16 / 120
16 妄想が現実を超えてきます
しおりを挟む
お義兄様に馬車の中に入れられた。
「ラナ、まだ眠い~」
「顔も洗わずに、寝衣からワンピースに着替えただけですからね~、全くディライド様は何を考えているんでしょう?」
きっと何か情報が手に入ったのだとは思う。こんなバタバタとお義兄様はしないもの。
ガタっガタ揺れる、商会から借りている馬車に御者と侍女二人。
籠に入ったのはきっと朝食だと思うけど…
どう見てもパンのみ…
何を焦ったのかしら、お義兄様~
「あぁ~ラナ、三種の神器持ってきたかしら?」
「はい、まずマントを羽織りましょうか、そして髪を解かします」
ん、半分瞼が閉じた状態でやってもらうけど、流石に髪色の変化スプレーは、馬車内は無理だし、眼鏡もまだ顔を洗ってないからつけたくない。
「漁港は朝が早いと言いますし、何かスープでも手に入りそうですよね、お食事もその方が良いでしょうね、昨日のパンだと思いますので、固そうですから」
「ラナに任せます、もう少し寝ま~す」
揺られることどのぐらいだろう。
漁港の村で馬車は止まった。
「お嬢様、こちらの村の井戸を借りましょう。漁港に入る前に流石に色々整えたいですから」
と言われるままに馬車を降り、顔を洗い、髪色を変えた。
「では」
馬車の足掛けに足は掛かっていたし、あと30㎝頭を馬車に入れるだけだった。
馬の弾む息声が聞こえた。
瞬間だった。
そちらを見てしまった。
金色の髪がサラサラと靡いていた。エメラルド色の瞳が私を見た
…と思う。絵本の王子様だ。私は、見惚れてしまった。
慌て顔を背けて馬車内に乗りこむ。侍女達は、みんな無言でスンッとした顔をしている。私を焦らさず空気に徹するみたいに。
全員、王子に気付いただろうに、無視をして馬車を走らす。
追ってきてはいない。と御者から報告を受けラナ達は安心したようだった。
やっと表情が崩れた。
馬車内の緊張感が高かったから、私も安心はしたのに。
でも私は、胸がザワザワしている?
ドキドキしている?
この急かすようなモノがわからない。夢が叶った?私を見てくれた?絵本が私の足を掴んで、中に入れようとしている?
現実と妄想が混ざり合う。
鳴り止まない心臓の音。病気になったのかもしれない…そう思うほど音が響く。
一瞬だったの。
目が合ったなんて、わからないほどの時間なのに…あの方の表情筋が動いた気がする。笑みじゃなく驚きの!
そんな顔も出来るのですか、という何とも秘密を見てしまった気で嬉しくなった。彼が私を見てくれた?
嬉しい?何故…
私の頭が、ぐちゃぐちゃに混ざる。過去が思い出が重なる。
駄目よ、思い出しては駄目。
先生が言っていたじゃない、忘れなさいって。
辛いことも寂しかったことも、幸せになれば忘れていいって。
大丈夫、今、私は幸せで…
「お嬢様、大丈夫ですか!」
心臓の音がうるさいの…
子供の頃ずっと絵本に呼びかけていた。
ずっと同じ顔で私を見る、その絵に寂しさを誤魔化してきた。
違う顔も見せてよ。
笑ってばかりいないでよ。
願っていた、どうか私も絵本の中に入れさせて下さいと。
ここは一人で寂しいから、私もみんなの輪に入れて下さいと。
私が、入れないのなら、どうか出てきて下さいと。
そんな子供の頃の願いが叶ったみたいで、私が、絵本の王子を驚かせた、彼は私の前に現れた…嬉しい。
違う!ここは別塔じゃない!
ここは馬車の中よ。
「…ごめんなさい、ラナ。少しパニックになってしまったわ。…多分、アンドル王子様に馬車に乗り込む姿を見られたわ。必要なくてもお義兄様に報告するし、後眼鏡をもらうわ」
「大丈夫ですか?気にせずお休み下さい。すぐに私達も逃げれたと思い、遠目と判断しましたが。…やはり今の一瞬で顔まで確認出来ましたかね?
しかし、この馬車は商会の馬車。足がつくことはありません。
それにお嬢様の存在自体アンドル王子様は、ご存知ないでしょう、大丈夫ですよ、誰も追ってない。お嬢様を捕らえないです。ディライド様達の言う通り、のんびり楽しく領地を過ごせば良いんです」
ラナは私の背中を摩ってくれる。とても温かい。
「確かにそうだけど。でも迷惑をかけるかもしれないという思いは、心苦しいわね。いつも助けてもらうばかりで…」
馬車の小さな窓から見える景色は、世界が小さくて、私を過去に引きずり込もうとするみたいだった。
あの別塔から見た景色…
「お嬢様顔色が悪いです。目を瞑って、ゆっくり息をして下さい」
「ラナ…思い出したの、先生が来てくれる前の頃の部屋には絵本しかなくて、人がいない世界…今、アンドル王子様だったはずなのに私には、絵本の王子様が私を見て私を迎え入れてくれたかと思って…」
「大丈夫です、お嬢様。忘れて下さい、今日も過去も。ゆっくり呼吸をして楽しいことを考えましょう。もうあなた様の家族は、イズリー家です。私もあの国には二度と帰らないと思っておりますから、どうぞ過去を切り離して、楽しく過ごして下さい」
私を諭すように…
「ありがとう、ラナ」
空気の匂いが現実を感じた。
今まで気づかなかった。海の匂いが強くなった。
もうこの空気が海だ。懐かしいと感じるから過去に引きずり込まれたのかもしれない。
この地に来れてなんて幸せなんだろう…
生きている人間がいる。
優しさも温かさも心配や喜怒哀楽を、当たり前のように与えてくれるみんなにどれだけ感謝すれば良いのだろう。
私は、あの記憶とは区切りをつけなければいけない。それにはどうしたらいいのでしょう…
「うわぁ~海だね~」
切り替えるように発した言葉は、侍女達を笑顔にさせた。
こんな言葉だけで、笑顔になってくれるのだ。本当にここの人達は優しい。
どうか私という存在が迷惑にならないように。
今のまま、こんな風に私を見てくれますように。
町のあらゆる場所が風を受け、活気ある声が響く。肌につくベタつきも愛おしい。
生きている匂いがする。私は生きている。
「ハァー、お腹空いたわね~」
とりあえず、スープの事だけを考えよう。
「ラナ、まだ眠い~」
「顔も洗わずに、寝衣からワンピースに着替えただけですからね~、全くディライド様は何を考えているんでしょう?」
きっと何か情報が手に入ったのだとは思う。こんなバタバタとお義兄様はしないもの。
ガタっガタ揺れる、商会から借りている馬車に御者と侍女二人。
籠に入ったのはきっと朝食だと思うけど…
どう見てもパンのみ…
何を焦ったのかしら、お義兄様~
「あぁ~ラナ、三種の神器持ってきたかしら?」
「はい、まずマントを羽織りましょうか、そして髪を解かします」
ん、半分瞼が閉じた状態でやってもらうけど、流石に髪色の変化スプレーは、馬車内は無理だし、眼鏡もまだ顔を洗ってないからつけたくない。
「漁港は朝が早いと言いますし、何かスープでも手に入りそうですよね、お食事もその方が良いでしょうね、昨日のパンだと思いますので、固そうですから」
「ラナに任せます、もう少し寝ま~す」
揺られることどのぐらいだろう。
漁港の村で馬車は止まった。
「お嬢様、こちらの村の井戸を借りましょう。漁港に入る前に流石に色々整えたいですから」
と言われるままに馬車を降り、顔を洗い、髪色を変えた。
「では」
馬車の足掛けに足は掛かっていたし、あと30㎝頭を馬車に入れるだけだった。
馬の弾む息声が聞こえた。
瞬間だった。
そちらを見てしまった。
金色の髪がサラサラと靡いていた。エメラルド色の瞳が私を見た
…と思う。絵本の王子様だ。私は、見惚れてしまった。
慌て顔を背けて馬車内に乗りこむ。侍女達は、みんな無言でスンッとした顔をしている。私を焦らさず空気に徹するみたいに。
全員、王子に気付いただろうに、無視をして馬車を走らす。
追ってきてはいない。と御者から報告を受けラナ達は安心したようだった。
やっと表情が崩れた。
馬車内の緊張感が高かったから、私も安心はしたのに。
でも私は、胸がザワザワしている?
ドキドキしている?
この急かすようなモノがわからない。夢が叶った?私を見てくれた?絵本が私の足を掴んで、中に入れようとしている?
現実と妄想が混ざり合う。
鳴り止まない心臓の音。病気になったのかもしれない…そう思うほど音が響く。
一瞬だったの。
目が合ったなんて、わからないほどの時間なのに…あの方の表情筋が動いた気がする。笑みじゃなく驚きの!
そんな顔も出来るのですか、という何とも秘密を見てしまった気で嬉しくなった。彼が私を見てくれた?
嬉しい?何故…
私の頭が、ぐちゃぐちゃに混ざる。過去が思い出が重なる。
駄目よ、思い出しては駄目。
先生が言っていたじゃない、忘れなさいって。
辛いことも寂しかったことも、幸せになれば忘れていいって。
大丈夫、今、私は幸せで…
「お嬢様、大丈夫ですか!」
心臓の音がうるさいの…
子供の頃ずっと絵本に呼びかけていた。
ずっと同じ顔で私を見る、その絵に寂しさを誤魔化してきた。
違う顔も見せてよ。
笑ってばかりいないでよ。
願っていた、どうか私も絵本の中に入れさせて下さいと。
ここは一人で寂しいから、私もみんなの輪に入れて下さいと。
私が、入れないのなら、どうか出てきて下さいと。
そんな子供の頃の願いが叶ったみたいで、私が、絵本の王子を驚かせた、彼は私の前に現れた…嬉しい。
違う!ここは別塔じゃない!
ここは馬車の中よ。
「…ごめんなさい、ラナ。少しパニックになってしまったわ。…多分、アンドル王子様に馬車に乗り込む姿を見られたわ。必要なくてもお義兄様に報告するし、後眼鏡をもらうわ」
「大丈夫ですか?気にせずお休み下さい。すぐに私達も逃げれたと思い、遠目と判断しましたが。…やはり今の一瞬で顔まで確認出来ましたかね?
しかし、この馬車は商会の馬車。足がつくことはありません。
それにお嬢様の存在自体アンドル王子様は、ご存知ないでしょう、大丈夫ですよ、誰も追ってない。お嬢様を捕らえないです。ディライド様達の言う通り、のんびり楽しく領地を過ごせば良いんです」
ラナは私の背中を摩ってくれる。とても温かい。
「確かにそうだけど。でも迷惑をかけるかもしれないという思いは、心苦しいわね。いつも助けてもらうばかりで…」
馬車の小さな窓から見える景色は、世界が小さくて、私を過去に引きずり込もうとするみたいだった。
あの別塔から見た景色…
「お嬢様顔色が悪いです。目を瞑って、ゆっくり息をして下さい」
「ラナ…思い出したの、先生が来てくれる前の頃の部屋には絵本しかなくて、人がいない世界…今、アンドル王子様だったはずなのに私には、絵本の王子様が私を見て私を迎え入れてくれたかと思って…」
「大丈夫です、お嬢様。忘れて下さい、今日も過去も。ゆっくり呼吸をして楽しいことを考えましょう。もうあなた様の家族は、イズリー家です。私もあの国には二度と帰らないと思っておりますから、どうぞ過去を切り離して、楽しく過ごして下さい」
私を諭すように…
「ありがとう、ラナ」
空気の匂いが現実を感じた。
今まで気づかなかった。海の匂いが強くなった。
もうこの空気が海だ。懐かしいと感じるから過去に引きずり込まれたのかもしれない。
この地に来れてなんて幸せなんだろう…
生きている人間がいる。
優しさも温かさも心配や喜怒哀楽を、当たり前のように与えてくれるみんなにどれだけ感謝すれば良いのだろう。
私は、あの記憶とは区切りをつけなければいけない。それにはどうしたらいいのでしょう…
「うわぁ~海だね~」
切り替えるように発した言葉は、侍女達を笑顔にさせた。
こんな言葉だけで、笑顔になってくれるのだ。本当にここの人達は優しい。
どうか私という存在が迷惑にならないように。
今のまま、こんな風に私を見てくれますように。
町のあらゆる場所が風を受け、活気ある声が響く。肌につくベタつきも愛おしい。
生きている匂いがする。私は生きている。
「ハァー、お腹空いたわね~」
とりあえず、スープの事だけを考えよう。
62
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

【書籍化・取り下げ予定】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
さわじり
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる