今日も楽しくいきまshow!?

犬野きらり

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15 夏季休暇スタートです

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「ミランダ様~、日焼けしてしまいますって、勝手に外に出ないで下さい~」

大きな鍔がついた帽子を持って走る侍女。緑の草と日差しと海風が、夏を感じる。身体を動かしましょう、何も考えずいきましょう!

イズリー領で領主館に、牛乳やチーズを配達に来た酪農家のお宅に来ています。
凄い臭いです。
蝿も飛んでます。
牛の目は、大変可愛いです。

「ラナ~、牛よ、アッハッハッハ、くさい~、うわぁ、口を開けたわ」

そんな景色は、楽しくて面白い。
時間が、生きている。こんな夏季休暇が過ごせるなんて、お休み最高です。

「何、一人で実況しているんですか!日傘もしてください。潮風は、日焼けになりやすいのです。侍女達の準備を無駄にしないように、馬車から勝手に飛びださないで下さいよ!ミランダ様は元気すぎて、また転びそうで怖いですから」

ラナ達が、淑女らしからぬ声で話してくる。

「さぁ、乳絞りにチーズ作り、楽しみね!」

と被らされた帽子だけで十分だと思ったのに、日傘まで侍女に持たれた。
こうなると、何も出来ないじゃないの。ゆっくりな速度で歩かないといけないし、自由はない。

「もう聞いてましたか!ミランダ様、張り切ると碌な目に合わないと言っているのに~」

「うわぁ~、ラナ、牛に涎を落とされた~」

肩が一気に牛臭くなる。
これは、意外にくさくて辛い、けど、楽しい。

「はい、はい」

ラナの怒り!

それも楽しい!
閉じられた世界しか知らなかったあの頃に比べて、なんて豊かな五感の刺激だろうか!
イズリー領最高!

「明日からは宿題が先で、その後に遊びですからね!」

とラナに呆れられる。

「本当申し訳ないです、お嬢様!この牛っこは我儘でな、すぐ悪さするんだよ。だけどまだ若いから…」

牛舎の世話人が困った顔をされた。

「大丈夫よ、おじさん。怒ってないですし、処分とかそんな話はしませんよ。牛って散歩とか出来るんですか?」

「ああ、放し飼いみたいなもんで、この子は単独で彼方此方に行ってしまうからいつもロープで手綱をつけながらだよ」

「お嬢様みたいですね、人の話を聞かず、自由行動タイプ」

ラナったら、走り出したことに根に持っているわね。

「私も散歩をしたいです、よろしくお願いしまーす」

夏休みで自由で気分が上がった私には、嫌味なんて通じませんよ。

「カウボーイって知っていますか、お嬢様」

牛の世話人に聞かれた。

「いいえ」

と答えると、ロープの端を輪にして、牛の頭を目指して輪を投げる。
ロープをぐるぐる回してタイミングよく放つ技。牧草を食べた後、頭を上げる瞬間を狙う。

「えい!」

私の場合、距離はたいして出ないが、何ということでしょう…
私が投げるたび、ちょうど頭を上げてくれる。次から次へと牛が自らロープの輪を潜ってくれる…

「こりゃ、凄いな~。牛が自らお嬢様の言うこと聞いているみたいだぞ。酪農の申し子かもしれん」

「ええ~そんな~」

「お嬢様!申し子になってどうするんですか!あなたはイズリー家のお嬢様ですよ、全く、調子に乗ってどうするんですか!」

「ラナったら、私に隠れた才能があったのよ!これは即報告ね。イズリー領の冒険譚も出だしは、ミランダ酪農家の才能目覚めるで決まりね!さっきの我儘な牛さんは、あちらね」

ロープを片手に輪を作り、頭を上げるタイミングを狙う。
耳がブルっと動いた。
よし、っと投げようとぐるぐる回して放とうとしたら、靴が滑ってあらぬ方向に行ったと思ったら、人から離れたかった牛が突然、横に走り出した。

スポッ

捕まえてしまったわ。
パチパチと拍手まで聞こえた。
こんな楽しい夏休み…
ずっと続くといいな。


イズリー領の祭りの準備も始まったのは、領地で一番高い宿屋が貸切になる日だった。




義兄のディライドが手紙をバサっと叩きながらやって来た。不機嫌そうで可哀想。

「ミランダちゃん、手紙が来た。あいつらが来るよ、ハァーーー」

深い溜息を吐いた。

「お義兄様、私はもっと早くお見えになるかと思いました。10日もお義兄様を自由にさせるなんて、王宮の執務も忙しかったのではないですか?」

特に気にしない。
サイファ様がいようが、あの日を笑われたとしても。
私はぶり返し思い出した、グレゴリー様には鼻水事件があったのだ。あんなポーズなんて可愛いものだ。グレゴリー様はあの惨状の私を見ても笑わず、多分口外もしていない。
人間として大きい人だ。
誰にでも失敗はある。私は領地生活で心が豊かになった。器を広げている状態ですから、煩悩に負けず、私を優先せずにいきたい。

「ミランダちゃんは、王子達とはなるべく接触させたくない。…マリングレー王国から夜会に参加するティア王女とイズリー領で、合流して一緒に王宮に向かうと書いてある。マリングレー王国の人間とも会わないようにしたい」

マリングレー王国…大丈夫よ。関係ないわ。私は、ミランダ・イズリーよ。
一呼吸ついてから、

「そうですか、マリングレー王国のティア王女がイズリー領に入られるのですね」

「…そうだね。ミランダちゃんは、こちらの領主館も離れた方が良いと思う。私の知り合いの商人に話は通してあるから、朝一番でここより港町に移動して欲しい」

「港の方がマリングレー王国と接触してしまうのではないのですか?下港で滞在するのではありませんか?」

「いや、港からすぐに都市に、今日、宿屋に予約が入った。アンドルがいる宿屋を目指すはずだ。休憩はしないまま。まぁ、ミランダちゃんも釣りをしたいと言っていたし、髪色を変えて、眼鏡をして、外に出る時は、隠者のマントだよ!自分の身を守る為には自分でも努力をすること!」

「はい、お義兄様。変声機は使用しなくていいですか?」

「あれは、ただのおもちゃだから。あんなの持って話していたら変な子に認定されるよ」

と笑われた。
お義兄様の買ってきたマジックアイテム、おもちゃって、一体あれはいつ使うのだろうか。またお義父様に無駄金を使ってと言われそう。

そして、すぐに義兄は、執事と話に行った。私の手配に王子様達の手配、マリングレー王国の人達の警備配置かな。

領の祭りの準備の為の旗、貝殻のネックレスの準備、港町でも出来る事ばかり…

「宿題を前倒しで行ったおかげで、荷物にはならないわね、ラナありがとう」

「いえ、お嬢様。釣りも出来ますね、後、釣った魚を串にさして火に炙るでしたっけ、楽しみです」

「そう私が好きな無人島の話の船乗りが何でも串に刺して、火に炙って食べるのよね。一度体験したかったの。夢が叶うのね」

ラナは、私が馬車の中でやりたいと言っていたことを覚えてくれていた。



「お嬢様、起きてください!出発です」

朝も陽が見えた瞬間から出発するとは聞いてない!
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