靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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8被害者の会

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ハアーー、昨日の婚約者すげ替え被害者の会には、精神的にゴリゴリ削られたわ。
すげ替えなんて乱暴な言い方は、誰かに聞かれたら大変だし、特に今回の件の高位貴族には…

我が家は貧乏。勿論、ビルド侯爵家親戚みんな貧乏ですよ!
働かない者食うべからずですから、貴族だろうが朝から晩まで文官や何処かの貴族のメイドや侍従をしていて、そんなお茶会だ、パーティーだなんて参加してません。

「言えなかったわ。家族にも。誰を頼れば…どうしよう…」

「おはよう、ティア!何、暗い顔しているのよ!」
元気溌剌のミンネに話そうか言い淀んでいると、同学年だった被害者の会のサマリア様が教室の扉で覗いていた。
私を見つけると、手を振り
「すみません、ティアラ様~お話聞いて欲しいんですけど」
と言われ、ミンネに目線だけ送り、彼女に近付いた。

「あの昨日の話なんですが紹介の!ティアラ様はビルド侯爵令嬢じゃないですか。どうかお一人ぐらい紹介者の中に侯爵位か伯爵位の方を入れて頂きたいんです。私は子爵位なので、そういった方とは知り合いがおらず…
その後は自分でやりますからお願いします」
と頭を下げられた。

位だ、階級だの話ではない。
私には男性を紹介出来る術も伝手もない。
ここは素直に、言おうと決める。
「サマリア様、私、本当に知り合いがいないのですよ。昨日の話では親類も可能という事でしたが、我がビルド家、税金も払えないぐらい貧乏なんです。親戚みんな朝から晩まで働いております」
と伏し目がちに言って様子を窺えば、大きな溜息をつかれた。

は!?
溜息吐きたいのはこちらですが!

「そうなんですか?では次のお茶会って期待薄って事ですか…わかりました。もう少しクラス内の友人に頼ってみます~」
と興味を無くした表情と態度で足早に去って行った。

ハァーーー
何故こんな突然知り合いになった方に気を使わないといけないの。
そもそも被害者の会に入りたいなんて一言も言ってないのよ!勝手に仲間にされて、迷惑なのですが、こちらは!

ハァーーー

まだ朝の教室で何度目かの溜息を吐く。

「ティア、深いねぇ。溜息ばかり吐いていると幸せ逃してしまうわよ。それでどうしたのよ」
と聞かれ、恥も捨ててミンネに被害者の会を相談する。

プッハッハハハーー
笑い声が響いている。

そうでしょうとも。男友達が多いミンネにとったら私みたいな悩みなんて笑い話のネタよね。
少し捻くれながら笑っている彼女を睨む。

「アッハッハハッハハハ、今そんな風になっているの。王子様達の破棄騒動がまさか当時者外で波紋を広げているなんて予想外!
ティアだけが婚約破棄されたと思っていたのに…ハァッ凄いね、高位貴族って横取り上等ってことでしょう?セレナさんとたいして変わらないよね」
と大きな声で笑って話す。

まぁ、それも当時者がいないから、こんなに堂々と出来る話であって…

「ティアラ様、婚約破棄なさったの~!」
とクラスメイトにばっちり聞かれ、興味の的、いやただのネタ話にされてしまった。

こんな時にどんな顔をするのが正解か教えてほしいものだ。引き攣った笑顔で、
「仕方ないことですわ~」
と当たり障りなく言った。

私なんて小物の話題は昼食までもつわけもない。

「大変よ!ビッグニュース!!セレナさんが、王子様達生徒会メンバーを黒魔術で操っていたらしいわ!今その発表で色んなところで騒がれているわ~」

「嘘~!」
「詳しく教えて!」

昼食はそれどころじゃなくなって、ギャンギャンと盛り上がっていた。
少しホッとした、話題が移って…後ろから影がさした。

「ごめんなさいね、ティアラ様、お食事途中に話しかけてしまって…」
と申し訳なさせそうに小さい声で声をかけられた。
嫌な予感はビンビンする…

振り向きたくない…
だけど、

「いえ、…ブランカ先輩、ユリアーノ先輩…」


「「とても短い話ですぐ終わりますの」」
と二人は言った。

この二人が揃った時点で被害者の会のことだろう。

「はい、承知しました。席を外します」
とミンネに目線をやった後、二人の後について行く。

ブランカ先輩が口火を切った。
「昨日のお茶会の招待する方の話です!出来れば年上を私達希望しておりまして…」
ユリアーノ先輩も
「後妻とかは絶対嫌なんです」

「そんな先輩方そこまでいかないでしょう」
と言えば、
「昨日、ある方の後妻の話がきたのよ」
とユリアーノ先輩は言った。そしてブランカ先輩まで
「私達被害者の会だけど、思うより状況も伝聞も悪いのかもしれないの…公爵令嬢カミューラ様のお力というか御家的な圧力が強く、セレナさんをいじめたのではなく婚約者のいる殿方に近づき唆した悪女を注意しただけとして触れまわっておりますの。勿論婚約者すげ替えの話は、元婚約者がそんな浮気をしてながら、影に日向に自分達を慰め導いてくれた心優しい方々が、新たに思いをあちらから寄せてくれて恋請われて、絆されたと夫人会や派閥の方々に広めていて、私達被害者の会は、魅力がない令嬢として噂を流されておりますのよ…だから…私達に当分良縁は回って来そうに無いのですわ」
と言った。

まさか当事者達が自分に都合の良いように噂を流しているなんて驚きだった。いや、あなた達停学中ですよね?
その間に夫人会のお茶会に参加ですって?
準備が良いというか手回しが良いと言うべきか。

「そういう方々だからこそ、停学になるぐらいの虐め行為ができたのですね…私達の評判も落とされているなんて。結局被害者加害者どっちもどっちなんですね」
思わず漏らしたその言葉に先輩方も頷き、お互い溜息を吐く。

しかし私は肝心な事を話さなければいけない。

「お茶会の事ですが、我がビルド侯爵家、お恥ずかしながら税も払えないぐらい貧乏なんですよ。勿論親戚も。朝から晩まで、どこかの貴族のメイドや侍従をやりお金を稼いでおりまして、期待できる方を紹介なんて出来ない状況なのです。本当に申し訳ありません」
と詫びた。

お二人は何故かわたしの紹介者に期待していたと言ってがっかりし肩を落として去って行った。

「うーーーん。あんなに肩を落として、絶望的な顔をしなくてもいいじゃないの」
と消えゆく声で文句を言った。

「お疲れ様、ティア。私のクッキーあげるわ。疲れた時には糖分よ、それとも今仕入れたネタ聞く?」
とクッキーを差し出され食べる。

「今は結構よ…本当に関係ないはずなのになんでこんな目に合うのだろう」
と言えば、
「さすが運の悪いビルド家」
とミンネは言ったけど、突然起こったこの目まぐるしい騒動に天を仰いだのは仕方がないことだった。

本当に全然関係ないって、どうして私なのよ。

「あら、ティアの方が今日はお下品よ」
と言われてもその時間を呪わずにいられなかった。
(もう嫌だ~涙が出そう)
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