもらえるかもしれない、フフフッ

しかし、その前に私を呼ぶ華やかな人が教室の扉に現れた。
爽やかイケメンは私を一瞬でピンチに追い込む。目が合った。口を開かないで下さい。
祈りは呆気なく絶望に誘う。

「いたいた、ティアラ嬢、悪いんだけど今日の放課後生徒会室に来てください。落とし靴の姫君探しのイベントの続きね」
と軽いノリで扉から手を振るシリル殿下を見て青褪めた。

何故私なの!
どこでバレた!

教室内も驚いている。

まさかの話題の中心人物!
時の人!

クラスメイトに囲まれた。勢い、話す圧が凄い。

「ティアラ様は靴をピッタリですって言ったのよね」
「そうよ、つま先だけ履いてピッタリって言ったのよね、履いてないのよね、嘘を言ったのに」
「嘘だったの?」
「でもピッタリって答えていた私達も同じなのに次は呼ばれてないって事は、どういう事?」
「いいなぁ、羨ましいわ、王子様とダンス出来るのではないかしら?」
「何か他もあったんじゃない?」
「でもあの時変わった事なかったわよ」


非難、羨望、妬み、イベントに正解を求める子、様々の言葉の矢が刺さる。

確かに、みんなと同じようにピッタリと言いました。違いはなかったはず…

「身分的にね…
侯爵令嬢だから」
と誰かが皮肉を込めて言った。

生徒会メンバーのニコニコ笑顔、あれはフェイクか。何かを見ていたのかしら?

何が正解だったのか私に教えてください。どうして…
やっぱり気付かれたと考えるなら、こんなまどろっこしい方法を取るかな?

考えてもドツボに嵌るようで、ただ分かっている事は、気付かずミスを犯したのかもしれないって事。森に紛れ込めたと思ったけど。
もしくはランダム、本当に偶然かも知れない。

次は失敗出来ない。どうにか誤魔化さないと。

「大丈夫?ティア、顔色悪いわよ。驚きすぎてパニックになったのかしら?まさか選ばれるとは思わなかったわ。最近ついてないって言っていたけど、ここに来て強運が来たのよ。このクラスではティアしか選ばれていないから、是非落とし靴の姫君に選ばれてね」
とミンネを中心とした女生徒の一部に羨ましいけど折角なら頑張ってと言われた。

そしてもう一方の女生徒の集団には、
「何だ、やっぱり階級重視ってことか、ハァ~つまんないわ」
「でも、見た目で選ぶわけじゃないのね、私、あの日気合い入れて化粧しなければ良かったわ」
と言われた。

見た目…地味な私が選ばれてごめんなさいね。私まだここにいるのに、思いっきり馬鹿にされているわ。
…僻みは生徒会の非難に変わっていた。

ミンネ達は、他所のクラスまで情報収集に行ってしまい…
こんなはずじゃなかったのに。
喜びも楽しい気持ちにもなれない、引き攣った笑顔しか出来なかった。
(どうにかこの状況を抜けたい。これって強運じゃないよミンネ!)
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