靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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クリスマスパーティーの衝撃は凄かった。
まず何がどうなったのかわからないが、生徒会メンバーの6人、つまり、赤、青、緑、黒、黄色、ピンクが自宅謹慎。そして、赤、青、緑、黒の婚約者方、停学処分となった。

「ワォって声を出したいぐらいの驚きだよね、ティア!本当に証拠があったんだね。でもなんで王太子殿下含め生徒会メンバーも謹慎なんだろう?」
とミンネが言えば、近くにいた子が、
「やっぱり高位貴族のお相手を親を通さず婚約破棄だって侮辱したからじゃないかな。たとえセリナ様をイジメていたという証拠があったとしても、あんな風にみんなの前で辱めを受けたら、公爵、侯爵令嬢として対面的誇りがズタボロでしょ。お前なんか嫌いって感じで…震えていたし、座り込んじゃってたし」
と言った。

「「確かに」」

「そうよね、あれだけみんなの前でセレナをいじめてとか彼女が大事って言われちゃえば婚約者としての立場はないわよね。惨めだわ。まぁ私達は関係ないわね。私は婚約者いないし!学園で見つけるわよ!」
と気合を入れたミンネ。

ミンネったら大きな声で話したら、また男子生徒から、下品だとか揶揄われてしまうのに。

まぁ、確かに私達には関係がない話だ。

そして学園は、当事者が誰も来ないまま、誰が一番悪いかなんてことを面白おかしい噂話が蔓延しつつ学期が終了し、冬休みを迎えた。

そして年の暮れ、ビルド侯爵家に一通の手紙が来た。

『婚約破棄願い申し込み』

執務室に呼ばれて入れば、両親の肩を落とした姿…

「ティアラ、落ち着いて聞いてくれ。ブリジット伯爵家から嫡男セオルド君とティアラの婚約破棄願いが来た。そんな顔しないで、勿論、ティアラは一切悪くない。責め立てのことではなくてあちらに違う家からの婚約申し込みが来たそうだ。我が家は、ブリジット伯爵家からは散々援助してもらっていた。だからあちらのお願いを聞いてあげたいんだ。…ティアラの気持ちも確認せずに申し訳ない。
…今までの援助など返す必要はなしと何もないまま不問として破棄してくれないかと言っている」
とお父様が困った顔で言った。

ゆっくりとお父様と目線を合わし、
「これは先日のクリスマスパーティーの婚約破棄の件と関わりがあるのですか?」
と聞けば、フゥーとお父様が一息入れて
「そうだね、ミュラ侯爵家とブリジット伯爵家の縁繋がりだそうだ。セオルド君は嫡男だから侯爵家の令嬢が嫁ぐ形だね」

「…イリーネ様ですか」

「あぁ。学年は違うが、学園で一緒だから知っているかね。ティアから聞いていた通りレイヤード公爵家とは婚約破棄が成立したのだろう。家格を落としてまでの理由はわからないが、まぁ鉱山をお互いの領地に有しているから物々交換みたいな取引ではなく、ブリジット家にとっては高位貴族の縁、人脈を増やすのに効果的な相手だったのだろうね。私は少しだけこれで良かったとも思っている、ごめんねティア」
と眉毛を下げ謝ってくる父様。

「仕方ありませんわ。年が明けたら我が家は爵位が落ちますし、領地だってどれだけ縮小してしまうかわかりませんもの。我が家には期待が持てない、見込みがないということでしょうから…」

セオルド様とのラストダンスを思い返した。
うん、特に印象にない。
足が痛かっただけ…

それだけ。

ずっと黙っているお母様をみてみると、顔を真っ赤にして怒っている。

「どうしました、お母様?」
と聞けば、
「薄情だわ、婚約して二年の令嬢にセオルド様から一切のお手紙もないなんて、信じられない。普通詫び状ぐらい添えるでしょう。ブリジット伯爵家ったら信じられない。まだ家格は我が家の方が上よ。もっと敬いなさいよね!」
と一気に捲し立てた。

「お母様…」

でも実際我が家と婚約したからって伯爵家には何の実入りがあったわけではなかったからね、我が家ばかり借金を肩代わりしてくれたり、二年前の冬越しには備蓄を分けてくれたり…

考えてみれば全部してもらうばかり、破棄されても仕方ない。

「何言っているの、こんな可愛いティアラを貰えたかもしれないのよ。お金なんて、いくら積んでも平等なわけないわ」
と鼻息荒く言う。

「フフ、母様恥ずかしいですよ、そんな本当のこと」
と冗談を言いながら照れた。

我が家はお金がない。
だから、メイドも一人、執事も一人、料理人も一人御者は庭師を兼ねて一人。
お茶会もパーティーだって主催出来ない。貴族として人脈が広がらない…

私も掃除も買い物、洗濯だってするしほとんど新しい物は買わない。学校に必要な物は買うけど…
だから香水も化粧品も髪飾りも持ってはいない。そんな物を買うぐらいならパンを買う…

みんなが髪に塗る香油もシャンプーも買えない…石鹸で髪を洗い自分で解く。だから私の髪は艶も何もない。手荒れだってしているし、爪も欠けている。
令嬢として確かに魅力ゼロ。素顔のまま、質素堅実。飾らない令嬢といえば聞こえは良くなるかしら?

結局、庶民と一緒。

こうなってしまったのは、私が生まれた六年後に収穫したばかりの税として納めるはずの麦、穀物庫が火災にあったことから始まった。
そしてなんとか屋敷内の調度品や持ち金を全部出し税を払い、領民が一年を過ごせるようにしたと聞いた。

そして二年後、領内の川にかかる橋が大雨で壊れた。
修理するのに借金をした。
その頼んだ建築業者も腐り木を納入していた…また二年後橋は壊れ、借金を重ねる事になった。

ここまで来るとほとんど我が家には何も残ってなかった。お母様のご実家には食べ物を分けてもらい、使用人の数を減らしながら試行錯誤やっていくしかなくなっていた。

そしてブリジット伯爵が、借金の肩代わりしてくれて、さぁこれから頑張ろうって時に流行病が蔓延してしまい、農作物も滞ってしまったという二年。そして今年の荷馬車の荷台破損の麦の撒き散らし…

「そうですよ、借金がなしになっただけ良かったのですよ。お父様、お母様。私が、ちゃんと学園で新たな婚約者を見つけて来ます。もしくは高給就職先を!まだ小さい弟のガッドに迷惑はかけれませんもの。若い内が華と言いますし大丈夫ですわ。頑張ります」
と気合いをいれ部屋から出ていく。

自信なんてない…
地味で目立たない私なんて。

『なぜ』
深く突き刺さる責める言葉

高位貴族の婚約破棄…
私には関係ないと思っていた。高みの見物をしていた。
横から…余波…

ハァーーーーーーーー!!
なぜ、私のところ!!!

怒って、ムカついて、誰に文句を言っていいか分からず、嫌な気持ちになって。

そして、気づいた。

今まで婚約者がいることで、セオルド様に甘えてお洒落をするぐらいなら生活用品や必要な物を買わなきゃって思っていた。
これからは、みんなのように自分を高値に見せるようにしなければならないのだと思うと、今まで本当に気を使っていなかったということに気付いた。

異性としての最低限の礼儀だった。

「セオルド様に申し訳ないことしていたんだなぁ。何も言わないのをいい事に。これでは詫び状だって届くわけないわ。お互い気持ちも通ってなければ気も使っていないのだもの」
と力無く笑った。
(本当になぜこんな事になるのだろう…)



年が明けてもお父様は王宮から呼び出しはかからなかった。


全く連絡が無いまま、冬休みが明けた。
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