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108 私の気持ち 1

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「ミランダちゃん…」

「…」

心配気に私を見る義兄と固まってしまったかのような無表情のアンドル王子様。

「大変お騒がせいたしました。呆れて残念で、怒ってしまって、感情が抑えられずに眼鏡を取ってしまいました。お義兄様が用意してくれたこの眼鏡の端…少し壊してしまいました。申し訳ございません」

「そんな小さな事気にしなくていい…それより、マリングレー王国の第二王女だと言ってしまって…私は、…」

下を向いたお義兄様。

「本当は今すぐにでも発言の撤回をしたいのですけど、そんな馬鹿な話に誰も受け流してはくれないでしょう、ね。言った責任は取りますが、マリングレー王国で責務を行うつもりはありません。私、あの国に対して義理はないと思ってますから。お義兄様、今のままでいさせてもらえませんか?」

と言えば、

「もちろんと答えたいけど、今まで通りにはいかない、と思う…我が家はあくまで伯爵家、王族を名乗ったミランダ様とは…家族としては過ごせなくなる。王族預かりの客人としてになるかと思う、いや、思います。父上がどこまで考えていたかわからないですが…」

客人…

やっぱりそうだよね。
会った頃に戻るのか。せっかく養女として、家族を教えてもらったのに…
あの温かくて、照れ臭くて、困るような大袈裟な情を、もう感じられないかと思うと…

視界が歪んだ。

もう感じることが出来ないと思ってしまうと全てが無くなるみたいに、無性に後悔する。

あんな屁理屈王女達の為に…
なんで私の大切な場所を失わなくてはいけないのだろう,
何故私は、我慢出来なかったのだろう…
もう少し考えれば、身分を明かさなくても誰かが…

と思った時点で、これはこうなるように仕組まれた演目というリウム王子の言葉を思い出した。

私のお披露目会だと。

「ミランダ様」

とお義兄様が私の頬に手を伸ばしかけて、アンドル王子様が、私の腕をご自分の方に引き寄せた。

見上げるとやっぱり無表情。
涙が溢れて、反対の手に用意したハンカチで拭われた。

その行動に驚いて、彼の顔を見つめてしまう。

随分と周りが騒がしくて、知らずに息を止めていた。

「ミランダ嬢、呼吸して…
少し、私に時間を下さい」

それは、少し威圧のある低い声。有無も言わさないと言う事だろうか。

「は、い」

「グレゴリー、ディライド、私は少し二人で話したい。リウム王子、マリングレー王国側には、事前に許可を得ている…この場を離れてくれないか。私達はみんなが見えるこの位置にいるから」

と言われれば、二人は退いていく。

私は、何が起こっているのか、どうすれば良いのかと考えながら、お友達を怒らせてしまった事に、彼を見つめながら話しかけるタイミングを探す。

彼が、一息ついた。
このタイミングで、謝ろう。

「アンドル王子様、申し訳ございません、この夜会の準備をずっとされていたのに、めちゃくちゃにしてしまって。私がもっと大人しくしていたら、こんな騒ぎにはならなかったのに…」

「ハァ、何故ミランダ嬢が謝る?その必要は全くない。ティア王女…いや、夢見の乙女達やマユリカ王女をぶつけて、社交界の追放、立場的にもう言い逃れは出来ない状況にしようと計画していたから、ただ陛下達の計画は知らなかった。ミランダ嬢の王族表明の披露する場になるとは、私も聞いていなかった。ミランダ嬢は、その精神的に大丈夫か?」

表情は無表情なのに、先程私の涙を拭いてくれたハンカチ…月下美人の葉が揺れている。

「ええ、全然大丈夫じゃありません。非常に損傷を負いましたよ。全く…」

と言えば、やっとアンドル王子の表情が崩れた。

「やっと表情筋が動いて、驚いた顔になりましたよ」

と言うと、慌て自分の顔を触っている。

「ああ、とんでもなく緊張していた。だって、ミランダ嬢が、女神で、驚いただけじゃなくて、女神が私を見て、話していて、でもその声がミランダ嬢で、頭の中がパニックで。でもそんな事ミランダ嬢に言えないだろう?あなたの方が、先程も含めて暴言を言われていて傷ついただろうに。私の驚きなんて、私の話なんて烏滸がましいし。そしたら何を話せば良いかわからなくなって緊張してって…あー、結局全部話してしまった」

と情けなさそうな表情をした。

「ふふ、また違う顔になりました。緊張する必要はないでしょう?私が女神?いえ、ご自分のご尊顔を見て下さい、絵本の王子様、ザ王子ですよ」

「ハァーーー
王子いいすぎだよ、ミランダ嬢も王女って呼ぼうか?宣言したし」

慌て、
「嫌です。絶対に嫌、呼ばれたくない」

「…でしょう?少しは私の気持ちわかる?もう王子って呼ばないで欲しい」

いや、それは出来ないでしょう。
あなたこの国の王子ですもの!

「君だってマリングレー王国の第二王女でしょう?」

「えっ?今考えている事口に出してましたか?」

「いや、出してないけど、わかるよ、そのくらい。ほら呼んでよ。今なら、私が職業王子って皮肉を言いたい気持ち、ミランダ嬢ならわかるでしょう?」

と目の前の王子は少し意地悪な笑顔になった。

「うぅ…アンドルさ、ま…」

と言えば、ありえないくらい真っ赤な顔になってしまった。
倒れるのではないかと心配になるぐらい。

「大丈夫ですか?ねぇ、顔の赤さが尋常じゃないわ、外に出て夜風にあたる方がいいのではない?」

と言えば、私の腕を軽く掴み、

「それ、採用…」

と言って、片手で口を押さえて私を見つめる目は、今まで見た事もないほど色気を含んでいて…私に甘えるようで、先程の威圧のある低い声とは違うのに、

同じ反応をして、

「は、い」

と彼の手に自分の手をのせていた。
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