上 下
86 / 120

86 学年テストの勝負 其の2

しおりを挟む
テスト 当日

「ミランダちゃん、もし一位になったら…私とまたデートしてくれるかい?」

馬車に乗るといきなり言われた。
どうしたのだろう、ふざけた様子もなくて、真面目な表情で…闘志を感じる?

「お義兄様、一位にならなくても、私自身テスト終了の楽しみとして、今週末にはお菓子選びや書店など、またご一緒にお付き合い頂きたいのですが…」

と言えば、

「グッ!?お誘い…ミランダちゃん大丈夫。間違いなく一位になるから、今週末だね。予定はない。あぁ、レストランも予約しよう。お祝いをしなくちゃいけないし…高級レストランがいいな、そうしよう!」

いや、レストランじゃなくて、お菓子選びだから!レオンも一緒にと考えているのだけど。
目的が…
あぁ、まぁ、もう一度行けば良いかしら。お義兄様の好きな時間の過ごし方をしてもらおう。
いつも誰かの為に動いている人だから…

「はい!お義兄様、乾杯をしましょうね」

と言えば、喜んで頷き返してくれる。

「ああ!絶対に。そうだ、年暮れの特別メニューに切り替わるかもしれない時期だし、少し贅沢をしようね」

もう、気分はすっかりレストランに思考が切り替わっているみたいですね、あれこれと計画や考えが漏れ出している。

「そうですね。楽しみですね」

お義兄様が生き生きしてくれるのは、私も凄い嬉しいから!

「だけど、デートの他に時間を作って下さいね。…そう、今回はレオンも誘って、書店やお菓子選びですよ。それも忘れないで下さいね!」

念押しした。

「ああ、もちろんだよ。今日は良い日だな、何か身体中がスッキリとしている。テストを受ける最高に良いコンディションだよ。わかりやすくて良いと言ったアンドル王子の気持ちに同意だな」

やっぱり、レオンとシュワルツ王子みたいな関係なのね。ライバルであり友達…そこに側近も入ってくるのかしら!

「頑張ってくださいね。もちろん私も今日は、少しでも良い順位を目指します!」

馬車から降りると、一つ前には王家の馬車。朝から鉢合わせしてしまった。周りの生徒は歓声を上げ、観客に変身する。今回の勝負は数日の内に一大行事になったみたい…

ハァー、

「アンドル王子様、グレゴリー様、おはようございます」

と言えば、

「お、おはよう。ミランダ嬢…」

と何とも言えないはにかんだ笑顔付きで 、返答が返ってきたと思えば、義兄が私を隠すように前に出て、

「おはようございます、殿下。まさか待ち伏せですか?」

と不穏な言葉を言う。グレゴリー様が大きな溜息を吐いて、

「いい加減にしろ、ディライド、偶々だろう」

「お義兄様、いくらテストで勝負するからと言っても、不適切な発言は駄目です。申し訳ございません、アンドル王子様。義兄の言葉は流して頂ければ幸いです」

と謝罪すれば、

「大丈夫だよ。朝から元気が出たし、今日は良い日だから最高の結果が出るな」

と王子が言って歩き出した。
それを聞いて、更に周りの歓声が大きくなった。
流石、アンドル王子様と言う声が聞こえてくる。
お義兄様の盛大な舌打ちを掻き消してくれたのはありがたいけど、盛り上がりすぎだわ。

「ほら、お義兄様、周りの皆さんは、すっかりアンドル王子様を応援している様子です。これはお義兄様の挑発のような発言のせいでもありますからね。後でしっかり謝罪して下さいね。私も頑張りますから、お義兄様も頑張って」

そう宣言して、テストを受けた。
私だって真剣に一つでも上の順位を目指している。養女としてイズリー家に恥はかかせられないから。
ノートは完璧に写していたし、先生の話もきちんと聞いていた…私は大丈夫と自信をもってテストを受けた。

しかし何故テストていうものは、中々満点を取れるようになっていないのでしょう?

「ミランダでも難しかったなら、私、出来たと思ったけど、怪しいかもしれないわ」

「違うの、リリエット、私もその場では、出来たと思って自信を持って見直ししたのだけど、…今、気づいたことがあったの。私スペルを間違えたわ、絶対に間違えてしまったわ!」

何故その時は気づかないのか、答案用紙を前に出してから気づくなんて。
ショックだわ。
どうせなら思い出したくなかったわ。

これって微妙に引きずってしまう問題よ…

大丈夫よ、たった一問でしょう?と慰め笑ってくれたリリエット。それよりやはり話題は、二学年の教室にみんな思いはいくようで、

「どうなっているかしらね?」

『勝負』とあちらこちらで噂話が聞こえてくる。
どうかなるべく穏やかに終わりを告げてくれればいいな。



帰りの馬車の中で、突然お義兄様が、笑い出した。

「フッフフフ、ミランダちゃん、今回のテスト、私は、はっきり言うと完璧だった。あんな自信満々だったアホンドルの悔しそうな顔が今から想像出来るよ。フッフフフ…」

また悪口…
お義兄様の何とも言えない腹黒い笑顔を見てしまったわ。

「お義兄様、何とも言えないお顔をされてますよ。ハァ、お願いですから、アホとか言わないで下さい。不敬ですし、お友達だからと言ってもご本人が聞いたら、悲しくなりまりますから…」

「呆れないでよミランダちゃん、アンドルなんて私のことをナヨディって呼んでいたんだよ。剣の稽古はいつも私ばかり指名して、対戦で負けると訓練所を走らされるから、隠れたり逃げたりしていたら、ナヨディって呼ばれながら探された。絶対今もグレゴリーに言っているに決まっている」

…ナヨディ?アンドル王子様から聞いた事がないけど?
お義兄様の被害妄想じゃないかしら?

「信じてないね、ミランダちゃん。あいつはあぁ見えて、陰口を言うやつだよ。腹黒!信用してはいけないタイプだから」

でもお義兄様、今の言葉は貴方自身に向かいそうですが、ね。

子供の頃に何かあったのね。レオンとシュワルツ王子様みたいな感じかと思ったら、もっと子供ぽい…

「お義兄様、レオンよりも子供ぽいこと言ってますよ。聞かれて恥ずかしいと思いますから、どうか悪口はその辺で控えて下さい」

まだまだ言いたりないような顔をしていたけど、これ以上はよくないと思いを込めてお義兄様を見ると…
対面に座るお義兄様の手が私の顔に伸びてきた…
スッと眼鏡のフレームに手を触れた。

「どうしたのですか?」

「今、どんな顔をしているのかなって思ったんだ。言葉で呆れているのかな、怒っているのかなってわかるけど。急に不安になったよ、ガッカリされたかもって、嫌われたかなと…馬鹿な事を言い出したから。でも、触ったぐらいじゃ動かないね。きちんと両側を持って上にあげないと動かない…本当の顔をみんな知らない。今、私も知らないんだと思ったら…
手を伸ばしてしまった。
ごめんね、自分勝手で…自分でも何でこんな行動をしてしまうんだろう…最近、自分自身がわからないんだ。
これを外したミランダちゃんをみんなが見たら一体どうなってしまうのだろう…
そんなことを考えると、どうにもならない焦りみたいな不安が来る。私は…誰にも…見せたくない…」

どうしたというのだろうか?
先程まで笑って悪口を言っていたのに…
何が、お義兄様を不安にさせたのかもわからない。

「…お義兄様、眼鏡を外すことはありません。たとえ、お友達に言われてもです。ただ…
いえ、今度行くレストランはどこの店なんですか?もう決めているのですか?」

このスーパー眼鏡のおかげで、助かった事がいくつもある。
この幸せな毎日があるのは、眼鏡をしているから。
マリングレー王国の人間だとか、忌み子として気づかたら、私の事をみんなどう見るのだろう?アンドル王子様は、嫌な顔をするのだろうか、リリエットは?もう誰も話し掛けてくれなくなるのだろうか?知りたくないのに、知りたいと思うこの矛盾が、私もわからない。

何故か私を知ってもらいたいという、この気持ちは何?


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

思いがけず聖女になってしまったので、吸血鬼の義兄には黙っていようと思います

薄影メガネ
恋愛
幼い頃、両親を事故で亡くし、孤児院で暮らしていたエリカはある日、 唯一の肉親である兄、リアードをセオドア・フォンベッシュバルト公に奪われた。 子供がなく、後継ぎを探していたシンフォルースの五大公爵家当主、セオドア・フォンベッシュバルト公。 彼の理想とする基準を満たしていたエリカの兄で神童のリアードを、彼は養子ではなく、養弟として迎え入れることにした。なぜなら彼は人外の吸血鬼だったからだ。 五百歳を越えると言われているフォンベッシュバルト公の見た目は、シンフォルースでの成人を迎えた十八歳の青年のよう。そのため、六歳のリアードを子供とするには不自然だからと、養弟として迎え入れられることになったのだ。 目の前で連れていかれようとしている兄を追って、当時、四歳の子供だったエリカが追いすがった先に待っていたのは──この上なく残酷な、拒絶の言葉だけだった。 「必要なのは彼だけです。貴女ではない。貴女は当家の基準を満たしてはいないのですよ」 神童の兄、リアードと違い、エリカはただの子供だった。 ──私にはリアードの家族でいる資格はない。   そうして涙の中で、孤児院に一人とり残されてから十四年…… 正式に引き取られはしなかったものの。フォンベッシュバルト公の義弟となった兄、リアードの実妹であるエリカは、形式上、フォンベッシュバルト公のある種、義妹という扱いになるのだが── けして認められることも、迎え入れられることもない。エリカが選んだ道は、吸血鬼とは元来敵対関係にあるはずの聖職者だった。 しかし、聖職者の道を歩むため、孤児院を卒業するその日に、エリカは孤児院の門前で傷付き倒れているフォンベッシュバルト公と再開してしまい…… *ちょいちょいシリアス入りますが、緩めのギャグコメ風? ラブコメです。相棒でペットのアヒルちゃん愛にあふれた内容となります。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り
恋愛
魔女リズ17歳は、前世の記憶を持ったまま、小説の世界のヒロインへ転生した。 隣国の王太子と結婚し幸せな人生になるはずだったが、リズは前世の記憶が原因で、火あぶりにされる運命だと悟る。 物語から逃亡しようとするも失敗するが、義兄となる予定の公子アレクシスと出会うことに。 序盤では出会わないはずの彼が、なぜかリズを助けてくれる。 アレクシスに問い詰められて「公子様は当て馬です」と告げたところ、彼の対抗心に火がついたようで。 「リズには、望みの結婚をさせてあげる。絶対に、火あぶりになどさせない」 妹愛が過剰な兄や、彼の幼馴染達に囲まれながらの生活が始まる。 ヒロインらしくないおかげで恋愛とは無縁だとリズは思っているが、どうやらそうではないようで。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...