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110 それは権力という名の脅しですよね?

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「ハァー、私はやっぱり調子に乗った卑怯者だな。やっぱりミランダ嬢、この賭け事というか勝負は君にとって得がない」

確かに…
なんとなく売り言葉に買い言葉…後悔しそうな気もする。

「ではもう婚約者候補の話はしないで、今まで通り友達としての話で」

「それは、違うのだけど、これはチャンスで…ハァ、この卑怯者の私は、あと一つお願いがある。後から罵ってくれて構わない。こんな機会を逃すほど優しい人間ではないんだ。…ディライドは君にとってどういう存在?」

いきなり立ち止まって、声に力強さを感じさせながら、私に問いかけた。

「お義兄様ですが…」

何故、そんな顔をするの?


「義兄としてと考えて良いんだね?今までのあいつと私の関係は見ていてわかる通り、反発し合っている。ディライドからの言葉だけは見逃して欲しい」

と会場に入る手前で言われた。
確かにお二人の関係はまだまだ良好とはいえない。テストでも喧嘩しているぐらいだし…

「それは、わかりました」

「良かった。ミランダ嬢からこの勝負についてお願いというか条件はある?私ばかり有利にするのは…狡いから」

「条件ですか?」

会場の中でもうすでにマリアーノ様が、こちらを直視して、まるで待ち構えているように仁王立ちしている。義兄より彼女だろうな…

これは会場に入ったらすぐ言われるパターンだわ。
アンドル王子はご自分のことを卑怯者と言ったけど、この状況を見て私の方が有利だと思うのだけど?

「では、私は、新学期からではなくて、今から一月で提案させて下さい」

と言えば、

「学校が春休暇だよ。休みだとあまり人と会わないと以前言っていたけど良いのか?」

「ええ、もちろん。絡まれたり揉め事になったら、その場でもうこの勝負は決着で、例えマリングレー王国から何か言われても断って下さいね」

と一応私なりに外堀を埋めた『気』になった。
誰が見ても、マリアーノ様は飛びかかってきそうな顔をしていたから…アンドル王子は見えてないのかしら?

この勝負、もらったわ!私はにやけてしまった。

「約束する。一月後、…いや、これはその時に言うよ。さぁ中に入ろう」

と再び私達は歩き出した。

ダンスの音楽が鳴り響いている。
音楽よりも人の騒めきが上回るこの状況、間違いなく私の勝ちだわ。

さぁ、いらっしゃって、私に言いがかりをつけに!

と私は眼鏡をつけた顔を見せるように、真正面をアンドル王子様と歩いた。

ほら、ほら、

と思っているとマリアーノ様達が動き出した。

お、来たなと、きちんとそちらを見ると、周り込むかのようにアンドル王子様が、

「ミランダ嬢、私と一曲踊っていただけませんか?ファーストダンスは、貴女としか踊らない」

と思いっきり会場に聞こえるように言った。

どういう事?
あ、アンドル王子様で隠れてマリアーノ様が見えない。

さっさと私をホールの中央に連行された。
待っててマリアーノ様。
今は、ちょっとタイミングを外されてしまったけど、少しだけ待機して…と念波を飛ばす。

「…よろしくお願いします…」

「不服そうだね。でもミランダ嬢が言ったんだよ。今から勝負だって」

「言いましたけど、まるで宣言するみたいで、タイミングを外されたというか」

「もちろん、この会場にいるみんなへの戦線布告だよ。物凄く視線を感じたから、他の奴らに釘を刺した」

と上機嫌に語られた。
私は出鼻を挫かれた形になったけど、一曲と言っていた。
大丈夫、勝負はこれから!
だって、一国の王子たるものファーストダンス以降踊らないといけないはずだ。

「何考えてるのかな?ご想像の通り私はこの後何人かのご令嬢と踊らないといけない…だけど君が期待するような展開には多分ならないかなぁ~、もしこの会場が婚約者決めのようなご令嬢ばかりの状況だったら、馬鹿な考え無しのご令嬢が先程みたいな騒ぎを起こしたかもしれないけど、ね」

とても良い笑顔で言われた。
歓声が上がる。

ほら、あなたの少しの言動で、ご令嬢の感情が波立つのよ。

「意外と自信家なんですね。いつもと話している感じとも違います。あの溜息の船乗りと話をしていた頃は自信なさげで大変可愛いらしかったのに。でも私も勝負には負けるつもりありませんわ。なんて言っても、眼鏡をしているもの!」

「めちゃくちゃ地味眼鏡って言われた事気にしている…可愛いって、私は17だよ、中庭の時は精神的に弱ってて、まぁ、ミランダ嬢と一緒かな。色んな顔を持っているということに気づけた。そのぐらいからかな、少しづつ変わってきた。私の変化なのか周りの環境変化なのか、楽しくなってきて、欲を持ち始めたな」
 
「欲?」

「そう、楽しいっていうのも生きる欲なんだと思う」

ダンスをしながら、先程とは打って変わって気軽に会話が出来る事が楽しい!確かに楽しいは欲かもしれない。

ふふっ

あぁ、曲が終わってしまう…

まるで楽しかった夢の時間が終わるみたいに…

掴まれていた指を離したくなくなるのは、ダンスが楽しいから?

「離れがたいな。やっと、ミランダ嬢と普通に会話が出来始めたというのに。緊張していた時間を巻き戻したい。全然可愛いとか愛おしいとか、口説きたい言葉を全然言わないで終わってしまう。こんな後悔するなんて」

「なんでそんな恥ずかしい事言うんですか!もう、次の方に行く時間ですから」

「リウム王子の所まで送らせて、ミランダ嬢。最後に、私の名を呼んで。ほら音楽が止まったよ。ありがとう、ミランダ嬢」



「ありがとうございます…アンドルさま」

と言えば、満足という顔をされた。

「ミランダ嬢、私のお願いを叶えてくださり、感謝します。私は、クリネット王国第一王子として、貴女に対して理不尽な屁理屈や言いがかりをつける者を許さないし、私の名に置いて調査し法に従い必ず罰することを誓います」



何、これは。第一王子に名に置いて、罰って?

こ、れ、は!

権力という名の圧力、脅しじゃないか!

まさか私に言いがかりをつけた人はもれなく尋問を受け罰が下るという、独裁発言…

「何、馬鹿なことを言うのですか」


「私には弟がいるのでね、私の発言に不満を持つ方達がいるのであれば、直接私に言いにきて欲しいから、先程の騒動見たならわかると思う。あぁいうの恥ずかしいと思わない感覚、私には理解出来ない」

会場が静かになった。
王子の言葉は、音楽が止まったタイミングで言われた。


あぁ、やばい、マリアーノ様どこ行った?こんな圧力に屈しないで、どうか私の所に来てねーーー。

周りを見渡した。


このダンス一曲が終わった後、娘や息子を連れて帰る貴族が続出…それも無理矢理。

その中に何故かマリアーノ様、貴女まで。口まで押さえられている。ご両親に引きずられるように消えて行った。

後からリリエットに聞いた所、もうすでに何度も警告注意を受けていて、東部のまとめ役から降りるよう通達済みだった為、大人しくがファンド侯爵家の生き残る道だったと言われた…

なんて事だ…

アンドル王子は、先手を既に打ち終わっていた、という事だ。
私の『気』は…風に乗って消えた。
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