今日も楽しくいきまshow!?

犬野きらり

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67 アンドル・クリネット 5

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アンドルside

ハァーーー
最近溜息ばかりだ。理由はわかっている。

中庭で話していたのが私だと、君に知らせていいのだろうか?

嫌がる…ディライドの顔はすぐ思いつくのに。君がどんな顔をするか…

たぶん嫌かられるな。王子といっても数回話した程度。
きっとまだ…知らない人だし。木の裏で隠れていた男ですと言われて、気持ち悪がられるだろう…最悪だ。

何故もっと早く明かさなかったのだろうか。
後になればなるほど、ヤバい奴だろう…彼女を知った後も繰り返しているこの行動。

痛い。
胸が痛い。

「アンドル王子様、こんな所にいたのですか?」

「イズリー伯爵、どうしてここに?」

「お父上が随分と気にかけていましたよ」

えっ?いつ見られた?

「国王陛下が?失礼しました。私ごときを、悩みの種にしてしまいましてすいません」

「そんなことを言うものではないですよ。…フゥー、親子というのは、難しいですね。もっと有益を重視すれば割り切れる判断もそこに心が、愛情があると自分だけではなく、相手を思ってしまう。言葉で言うのは、簡単ですけど要は、国王陛下は、可愛い息子が心配で手を差し出したいけど、自分が動けないから、私に頼んだというわけです。では、王子様、何をお悩みですか?そのように目の下に隈まで作られて…」

「イズリー伯爵…いや、来てもらって申し訳ないが、仕事の話ではないです。私の個人的ことで、質問も何も、言葉の伝え方も自分が考えていることさえ、わからないのです…」

イズリー伯爵は、顎を触って、

「困ったな。随分と…厄介な病かな」

と呟いた。私は、みんなを困らせている。知っている。

「私事の話ですが、国王陛下とは友人でして、まぁ、私も沢山無茶なお願いをして、あちらも押し付けて…と言う関係でやってますよ。前回のお願いが結構無茶を言ったのは、わかっているし、君は友人の子供だからね。一回だけお願いを叶えてあげるよ。話してごらん。どんな馬鹿な願いも笑わないし、叶えてあげるよ。ただし、人が死ぬとか心を踏み付ける交渉はしないよ…
いつまでも溜息ばかり吐いていたって、解決にもならないだろう。言葉じゃなくても単語を吐き出してもスッキリするかもしれない…
知らないおじさんに呟いていると思えば良い」

「知らないおじさんって」

「そう、そう、その調子」

イズリー伯爵に彼女のことを言っても、たぶん態度が変わることなんてないだろう。人にも言わない。
しかし良いのだろうか、この人の養女だぞ…
ハァー、
今、この痛さが、自分で解決出来ないのも知っている…

「…変わった子がいるんです。私が逃げだした先に、その子は現れるんです。
お互い姿を見せないで…私の不満を聞いてくれた。何一つ助言もくれない。ただ話してスッキリして…
誰だったのか急に気になって、隠れていた木から出たんです。その子は、何も告げずに、ずっと遠くにいた。振り向かず、こちらも見ない。その時は…猫に会った感覚でした。
また面倒で逃げた先に、その子が来たから、足元にどんぐりを投げて、気づかせた。猫を構いたかったのか、前回気持ちが楽になったからか、その子は、誰にも言わないし、なんか信用出来ると思ってたからか…
やっぱり何も言わないけど、そう、毎回絵を残してくれるんだ。微妙な奇妙な、笑ってしまうような絵を地面に書いてくれるんだ。話した後、落ち着くし、何故か温かいんだ、頑張ろうって気持ちになる。
それが、楽しくなって嬉しくて、私だけは、その子を知っているから、良い所を見せたくて、調子に乗って傷つけ…ました…
怒って、イライラして、逃げたくて、顔も合わせられないのに、また馬鹿みたいに同じ場所に逃げて、隠れて、カッコ悪いです、私は。
それなのに、その子は、現れた。
何故か私が悪いのに、自分が悪かったと言っていた。苛立ちも情けなさも自責もあるのに、その子に心配されたという喜びが沸いたんです。嬉しかったんです。心配、気にかけてもらえている、言葉にして貰ったそのことに。
だけど、気づいたんです、私は、その子を知っているけど彼女は、私を知らない。だから、どうにか顔見知りとか気づいてもらえるとか、見てもらえるとか、そんなことを計画したり考えている時間が楽しくて、周りのことより自分のことに懸命になっていて、他を考えるのが、面倒でまた逃げて、彼女に私だったと打ち明けたら…嫌がられるし、彼女にとって知らない人だし、でも気づいてと…欲が出た。隠れたくないと思って、でも嫌われたくない、を繰り返して、そう考えると胸が痛い…」

ハァーーー

意味もなくツラツラと思いのままに語ってしまった。怖くてイズリー伯爵を見れない。

「へぇーーー
いいね~。楽しいね。生きているね。辛いね。自分のこともその子のことも考えているね。外見も名前も知らないなんて、浪漫なのか、夢物語なのか、綺麗なものが見えたかい?
それも一面だよね。
…だから迷っているんじゃないのかな?
王子なら権力を使えばいい、手に入るでしょう。間違った判断をしたと思うことが怖いのかな?」

やっぱり怒っている?

「彼女は…権力で手に入れれるものじゃない!」

本当に?私は王子で…
悩んでいる理由は、彼女のことじゃない?

「何に迷っているのですか?」

何に?
誰に?
彼女に?
周りに?

「自分に」

「ハッハハハ、そうか。若いなぁ、良いな、頑張れ、国王に言って欲しい?囲む檻が欲しいとか…」

頭を振った。

「私は、答えを持っているのに、逃げて、偶然ばかりにしがみついて。まずは挨拶をしたいと思います。私は彼女を知りたい。自分を知ってもらいたい」

そうだ、知らないと始まらない。政略結婚ではないなら、自分で選んでいいなら、彼女に拒否されることも覚悟して。
両親に話そう。
恥ずかしい、私の話を。
受け入れられるかは、わからないけど。
今の気持ちを。
…少し先の未来の私の気持ちがどうなるかもわからない話を。
ただ我儘に甘えた事を言ってみよう。怒られるような話をしてみよう。

それで、また私の気持ちが動けば、また考えてみよう。

「イズリー伯爵、本日はありがとうございました。気持ちの整理がつきました」

「うん、良い顔しているね。うちのディライドにも見習わせたいよ…で、その子だの彼女、というのは、もしかして、私の家の関係者だったりするのかな?だからマリングレー王国の神官の事件も調査したのかい?」

「えっ!?」

でも、会うには、挨拶するには、接点がないから…

「はい、私は、ミランダ嬢と話がしたいです」

「うわぁ、急に吹っ切れたね。でも駄目だよ、みんなに言っては!困ったね、それは、色々…ハァーーー
何となく、返事をしないとか意味を誤解しているとか…あるかなって思ったよ。あの子なら…少々ね、あぁ、うん、きっと陛下から呼び出されるなぁ」

遠い空を見上げ始めたイズリー伯爵に、なんだか照れくさい。

「お手数をおかけします」

「うん、まぁ、要相談だろうな。一応、友人の息子だけど色々複雑だな。悪いけど、借りは返したと伝えてね。父君に」

あ、紹介とか出会うセッティングとかしてくれないのか…

「…アンドル王子様、顔に出てます。そんなに甘くありませんよ」

イズリー伯爵は帰って行った。
すぐに国王と王妃に謁見を申し込んだ。初めて、『私事の話』と書いて。

二日後、ソファに座る二人と温かいお茶が冷たくなるまで話し、二人が笑っていた。

「アンドルは馬鹿だな」
「あら、この子は昔から臆病で弱虫でしたのよ」
「でも…色々困ったな」

と父は言った。

何故か二人の思い出の恋話だったり、変な助言をくれたり、絶対に会いたいって言われたり、どのぐらい話したかわからないほど、三人で過ごした。
弟も呼んであげれば良かった。
こんなに自分の話をするなんて…
職業王子としては、失格だ。

でも、この時間は温かくて、恥ずかしくて、楽しくて、嬉しいなんて、幸せな時間だ。

家族の時間だった。
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