72 / 120
72 報告します
しおりを挟む
「ラナ、あなたは、どう思いましたか?」
帰りの馬車の中、王宮の図書館は通り過ぎて、王族の居住区、プライベートルームへの潜入は刺激が強すぎました。
心臓の負担がかなり大きかったと思います。私の身体が心配です。
「お嬢様、私は、無理です。飲み込めません。今すぐ吐き出したいくらい、秘密を抱えた気がします。まさか王族の皆様のお住いに踏み入れたなんて」
ラナも相当心臓に負担が掛かったのでしょう。
「…私だって同様です。しかし、お義父様に間者の報告という点であのベテランの侍女の方は…」
「大変親切で、ロイヤルな作法もご教授して下さいました。あの場に怪しい人物はいません。むしろ、私こそ場違い」
ラナが言い切った。
そうですね、確かにしっかり身元保証のありそうな人でしたもの。
ここは、黙って目を閉じましょう。間者なんて最初から勘違い…ハァー。
短い時間かもしれませんが、逃避しましょう。
何故王族のプライベートルームに私達は、いたのでしょう?ただの友達を超えて、親しい間柄ですよ、私、信頼されているの?
*
屋敷に帰ってきて、お義父様の執務室へ急ぐ。
「失礼します、ミランダです」
「帰ってきたね。怒っている?」
凄く心配そうに聞く姿に、この人が行ってくれるかい?的な言い方で、私を送り出したのに、日々の仕事に情緒不安定なのではと心配になります。
「怒るというか、まさか、人手が足りないとか、本の虫干しとか、私を呼び寄せるための話だったりするのですか?
王子様に友達が欲しいと頼まれたのなら、素直にそう言って欲しかったです。
無駄に緊張しました。図書館に間者がいて、私達が探ってくるという密命なのかと変なこと考えましたから」
お義父様は驚いていた。
「間者を探そうとしたのか…随分と発想が物騒だ。そんな危険な事を頼むわけないだろう…それにしても友達か、友達になったのかい?」
王子が、友達を欲しがっているから、お義父様も誰かから頼まれたのよね?
「はい。何だか最近アンドル王子様は、グレゴリー様達を、側近という仕事仲間と、昔から知る友達関係の狭間の感情や心の問題に揺れているみたいで…
身分という隔たりも大きな壁になっているようで、友達作りが上手く出来ないようです。きっと、お互いきちんと話せば、わかりあえると思います。
確かに学校の中で溜息を吐いていた方が、まさか王子様とは思いもしませんでしたが…悩みは尽きないのでしょう。
今後は是非、お義兄様との間を取り持てるように頑張ります」
「ディライド?」
「きっと王子様は、お義兄様と友達として仲良くしたいのだと思います。以前も食堂で、お義兄様がいたから同じテーブルで食事をしたかったと記憶していますから」
「プッハハハハハハッ、王子は口下手みたいだからな。
やっぱり若いなぁ!そうだよね?みんな友達って素晴らしいよね。楽しい学校生活だよ。心配していたのが杞憂に終わって良かったよ。一回の機会で決められるような男だったら、今までも何回も機会が、あったわけだからね。友達から始めましょうって言われた?これは、またあいつと酒が進むな」
「もう、お義父様、何勝手に盛り上がっているのですか?若いとか関係ありませんよ。友達になりましょうと言うのは、本当に勇気がいることなんです。私も友達作りには苦労をしましたから、わかります。笑いごとではありません。それに私から言いましたから!友達になりましょうとね」
少し胸を張る。
ここは友達作りの先輩としてね、手を差し伸べました。
親同士だったのね。
親を通して友達作りは、この年を考えると考えものだけど、王子という立場を当てはめると仕方ないかと同情してしまう部分は、私にはある。
私も人から隔離されていたから、輪の中に入る勇気が中々出なかったもの。
気持ちは分かるわ。
「いや、仲良くなれそうかい?」
お義父様に聞かれた。
もちろん、友達になって、初日ですからわからない事はいっぱいありますが…
「はい、楽しい方ですよ。話は面白いし。人間味のある人だなと思います。初めて会った時は、あまりに絵本の中にいた王子様と一緒で、表面的に絵の人という感覚でしたから。少し頬を上げた感じのずっと同じ表情でしたよ。話をしてみたら随分と印象が変わりました」
「確かに表情、というか喜怒哀楽も見せなかったな。隙を見せなくなったのはいつからか?職業王子なんて言っていた頃からかな」
お義父様が考え始めた。
「そんなこと仰っていたのですか?国のこと領地のこと経済のこと、確かに幅広く知識があり、それを活かそうと取り組んでいる話でしたね。職業と言いますが、生き生きして話をしてましたよ。この国が好きなのでしょうね」
「…そうであるなら、臣下の一人として大変誇りに思うよ。嬉しい報告だな」
「はい、私も話を聞いていて温かく嬉しい気持ちになりました。一層、学校で、勉学に励みます。それに趣味が温室で植物を育てることらしく、月下美人なんてもう友達のように、ふふふっ、紹介してくれました」
「アンドル王子とは、良い時間を過ごしてきたんだね。面白かったなら、何よりだ。楽しみなさい、学校を、毎日を。それがみんなの願いなんだから」
あぁ、私を迎え入れてくれた優しい顔だわ。
「ありがとうございます」
*
その日の夜、お義兄様は、夕食に現れなかった。
ラナにどこかに行っているのか確認したら、
「お出かけにはなっているそうですが、どこに行くかは、旦那様のみにしか告げていないそうです」
「では、お義母様も心配されているでしょうね」
「それが、そうでもないようで、男の子は戦って成長するのよ、と言われたそうなんです」
「戦うなんて物騒ね。イズリー家は情報を武器にしているのに」
「…お嬢様、差し出がましいのですが、王子様との友人関係、些かお嬢様と王子様の熱量に差があったような。不敬な発言すみません」
確かに帰りもアンドル王子様は、とても嬉しそうに、
「次は、商隊を呼ぶから一緒に話を聞こう。旅の話はワクワクするな、お茶菓子も沢山用意をしよう」
と言って念入りに私の予定を聞いて計画していたわ。
「ラナ、王子様にとって友達という存在が、久しぶりで嬉しいのは仕方がないわ。私だってリリエットにお土産を買う時もお揃いの髪留めを買う時もワクワクして嬉しかったもの。気持ちはわかるわ」
何故か先輩として自慢になる話だわ。私は、王子様の一歩先をいっているわ。
「…あれはちょっと違う気が…」
ゴニョと言ったラナの声は小さくてよく聞き取れなかった。
まぁ、温かい目で見ましょうよ。
私も旅の話を聞いてみたいもの!
帰りの馬車の中、王宮の図書館は通り過ぎて、王族の居住区、プライベートルームへの潜入は刺激が強すぎました。
心臓の負担がかなり大きかったと思います。私の身体が心配です。
「お嬢様、私は、無理です。飲み込めません。今すぐ吐き出したいくらい、秘密を抱えた気がします。まさか王族の皆様のお住いに踏み入れたなんて」
ラナも相当心臓に負担が掛かったのでしょう。
「…私だって同様です。しかし、お義父様に間者の報告という点であのベテランの侍女の方は…」
「大変親切で、ロイヤルな作法もご教授して下さいました。あの場に怪しい人物はいません。むしろ、私こそ場違い」
ラナが言い切った。
そうですね、確かにしっかり身元保証のありそうな人でしたもの。
ここは、黙って目を閉じましょう。間者なんて最初から勘違い…ハァー。
短い時間かもしれませんが、逃避しましょう。
何故王族のプライベートルームに私達は、いたのでしょう?ただの友達を超えて、親しい間柄ですよ、私、信頼されているの?
*
屋敷に帰ってきて、お義父様の執務室へ急ぐ。
「失礼します、ミランダです」
「帰ってきたね。怒っている?」
凄く心配そうに聞く姿に、この人が行ってくれるかい?的な言い方で、私を送り出したのに、日々の仕事に情緒不安定なのではと心配になります。
「怒るというか、まさか、人手が足りないとか、本の虫干しとか、私を呼び寄せるための話だったりするのですか?
王子様に友達が欲しいと頼まれたのなら、素直にそう言って欲しかったです。
無駄に緊張しました。図書館に間者がいて、私達が探ってくるという密命なのかと変なこと考えましたから」
お義父様は驚いていた。
「間者を探そうとしたのか…随分と発想が物騒だ。そんな危険な事を頼むわけないだろう…それにしても友達か、友達になったのかい?」
王子が、友達を欲しがっているから、お義父様も誰かから頼まれたのよね?
「はい。何だか最近アンドル王子様は、グレゴリー様達を、側近という仕事仲間と、昔から知る友達関係の狭間の感情や心の問題に揺れているみたいで…
身分という隔たりも大きな壁になっているようで、友達作りが上手く出来ないようです。きっと、お互いきちんと話せば、わかりあえると思います。
確かに学校の中で溜息を吐いていた方が、まさか王子様とは思いもしませんでしたが…悩みは尽きないのでしょう。
今後は是非、お義兄様との間を取り持てるように頑張ります」
「ディライド?」
「きっと王子様は、お義兄様と友達として仲良くしたいのだと思います。以前も食堂で、お義兄様がいたから同じテーブルで食事をしたかったと記憶していますから」
「プッハハハハハハッ、王子は口下手みたいだからな。
やっぱり若いなぁ!そうだよね?みんな友達って素晴らしいよね。楽しい学校生活だよ。心配していたのが杞憂に終わって良かったよ。一回の機会で決められるような男だったら、今までも何回も機会が、あったわけだからね。友達から始めましょうって言われた?これは、またあいつと酒が進むな」
「もう、お義父様、何勝手に盛り上がっているのですか?若いとか関係ありませんよ。友達になりましょうと言うのは、本当に勇気がいることなんです。私も友達作りには苦労をしましたから、わかります。笑いごとではありません。それに私から言いましたから!友達になりましょうとね」
少し胸を張る。
ここは友達作りの先輩としてね、手を差し伸べました。
親同士だったのね。
親を通して友達作りは、この年を考えると考えものだけど、王子という立場を当てはめると仕方ないかと同情してしまう部分は、私にはある。
私も人から隔離されていたから、輪の中に入る勇気が中々出なかったもの。
気持ちは分かるわ。
「いや、仲良くなれそうかい?」
お義父様に聞かれた。
もちろん、友達になって、初日ですからわからない事はいっぱいありますが…
「はい、楽しい方ですよ。話は面白いし。人間味のある人だなと思います。初めて会った時は、あまりに絵本の中にいた王子様と一緒で、表面的に絵の人という感覚でしたから。少し頬を上げた感じのずっと同じ表情でしたよ。話をしてみたら随分と印象が変わりました」
「確かに表情、というか喜怒哀楽も見せなかったな。隙を見せなくなったのはいつからか?職業王子なんて言っていた頃からかな」
お義父様が考え始めた。
「そんなこと仰っていたのですか?国のこと領地のこと経済のこと、確かに幅広く知識があり、それを活かそうと取り組んでいる話でしたね。職業と言いますが、生き生きして話をしてましたよ。この国が好きなのでしょうね」
「…そうであるなら、臣下の一人として大変誇りに思うよ。嬉しい報告だな」
「はい、私も話を聞いていて温かく嬉しい気持ちになりました。一層、学校で、勉学に励みます。それに趣味が温室で植物を育てることらしく、月下美人なんてもう友達のように、ふふふっ、紹介してくれました」
「アンドル王子とは、良い時間を過ごしてきたんだね。面白かったなら、何よりだ。楽しみなさい、学校を、毎日を。それがみんなの願いなんだから」
あぁ、私を迎え入れてくれた優しい顔だわ。
「ありがとうございます」
*
その日の夜、お義兄様は、夕食に現れなかった。
ラナにどこかに行っているのか確認したら、
「お出かけにはなっているそうですが、どこに行くかは、旦那様のみにしか告げていないそうです」
「では、お義母様も心配されているでしょうね」
「それが、そうでもないようで、男の子は戦って成長するのよ、と言われたそうなんです」
「戦うなんて物騒ね。イズリー家は情報を武器にしているのに」
「…お嬢様、差し出がましいのですが、王子様との友人関係、些かお嬢様と王子様の熱量に差があったような。不敬な発言すみません」
確かに帰りもアンドル王子様は、とても嬉しそうに、
「次は、商隊を呼ぶから一緒に話を聞こう。旅の話はワクワクするな、お茶菓子も沢山用意をしよう」
と言って念入りに私の予定を聞いて計画していたわ。
「ラナ、王子様にとって友達という存在が、久しぶりで嬉しいのは仕方がないわ。私だってリリエットにお土産を買う時もお揃いの髪留めを買う時もワクワクして嬉しかったもの。気持ちはわかるわ」
何故か先輩として自慢になる話だわ。私は、王子様の一歩先をいっているわ。
「…あれはちょっと違う気が…」
ゴニョと言ったラナの声は小さくてよく聞き取れなかった。
まぁ、温かい目で見ましょうよ。
私も旅の話を聞いてみたいもの!
6
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【書籍化・取り下げ予定】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる