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116 一番狡いのは

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一面記事が出れば、クリネット王国の国民中が知ることになる、いや、なった。



「お嬢様、もう取り消せはないですよ。婚約破棄以外…」

と申し訳無さそうにラナが言う。

公演最中アンドル王子の登場、あれは私は、イズリー領の祭の最後のサプライズだと思っていた。だって芝居の終了間近、レオンの手を握って捌けるだけの時、レオンが登場せずにアンドル王子が登場したのだから…自然の流れで手を取って舞台から手を振って捌けた…

確かに、アドリブの台詞だった。
でもそれは、サプライズ登場だからと思っていた。
アンドル様は意外に目立ちたがり屋だなと思ったぐらいで。

「お嬢様、王子様は、あんなにはっきり言ったじゃないですか!あれを気づかないなんて…」

と言って、顔を振る。

そう、アンドル王子ははっきり言った。


「気づいた時には恋に落ちていました。その時から、あなただけを心から思ってます。これから先、ずっと共に生きて下さい。…私と結婚して下さい」



「はい、王子様…共にいきましょう…」

手を取って、見つめ合い、ゆっくり観客達に手を振って舞台から捌けた…

あー、恥ずかしい。
恥ずかしったら恥ずかしい!

あの時は公演中で素人なりに懸命で、役になりきっていた。
レオンだってあんな台詞は言わない、ただ手を取って捌けるだけ!普通じゃないのに。
ハァーーー



確かにこれは、結婚、了承しましたと言っているし、やってる。

「どうするのですか?今更断るのですか?」

「…ラナ、断れると思う?」

無言で顔を振られた。
今私のいるイズリー領はお祭りが終わったというのに、更なるお祝いの祭が開催されている。
つまり、祭の飾り付けを取らずに、婚約記念みたいな祭が開催されているらしい。怖くて見に行けない…

きっとすぐに国全体に広がる祝いイベント満載になりそうだ。商人はそういうの大好きだものね。

「ミランダ様、アンドル王子様が、お見えになりました」

と呼ばれ、領主館の庭で現在二人で歩いている。

まぁ、お互い緊張感が半端ない。
彼は聞いているな、朝、私が言った言葉をすでに知っている、ようだ。
新聞記事にでたような盛り上がりが、勘違いだったのだから…
話始めが難しい。
ごめんなさいと言っていいのだろうか?アンドル様は悪くないと言ったとて…
もうすでに、お祝いムードになってしまったのに?
謝って済む問題?

「…ミランダ嬢、勘違いしたって本当?」

凄い張りのない声、まるでこの世の終わりみたいな口調で問われた。

これは…どうすべき?

言うべきよ、間違いました、勘違いしましたと!

「…アンドル様のサプライズ登場のアドリブな台詞かと…思いました。まさか新聞社があのように報じるとは思ってもおりませんでした…」



あー、無言。これは不味い、どうせなら怒ってくれた方が言葉に勢いがつくのに!
明らかに落ち込んでいる。
ハァ、どうしよう。私達の関係…って、ずっと共に話せる間柄?それって。

「アンドル様はその、私のこと、お友達を超えてそのリリエットとスタンルートさんのような関係をお望みなのですか?」

「…」

私をジッと見るけど無言。

「話をしていて楽しく面白いです。色々と興味の種を蒔いてくれるので、学ぶ楽しさや、知的探求を刺激されます。で、でも、あの前にリリエットから聞いたんですけど、…婚約者という関係は、それだけじゃなくて、他の令嬢と二人でいる所を見ると嫉妬するとか、…手を握ったりとか、唇の触れ合いなんかがあると…聞きまして」



「そんなのどうしたらいいかわからないじゃないですか?」



「何故無言…いえ、私が悪いのですよ。勘違いした私が!でも、あんな観客の前でお付き合いもしてないのに、結婚申し込みされるなんて思わないですよ。いくらあんなにはっきり言われたとしても!」



「ゔ~、答えて下さいよ。返事がないのは、辛いわ。だんだんと、私ったら意味なくアンドル様のせいにしようとしているし…」

「…ミランダ嬢、手を出して…」

そう言われて、手を出すとアンドル様が私の手を握ってきた。

「これ嫌?」

と聞かれ、顔を振った。

「そうか、良かった…」

握った手の反対側の手が、急に私の肩の上に乗った。

「…怖い?嫌な感じする?」

ずっと私の様子を見ながら、私を探るように…

「私は、他の令嬢と二人ではいないよ、必ずグレゴリーかサイファを付ける。勘違いさせるような嫉妬させるような距離感でいないと誓うよ。ただパーティーのダンスは、必要最低限の礼儀…がある部分は申し訳ないと思う。でも、この距離感ももっと近づくのも君だけが良い、君しかいらないと思っている」

真っ直ぐに私だけしか映っていない瞳。エメラルドの瞳の中に閉じられたように、今度は私が何も言えない…

心臓の音がうるさい。

顔に熱が集まる。

それなのに、嫌じゃなくて何か、私がもし王子に一歩前に近づいてしまったらどうなるのかと、興味まで湧いてきている。
こんなの聞いたことがない。リリエットも言ってなかった。婚約者という気持ち…
友達より距離が近い。

肩にあった手が、私の頬に触れた。

これは、何?
ドキドキが止まらない。
違う、そんな可愛い言葉じゃなくて、全ての時間も景色も飲み込んでしまうような、アンドル様しか見えなくなってしまっていて…

「嫌?」

と聞かれた。
言葉が出ない。足も手も何故か動かない。目も逸らせない。どうしよう。こんな状態…爆発しちゃいそう…

「真っ赤」

「ミランダ嬢、返事して…君の気持ちを聞かせて…今度は俺一人を浮かれさせないで、勘違いしないで…嫌かな?」



「嫌…でな…い」

と言った瞬間触れていた頬が撫でられ、握っていた手はアンドル様の身体の方へ引っ張られ…見つめていた目はそのままで、距離が…息が感じられるぐらい近い。


「怖い?」

耳が震える。直接、私の耳に話しているみたいで…
思わず、私は背伸びをして…アンドル様の唇をハムッと口に挟んでしまった…

と思う。もう限界です…

「な、何を!ミランダ、えっ!?」

と慌てる王子に握られている手はそのままで、ガッシリと背中を押さえられた。そのまま、顔の熱と身体中が緊張していたのか、もうどこも力が入らない…

目の前がうっすらとぼやけていく。

心臓の高鳴りは、こちらも限界だったのだと思う。
だって、もう音だって聞こえない。

はあーーー
ふわふわしていたな。


「ずるいよ…」

と声が聞こえた気がした。




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