靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり

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2場外の参加

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『逃げなきゃ!』
悪魔の囁き。

一瞬、現実逃避に走った。
私は…上の階に逃げれば見つからないかもと。
そんな事を思ったけど、目線をきちんと前に向ければ、

うずくまった男性の姿。
靴が上から落下、頭に当たったのだからかなりの衝撃に決まっている!
どうしよう…
大変な事をしてしまった、ともう片方の靴も脱げ、裸足で急いでその男性に近寄った。

まず、怪我の確認をしなければ!
人としてどうなのよ、ティアラ!悪魔退散!
と自分を奮い立てる。

「大丈夫ですか?」
慌てて聞いた。
当たり前だけど、今できる精一杯の誠意を込めて。

頭を押さえている。そして膝をついた男性、見えたのは青のネクタイ。

(青)…

最悪だ、生徒会メンバー、公爵令息でないか…
息を呑んだ。先程の公開断罪、かなり口調はキツい方なのかもしれない。

マズイ…

逃げた、い、頭によぎる考えは最低のことばかりで、ぎゅっと手に力を入れて握り締める。

「あの、大丈夫ですか?申し訳ない事をしてしまって、前方不注意です、申し訳ございません」
と言えば、(青)は、まだ膝をついた体勢で片手は、頭を押さえもう片手は私のハイヒールを持った。

怒鳴られるわ!と怒りの怒声に耐えようと身体全体を強張らせて降ってくる言葉を待った。


「イッテェーーーーー」

まず第一声。
まぁ、そうですよね。上からハイヒールが降ってそれが頭に当たれば痛いに決まっております。
確かに。
「すみません!」

次に備える。

「だっ」

「だ?」
と聞き返した。その次の言葉がないから。


「えっと、何?」
と(青)は、言った。顔を見た。酷く混乱?焦点があってない?

まさか記憶が飛んだ?

「何…あっ、大変申し訳ございませんでした。私が階段の上からこの靴を落としてしまい、あぉ、あなた様に当たってしまうという粗相をしてしまいました。何卒お許しくださいませ」

ひたすら膝をおり頭を下げ謝罪する。

(青)は、私を見ているのかどこを見ているのかわからないが、一瞬見えたのは私の履いていたハイヒールを持ち、手で半回ししていたような…

「血…」
とまた一言。
ああ、そうだ。あのハイヒールの踵には私の血が結構ついてしまっていた。もしかすると(青)の頭にも付着してしまっただろうか?
恐々と目線を上げる。
相手は公爵家だ、不敬と言われるかもしれない。

やっぱり片手はまだ頭を押さえている。

どうしよう…
医療費請求されたら…
公爵家なんてどんな高額な医者に罹るかわからないわ。

どうしよう…

そんな事を考えていると、何か別の事を考えている様子の(青)。

なんて言葉をかけて良いものだろうか?
ひたすら謝る以外ないかな?謝って謝りつくして誤魔化せるかしら?

「本当に申し訳ありませんでした」
ともう一度深い謝罪を口にした。

「あぁ」
とどこに視線をあわせているのかわからないけれど(青)は言った。

こんな事を考えてはいけないのかもしれないが、今なら

『逃げよう』『逃げれるんじゃない』『謝ったし、相手も納得?したのでは』

なんて甘い囁きがあった。
何となく(青)はボォーーとしているから。
そして(青)は
「わかった、はいこれ」
と言って私のハイヒール(片方)を渡してくれた。

そう、返してくれたのだ。これは許されたということじゃないのかしら?

(青)の人差し指に私の血が付いてしまった。それを見て申し訳なく思ったので、とりあえず、ハンカチを出し
「こちらで手先を拭いてください」
と言えば、焦点がますますあってない目で私を見た。

はっきり言おう。
めちゃくちゃ怖い。
イケメンかもしれないが、何というか悪魔、いえよく幼児絵本で書かれている悪役魔王かと思えるほど怖い。差し出していたハンカチを引っ込めた。

そして再度見ているか見ていないかわからないけどとりあえずお辞儀して、

「大変申し訳ございませんでした。深く反省しております。そして失礼します」

と言って、ジリっと一歩引き下がった。


返事はない。

もう一歩引き下がる。
声がかからない。

なら良いよね。
とお辞儀をしたまま現在裸足状態の私は更に一歩また一歩と離れる。

お辞儀を起こした。
何も言われていない。
ただ怖いのは、(青)は、片手に付着した私の血を見ている所。

やばいわ、目が恐ろしい。何考えているかわからない…

逃げよう。
呼び止められないのをいいことに私はスタコラッサッサと(青)も見ずに裸足で去る。
片手にハイヒールとハンカチを持ち外に出る。暗い夜の中、前髪が目にかかった若そうな警備員さんが、こちらを注視している気がする。

今の私、裸足…生足を見られてしまった、破廉恥いえそんな羞恥よりも不審者だわ。

「どうしたのかな、学生さん?」
優しい声だった。私を変な扱いもせず疑いとかじゃなく本当に心配してくれているような…

「ハイヒールがこんな状態になってしまって、スリッパなど余っておりませんでしょうか?」

「あぁ、学園内を歩くのがあるよ。内緒だよ。これを履いて下駄箱に行くといいですよ」

「ありがとうございます。警備員さん」

とても親切な警備員さんのおかげでどうにか外を裸足で歩くというのは免れた。あんな方いたかしら?今まで警備員さんと挨拶以外話したこともなかったので気にしていなかったのかも。
学生はだいたい帰ったようで、誰にも会わず外履きを履き、私も自分の家の馬車を見つけ乗り込んで、やっと安心出来た。(私の姿を見て、御者にはギョッと顔を逸らされたけど)

はしたない格好をした自覚はあるけど、それより、いつ(青)がさっきの断罪のような顔して追いかけてくるかと内心ヒヤヒヤしていたから。

安心からか再びズキズキヒリヒリと踵が痛む。

「本当に最悪…いえ違うわね。私が不注意で頭の上にハイヒールを降らしたんだから彼(青)の方が被害者よね…
あっ!名乗るの忘れた…か、も…責任…逃げたと思われたかな…」
とハァ~と深い溜息で両親に何て言おうか考えていた。
(加害者の自覚あり、現在、逃亡中の心境)
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