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犬野きらり

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22 ダイアナ・ガトルーシー 2

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ダイアナside

王宮の庭園 

「初めまして。マリングレー王国ティア王女殿下。私、ダイアナ・ガトルーシーと申します。本日は、僭越ながら殿下のお話相手を務めさせていただきます」

指先までしっかり意識した完璧なカーテシーをした。
これだけは、必死に練習したのよ!
王宮に入り込むために。

「面を上げてください。私は、ティア・マリングレー、マリングレー王国の第一王女です。隣国ですが初めて入った国、知り合いもおりませんので、あなたみたいな可愛い令嬢と話せるなんて、嬉しいですわ」

可愛いですって…
少しの心も入らず、決められた言葉を読むみたいだわ。
淡々と私など興味もないみたいね。
私が本物の夢見の乙女だとも知らずに。
王女らしい笑みを浮かべているけど。

マリングレー王国とは?
サイファ様に、勉強しろと言われたが夢見の乙女だということばかり気にして、国や彼女について調べなかった。

でも、関係ない。私としては、勝てる自信がある。
だって小説『平凡令嬢は、夢見な乙女です』を知っていたとして、彼女は王女で、平凡令嬢ではない。いくら私より小説の内容が詳しくても、ヒロインになれない。
真似をしたり、先回りして、私から夢見の乙女の座を奪おうとしているだけ。

彼女が私の真似をしたから、小説にバグが生まれて、綻びが出来たのよ。
この王女の髪色、水色なのが、ミランダを思い出すし、私の予測は正解だと思う。ここでこんな共通点が現れるなんて!
あー、ムカムカしてきたわ。全てこいつのせいだった。

「ダイアナ様?」

「あの王女殿下、私の事はダイアナと呼んで下さい。男爵家ですし、聞けば、同じ年頃とのこと、気軽に声をかけて頂きたいです」

「男爵家…」

ほら、やっぱり反応した。
私がヒロインだって気付いたかしら?
ふふっ、残念でしたね~
釘を刺すには、どうしても後ろにいる侍女や護衛騎士が邪魔なのよね。
半端な言い分で不敬扱いには、なりたくない。

「この国のことを知りたいと思っていたので、気軽に話せるなんて嬉しいわ、ダイアナさん。私のこともティアと呼んで下さい」

「はい、ティア様」

最高級のお茶に有名な店のスイーツ。

…サイファ様に招待されて王宮に入った時には、このようなもてなしを受けなかったわ。

やっぱりアンドル様まで辿り着かないと。

私の役割、この偽物の夢見の乙女をおとなしくさせる方法…じゃない、はっきり偽物を止めろと忠告しなくちゃ。

「ティア様は、王女様なんて高い地位、令嬢の憧れみたいな存在ですよね~」

だから、小説の中身を知っていても出しゃばるな。と思い、彼女を見る。
仄暗い顔をした。ゾッとした。

何で!?

褒めたのに、虎の尾を踏んだみたいな…

「そんな風に見えるかしら?これでも大変なのよ。忙しくて。王国には王女は私一人でしょう…国民の前に出て発言しなくてはいけないから、馬鹿な真似は出来ないのよ…」

ゾワゾワする。
気分直しにお菓子を食べる。
私、この王女に忠告出来るかしら?

駄目よ。ここで引いたら、どんどん彼女に奪われるわ!

「私、今回、ティア様とお話をすることになって聞いたのですが、ティア様って夢見の乙女と言われているそうですね」

思いっきり、核心に切り込んだわ。
どうよ!
怖がっていたら、前に進めないからね。


「そんな風に呼ばれているのは、確かですね。その他にも、先見の巫女や聖女なんて呼ぶ方もいます。でも全てたまたま話した事が、良い解決に導いただけです。そんな感じがすると話すと起こったり、解決の考えを思いついたという…それを人は、称えたいのか自分とは違う存在と言いたいのか、私には分かりませんが。実際の所、私は、見かけ通り普通な娘ですのよ。衣装を交換したら、ダイアナさんの方がよっぽど可愛いらしい王女になれるわ」

とケラケラ笑って話す。
王女様がそんな面白い話をしたのか私には、わからない。
容姿を気にしているのね。
確かにティア様は、重そうな前髪と瞼が瞳にのしかかって開いた目は、細いけど青紫色の珍しい色だ。
一番気になるのは、肌ね。ピカピカ光って見える。白粉の塗りすぎじゃないかしら。幾重にも塗り込まれ、本来の人間としての褐色さが感じない。
全て塗り固めているような…
人形みたいな肌。真っ白。
手を見ても、両手に手袋をしながらお茶を飲み、首も肌を出さないハイネックのドレス。


容姿にコンプレックスがあるのは、わかるけど、あなたこそ王女なのだから、胸を張れば良いのよ。
何でも持ち合わせられるでしょう?

褒めて、夢見の乙女なんてやる必要はない、と言わなきゃ。

「まさか、立っている姿勢も動きも言葉を一つとっても王女としての気品や貫禄が滲み出て、神々しいです。私は男爵家なので、学校に通うまで平民の友達しかいませんでした。領主でもありませんし、少し大きめの村を管理しているような家なので、みんな村長って言ってます。それが学校に来てからのコンプレックスで、他の貴族令嬢達が虐めるんです」

と出ない涙を表情で誤魔化し、可哀想なヒロインを演じる。
どうかしら!
あなたには出来ないでしょう。これが本物のヒロインの演技よ!

「まぁ!学校では、身分とうるさいのね、物語の話みたいね。そういうのは、よく聞くけど実際あるのね。私は学校に行ったことがないから、そういう場を見た事がないわ」

「はい、物語通りです」

食いついたわね。

「でも、聞く所そういう話は、一般的に貴族の礼節も知らない娘が、貴族令息を誑かし、次から次に問題を起こすから、高い身分の令嬢が代表として、助言や注意をして教えてあげているのではないかしら?」

…やっぱり転生者ね。よくあるパターンを話してきた。

私は、王女で注意できる立場よと言われているみたいね。まぁ、普通なら悪役ポジションね。
だからなのね!
私のヒロインポジションに、なり変わろうとした理由は!

「高い身分の令嬢も、話したい方に話しかければ良いのですよ。学校ですよ、学ぶ所にそんな遠慮いりますか?」

「そうね、話したくてもプライドが邪魔して、自分からは話しかけられないということもあると思うわ」

後ろの護衛騎士が睨んでいる。
全く、守られているくせに欲張りすぎなのよね。

「プライドですか…
それを見下した人間に当たらないでくれたら、学校はもっとよくなりますね」

と言えば、細い目を笑っているように見せつつ、

「ええ、マリングレー王国の学校の改善にもなる貴重な意見だったわ」

と心にもない事を言っているわ。もう話す意味もない、私に価値がないと言うみたいに、帰る準備を始められた。

「ここが、…小説の中だとしても私は改変して欲しくないのです。せっかく特典があるなら、私もハッピーエンドを目指しているので」

カダッ

「な、な、」

と勢いよく立ち上がったティア王女は、自らのティーカップを倒して、銀色の高そうなドレスを汚した。
お付きの侍女や王宮の侍女も慌て対応して王女は、王宮の中に連れて行かれた。細い目でずっと私を見ながら…
口は何か言おうとしたみたいだったけど、周りに人がいたせいか言葉に出来なかったのかもしれない。

短い会話だった。
でも、私の気持ち、前世持ち転生者の脅しは効いたと思う、動揺していたわ。

負けないわよ!

「物語を知っていたとして、もう真似をするのは止めるわよね。本物が釘を刺したのだから、偽物は引っ込むはず」

その日、サイファ様より手紙が送られてきた。所謂、
『王城出入り禁止』
だ。

「何故よーーーーーーあの偽物!!反省無しなのーーーー」

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