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お茶会か…誰かに声をかけなければならなくなった。
ハァーーー



「今日は私達の番だよ。落とし靴の姫君探しのイベント!」
と声の大きいミンネは、目をギンギンにして(キラキラでは絶対ない)野心だか野望だか丸見えの涎を垂らした獣状態だった。
こちらもか、と進む一歩が重いながら教室に入った。

すぐに時間となり、生徒会から指定された会場へと移動する。

ミンネのように他を威嚇する令嬢もいれば、さらっとしている人もいた。

生徒会メンバーはメモを取っているようだが…ブランカ先輩達の話と少し違うような…

「クラード殿下、私ピッタリです」
「私の方がピッタリです」
「はあ?私なんてこの靴で走れるぐらいピッタリです」

ここら辺はブランカ先輩達の話と一緒だわ。
「今日は体調が悪くてハイヒールが入らないですが、明日なら履けます」

明日だって無理でしょう。踵を削るか爪先を曲げるかしなければ無理でしょうに…
生徒会メンバーを見ていれば、全員否定もせずにうんうんと頷いていた。
もう考える事をやめたようだ。
貼り付けた笑顔が胡散臭すぎる。聞いていた通り、そこまで真剣ではないみたいで…

早く帰ろう。

私の番になり、つま先だけ入れる時に気づいた。これは私の借りたハイヒールではない。だって血がついていないもの…
踵は少し折れ曲がっていたから、あの時の靴かと思ったけど。

「どうしましたか?ご令嬢?」
声をかけられてしまった。
(青)だ。
つま先だけ入れた状態で止まってハイヒールをよく見てしまっていたから。動きを止めていたのを怪しがられたようだわ。

いや、どっちにせよハイヒールのサイズは合ってないだろう。合っていても私のではないから関係ない。

どちらを言うべきか?

「…私には、ピッタリです」
と言って足をいれる振りをして、すぐにハイヒールをつま先から抜く。
絶対(青)の方は見ない!何となく見られている気配がする。
一礼だけしてすぐに会場から出る。

教室に戻れば和気藹々、あのギンギンな獣はいなかった。
戦いは終わったのね、良かったわ。
「本当はちょっときつかったかな」
「私はあのハイヒール大きかったかな」
なんて感想を言っていた。
「ティアはどうだった?」
と聞かれ、
「私にはつま先だけで精一杯だったけど、無理矢理ピッタリですって言ったの」
と言えば、
「あら、やるわね、入らないと誤魔化しようがないけど、まぁ一瞬じゃ見ても見なくてもよね、結局は自己申告よ」
と言われた。
みんなと同じ回答を私は選んだ。

そしてみんなも私の回答に興味はない…紛れたと確信をした。

とりあえず、ブランカ先輩には聞いていた話と違う点だけ伝えた。

「では、生徒会メンバーの探し人は一年生ってことね」
と言われたが、
「貼り付いた笑顔が胡散臭すぎてメモを取っていたかはわかりません。フリの可能性もあるのではないかと疑いましたけど」
と言えば、またブランカ先輩は考えていた。別れを告げ馬車に乗る。

あの人達は、何がやりたかったのかしら?
見つけて御礼をしたいって言っていたけど、あれは私の落としたハイヒールではなかった。同じ物をわざわざ購入したの?
これだけの為に?
もしそうだとしたら…
なんてくだらないイベントなのかしら。考えた人はご苦労様でした。私は絶対に名乗り出ませんから。

一人で少しだけ笑った。
意趣返しなんて、私もどうしようもないけれど、あの方達の婚約破棄騒動のせいで影響を多大に受けた私としては、密かにザマーミロと思った。

「なんでも自分達の思い通りになるなんて思わないで欲しいわ」

再びほくそ笑んだ。


(シルベルトside)

一方、生徒会室では、
「人数が限りなく絞られたね」
とシリル様に言われた。
「どうした?シル難しい顔をして」
とログワットが聞いてくる。

言うべきか…
「気になる女生徒がいる…」

「あぁ、シルベルトは、一人の女生徒に声かけていたね。見ていたよ」
とクラード様に言われた。

「ティアラ・ビルド侯爵令嬢だね。靴の基準には当てはまったのかい?まぁ、どっちでもいいよ。一年生だし、生徒会室に呼んで気になった事を聞けばいいよ。シルの勘でいい」
とシリル様は言うが…

気になったことだって。

言えない。
もう一度、次は、はっきり足の匂いを嗅がせて欲しいなんて…

靴なんて彼女は履いてなさそうで適当に『ピッタリ』と言っていたような…
まぁ、本物の落とした靴なら、『私のです』と言うのか、ピッタリと言うのか?

ハイヒールを履く時の僅かに上げていた足のつま先から、何かを感じた…視覚、嗅覚、が美味そうと。

これを言ったら絶対に変態扱いされる。

覚えている限り声が似ていたような気がする。これでいこう!

「いや、声が似ていた気がする…」


どうして誰も何も言ってくれない?

背筋に冷たい何かを感じた。

「いやシル、声を覚えていたなら他の女生徒にも声をかけないとダメだろう?」
「ピッタリですの言葉を聞きわけていたのか?」
呆れられながらクラード様とログワットに聞かれた。

いや、どの女生徒の言葉も同じようにしか聞こえなかった…
聞きわけなんて出来ない。
上手い言い訳が思いつかない、今はとにかく誤魔化したい。深掘りされたくない。

「だから、勘ってやつだ。声が似ていた気がする、そんな曖昧な勘だ。だから聞きたい事と言われても困る」

なんか汗が出てきた。誤魔化せ!


「まぁ、そういうのもあるかもね~。実際にはシルベルトしか話していないわけだしね。落とし靴の姫君とはさ」
と俺に向けてウインクするシリル様。

今の俺の言い分を信用していないようだ。
どうすべきか…絶対匂いのアレやコレを知られるわけにはいかない。公爵令息としてよりも友達と思っている者達からの失望と非難や軽蔑の目を向けられるのは、嫌だ。

「本当に勘ですから!!」
と強く言った。

「シルベルト、もし彼女が落とし靴の姫だったらどうするんだ?彼女もピッタリですと答えていたなら、ダンスに誘うのかい?今回のパートナーをお願いするとか」
とクラード様に聞かれた。

どうする?

それは、考えていた通り、
「私は、恩人であるから御礼をしたいと思ってます。勿論エスコートして欲しいと言われれば、今回の卒業パーティーのパートナーを引き受けますが」

これは嘘偽りない答えだ。
「たとえば、その先の婚約者になりたいって言われたら?今シルベルトは婚約者募集中だろう。公爵家の嫡男なんてそれこそ彼女は喜ぶのではないか?」
と聞かれ、
「えっまさか、私は、そんな事考えておりませんよ。彼女だって侯爵令嬢なら婚約者がいますでしょうに」
と答えた。
そこまで、具体的に考えていなかった。美味そうな足だとは考えていたけど。


「まぁそうだな」
とクラード様も引いてくれた。

「でも彼女の他にも条件に当てはまった女生徒達いたよね」
とシリル様が言えば、
「確かに条件が整合するなら生徒会室に呼ぶべきだ」
「では、次にどうやって一人に絞りこむ?」

話し合いが続く。

もう一度きちんと足の匂いを嗅げば一発で当てられる気がするが…これはやばいから言えない。


自分の中で断言してしまうのは、変態だの性癖だの自ら開拓していっている。だけど何回か嗅いだ匂いだから覚えている気がするし、かなりのイメージトレーニングもこなしている…
と彼方に思考を持っていかれていた間に、他の生徒会メンバーが更に話を進めていたのを聞き逃していた。

もう一つ気になる事があった。彼女は、ハイヒールの踵の部分をジッと見ていた。何かを探すように。多分血がついていないことに疑問を持ったに違いないと少し口角が上がってしまった。
落とした靴の持ち主なら自分のではないとわかるだろうから。きっとあの場所に視線がいくと思った。
『私のです』と言わなかった理由はそこなのかなぁ?

あの日、落とした靴の持ち主は…自分の中では、ほぼ結論が出ていた。
(しかし彼女はクリスマスパーティーも今日も去り際が早かったな)
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