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あの王家の茶会から1か月以上が経った。
だいぶ滑らかに魔力が回っている気がする。ハナには、昼も練習しなさいよ、と言われている。
そしてハナは、夜にしか私の前に現れない。一度、ドタバタしてマヤが部屋にきたが、ハナを見ることは出来ないらしい。ハナが言うには、魔力がないからですって。
私も魔法について調べた。
魔法を使えるものは、ごく僅か、かなり希少だとわかった。
まだ魔法を使った事はないけど。
そして、両親にこの事実を話してない。


「マクロス王子の婚約者が決まったそうよ、クリスティーナ。侯爵家のサリュージャさんよ」
「はい、お母様、それは大変良い事ですね、では、私は失礼します」
とすぐに立ち上がり、逃げるよう部屋に行く。
「待ちなさい、クリスティーナ~」
母の声が遠く聞こえる。
ハアー、
やってしまった失態を何度も言われてもどうすることも出来ませんから。
一応、私なりにアピールした結果があれになってこうなってしまったのだから。
まぁ、私に王太子妃なんて、期待されても無理!
それより魔法の方が凄くないかしら。某国では、一生安泰だと書いてあるところもあれば、王家御用達みたいに管理職になる場合もあるらしい。

なかなか良さげなことしか書かれてないため、俄然やる気が出た。
「ハナ、そろそろ魔法使いたいわ」
と言えば、ハナは、
「わかったわ、クリス、窓を開けて!」
え~?そんな大規模なものなの?ドッカン的なとワクワクしていれば、
「窓の外に手を出して、癒しの水と言って」
「ええ、癒しの水」
ジョロジョロ~っと花にやる水撒きのような水が滴る。
「?」
何、一体これは?
「ハナ、一体何これ?」
と聞くと、ハナは得意気に、
「馬鹿ね、さっき言ったでしょう?癒しの水って」
「嘘よね、もっとバァンとした光る何か出るわよね?」
「これが最大魔力よ!」
えっ?私の?ハナの?
「誰の最大?」
「何言っているのよ私達の!」
これって凄いの?何の役に立つわけ?

しかし私は、両親に報告をした。魔法は希少だと書いてあったのを信じて。
「見ててください。癒しの水」
と手のひらから、ジョロジョロ~と水が出た。
お父様もお母様も驚いている。
驚いて何も言わない。


お母様が口を開いた。
「クリスティーナ、これは確かに魔法ね。でもこれなら普通に庭師のダンも井戸から撒けるわ、何の役に立つのかしら?」
と言った。お父様は、
「クリスティーナ、これは、一芸だよ。旅芸人などで見る手品?これを見せたらお嫁入り出来なくなるかもしれないよ。もしくは、もっと凄くなるのかい?」
私の両親中々辛辣なことを言うわ。

ハアー
魔法も駄目なのね。
ハアー
駄目の連鎖。


「お嬢様、お嬢様、」
「何?ダン」
「お嬢様、魔法が使えるようになったって本当ですか?」
「ええ、こんなものですけど、癒しの水」
とジョロジョロと水を出す。ダンは、目を輝かせて、
「お嬢様、こちら薔薇の苗なんですが、まだ何色になるかもわからないのです。お嬢様その水で薔薇を育ててみませんか」
と小さな苗が入った鉢植えを渡されて、私は、毎日温室に行き、癒しの水を与えた。ダンだけは、私を凄い、凄いと言ってくれる。

「ハナ、薔薇何色かな?」
と最近自分が育てているっていう自覚があって楽しみなのだ。
「薔薇って繊細なの。わかる?クリスのように時間もバラバラに水をあげるような薔薇に妖精は宿らないわよ。まぁ慌てん坊か跳ねっ返りか、変わり者ね、来たとしても。ディオンは、いつも決まった時間に来て、水をくれるしお話もしてくれたの。愛情をいっぱい注いででくれたのよ。だから私が生まれたのだけど」
と嬉しそうに話す。
「へぇー、ハナの生まれた話初めて聞いたわ」
と言えば、
フンと言ってどこかに消えた。妖精も照れるのかしら?

話し掛けるってハナに話すみたいなことかな。

翌日から私は、苗木に
「今日はいい天気ですね」
「ハナっていう小さな者がいるの。妖精だって自分でいうのよ」
「癒しの水美味しいかしら?」
と話し掛け癒しの水をあげる事、一年。成長した薔薇は、黄色い蕾をつけた。ダンの勧めで、薔薇の品評会に出す事になって、私の薔薇は、会場で綺麗に咲いた。一等花をつけられて、中央の台座にドンといる。
これは凄い嬉しい。

「大変美しい薔薇ですね」
と黄色の薔薇に水をあげていると話しかけられた。後ろを向くと、見目麗しい少年が立っていた。肌の色は白く、金の髪は光輝いている。
思わず、
「ありがとうございます」
と言ってしまった。これは薔薇の花に対してではない、こんな美しいあなたを見れての感謝なんですけど。

ゴホッゴホッと咳をする少年。後ろについている強そうな従者が心配している。
この人もしかして!?

「ディオン王子様ですか?」
と聞いてしまった。少年は凄く驚いていた。
「私は、表に出ないのに、私を知っているのですか?」
「ハナが…、あのディオン王子様が育てた薔薇には妖精が宿りまして、縁あって私の家に妖精が来る事になり、魔力をもらいました。そしてこの黄色の薔薇は、私達の魔力の水で育てた薔薇です。見て頂けて光栄です」
と私は礼をした。

とても不思議そうな顔をした。
突然妖精だのと言われても困るだろう。
ディオン王子が何を考えているのかはわからない。それでもあんなにハナが一生懸命話してたディオン王子が目の前にいると嬉しい気持ちになった。

ポカポカする。これって何?
太陽みたいに、そしてニコニコ笑顔みたいに。暖かい。
嬉しいが伝わってくる。
不思議、魔力の回る感じが温度が上がって凄い実感している。

『ディオンの側にいたい、ディオンのところに帰りたい』

これは、ハナの声かしら?
ハナは、昼間私の中にいたの?

「ディオン王子様、手をお出し下さい」

「その令嬢王子殿下に向かって無礼だぞ!」
と後ろの従者は言ったが、真っ直ぐにディオン王子を見た。
ディオン王子も何かを感じたのか、手を出してくれた。
私は、身体に回るポカポカした熱をハナのドレスの色、ピンクを想像した。薔薇の形には花びらの枚数が少ないけど、熱を具現化する事が出来た。小さな薔薇だ。
それはディオン王子の手のひらで喜んでぐるぐると回った後消えた。
私には一瞬、ディオン王子を包んだように見えた。

「一体何だったんだ?今の現象は」
とディオン王子が言うから、私は、笑って
「ディオン王子様が毎日同じ時間に水をあげて、話し掛けてくれたことを嬉しそうに話していた妖精です。ディオン王子様の元に帰りたがっておりました。やっと願いが叶ったのだと思います」
と言えば、
「今のが妖精?
何故いつも同じ時間に水をあげたり話し掛けている事を知っている?」
と急に赤くなる王子。
私は笑った。ディオン王子も笑った。

その夜から、ハナは現れなくなった。でも私は、癒しの水が使える。魔力がきちんと馴染んだということなのかな?そして、一等花を取った事で、みんなが喜んでくれた。今は、薔薇栽培に力を注いでいる。

それから二か月、私の元に王家から、ディオン王子の印がついた手紙が届いた。

ディオン王子様からのお茶会。

緊張しながら、行くと、私が昔転んだ薔薇園の中央に、お茶の用意がされていた。

「やあ、クリスティーナ嬢、よく来てくれました。どうしてもお礼を言いたくて」
「はい?」
「私の喘息を治してくれてありがとう。あの日から咳が出ないんだよ。医師に診てもらったら完治していると言われた。心当たりは、クリスティーナ嬢のあの小さなピンクの薔薇の光…調べたところクリスティーナ嬢は、癒しの水という魔法が使えると聞いた。あれは水ではなかったが魔法なのはわかった。感謝している」
と言われた。
しかし、あれはハナだ。
あれが魔法なのかも、わからない。ハナが自分で薔薇になってディオン王子の元に帰っただけ。
私にはそんな気がした。
薔薇園を座りながら眺める。
「ディオン王子様が育てた薔薇は、素晴らしいですね。沢山の愛情を感じます」
と言えば、
「身体が弱かったので走り回ることも出来ず、マクロスについていく事も出来なくて、友達もいなかったから薔薇が癒しだった」
と答えてくれた。
「はい、私にはわかります。こんなに綺麗に咲かすのは、愛情を注いだからですね。私も薔薇を育てて初めてわかりました」
と私達は、薔薇の話をしていた。

私の頭の片隅には、ハナがディオン王子の中できっとこの方を癒しているんだろうなと思った。
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