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63 文化祭 其の2

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淑女教育の授業

「今日は全員に文化祭のバザーの商品、オリジナルのハンカチ刺繍をしてもらいます」

オリジナル?

「家紋など、身元が分かるものは止めて下さい。これはコンテストも兼ねています。全学年対象ですから。一位から五位まで文化祭の二日前に発表されます。中々良い副賞もありますからね。家に持ち帰りも禁止です。本日中に提出です」

先生の言葉。

副賞に沸くクラスメイト…去年の例を紹介しているわ。
しかし、オリジナル?に固まる私。

「どうしたの刺繍は得意じゃない、ミランダ」

「そうね、家紋や練習済みの図柄なら、何度も練習もしているし、苦手ではないわ。でもオリジナルって何かしら?」

そう、私は決められた図案を反復的に練習した結果の得意にあたる。

「あぁ、自分で好きな図柄を書いて良いのよ。ほら、図柄って季節とか決められたパターンが多いでしょう。だからオリジナル、つまり個性よ。必ず他の方と被ることがないでしょう」

個性?被らない、か。

「わかったわ」

ふふっ、好きな図柄ね…
個性ね、聞いた言葉は理解出来るけど、浮かぶのは、今まで練習してきた図柄ばかりよ!

私に個性なんて、ないのですね、先生~

「リリエット、あなたどういうの…」

羊ね、それは!

「山が多くて領地で羊を飼っているのよ。夏季休暇の最後で羊の出産と子羊をスタンルートと一緒に見て、可愛いと思ったから…」

思い出ね。

動物、確かに可愛いわ。
私も最近地面に猫を描いたわ。
あれ、結構可愛くかけたし、みんなで輪になるのって、想像だしオリジナルじゃないかしら。図柄で見たこともないわ。
リリエットも親子の羊みたいだし。
あれは、私のアイデアよね。
溜息の船乗りの話を聞きながらだったけど。

アレにしよう!


「ミランダ、…それを提出するの?」

「ええ、もちろん、そのつもりよ。授業終了時間だし」

「…そう、独特な図柄ね。初めて見たわ。オリジナル…私、バザーでミランダの絶対買うから、他の人に見せないでね。約束よ」

リリエットが真面目な顔をして私にお願いをしてきた。

「ええ、気に入ってくれたのね、嬉しいわ」

先生に、みんな一斉に提出した。名前を書いた紙を裏に仮止めをして。



アンドルside

文化祭の貴賓を招くリストを確認の上、別館に渡しにいくと、女性教師から呼び止められた。

「今年のオリジナル刺繍のハンカチの優秀賞の選出にアンドル王子も参加して頂けませんか?」

突然の提案だな。

「いや、私は、そういうのはわからないので、難しいです」

当たり障りなく断ってみる。何故突然先生はそんな話をしてきたのだろう?

「そうですか?女生徒全員オリジナルの力作なんですよ。裏を見なければ誰が作ったかは、わからないようになっているので、遺恨は残らないはずですが、教師ばかりが選出すると技術面に偏ってしまって、オリジナルや斬新さにかけるんですよ」


女生徒、全員…
文化祭の日、これはバザーで売り出される。そして当日見に行くこともきっと私は、出来ない…
せめて、彼女のを。
でも、誰が作ったかわからないと…
いや、裏を見ればわかるか、しかし狡いような。
うーん、やはり裏は見るのはやめよう。前も私だけ彼女の後ろ姿を見るという狡い行動をしているし、これ以上の行為は顔を合わせにくくなる。
しかし…
どれかはわからないが、見た気になれるなら、それは少しでも接点が近づいたことになる…気がする。

「引き受けます」

「生徒も喜びます」

「私は、知識がないので、インパクトで選んでいいですか?順位とかじゃなく。気に入った物を一つ選びます」

さぁ、この中の一つが彼女のだ。

150枚はあるだろう、ハンカチだ。
どれも、植物、鷲や鷹、家紋に近いもの、帽子や雑貨…


目がチカチカしてきた。溜息が出そうになって飲み込んだ。

…嘘、だろう。
信じられない。誰だかわからないなんて、嘘だ。この猫は、
…間違いない。

「先生選んだ物は、額縁に飾るのですよね?名前を公表して」

「ええ、最後に一応、通常の5倍の値で売ります。アンドル王子様、欲しいハンカチがありましたか?もしバザーにこれないようでしたら、本日押さえても良いですよ」

と先生。
なんて神なんだ。これが神対応。
面倒くさいことを引き受けたかいがあった。先程はこれ以上の狡いと思う行為はしないと決めていたが…

これは、先生が自ら言ってくれた好意なのだ。
だから私が先に購入するのは決して狡い行動ではない。

「では、この羊の親子を選びたいと思います」

自信を持って先生に渡した。もう一枚ハンカチを持って。

「こちらをお買い上げしたいのですか?」

「いえ、こちらの…猫です…」

「えっ?この…オリジナルは確かに見たこともない、斬新な、いえ、奇妙な…猫ですかね?」

「はい、猫です。私は、猫が大好きなんです。私は、このオリジナルに、ビビビっときました。ただ賞という争う刺繍ではありませんね。私個人の趣味です。こちらを買います。即、買います、買わせてください」

「…こちらは、確かに…今日、お買い上げいただいても、問題はないかと、もしかして当日もある可能性も…残るかと…」

「即、買います」


「はい、本日は、わざわざ御足労頂きまして、ありがとうございました」

疲れた顔をした女性教師に、確かにこの中から選ぶのは大変だと思う。

だがしかし、私はお宝を見つけた。やり遂げた。最高だ。
素晴らしい日だ。



「アンドル様、見ているそのハンカチ、呪い除け?」

「馬鹿、これは、猫が三匹輪になって手を繋いでいる様子だ。可愛いだろう。顔から手が出ている!癒やしの宝物だよ、いや、戦利品だな」

グレゴリーとサイファはずっと、変な宗教だの呪いの類だの言っていた。

私は、この刺繍を刺した令嬢を知っている。
本日宝物入手。


後日

「凄い、リリエット優秀賞に選ばれるなんて」

「ありがとう、ミランダ。絶対、ミランダのハンカチは私が買うから!」

「では、私は、リリエットの買うね」

「ごめんね、ミランダ…スタンルートが絶対買うって言っているの」

ぽっ…リリエット可愛いわ(笑)


文化祭当日

「スタンルート、猫よ、猫、早く探して。あれは、世に出しちゃだめよ。早く回収しなくちゃ」

「リリエット、ないよ。売れたのではないかな?」

「売れる?まさか、それはないわ。どんな奇特な人が買ったというのよ!」

「酷いこと言うなぁ~」

「可愛いとか酷いという次元じゃないのよ。とんでもないぐらい絵が、下絵が下手なのよ!!」
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