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9 ダイアナ・ガトルーシー 1

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廊下を歩いていると、学校で有名なキャンキャン吠える犬が、私を威嚇していた。
間違えました。
ダイアナさんが睨んでいました。

「何故、マリアーノ様の取り巻きが、アンドル様達と関わっているのよ!」

私は、いつ取り巻きに?先程、私と仲良しと言っていたのに。

「あの今の発言は、不敬だと思います。私、伯爵令嬢ですので…」

「はあ!?あぁ~お仲間同士、ご身分を盾に、私みたいな令嬢に当たるのね、それでいいのよ!勝手に仲違いなんてしないでよ」

ええ?納得されているのかしら?推奨されているのかしら?

「何故ダイアナさんは、あの誘拐された場所で、あんなに堂々としていたのですか?」

率直に聞いた。周りに人がいないし、この人に令嬢言葉は無用かとも思って。

危機管理!とまたみんなに叱られそうだけど…好奇心には勝てない。
誘拐組織の関係者だったら…
流れてきた記憶の不気味さの正体を知りたいわ。

ダイアナさんは、一瞬顔を歪めたけど、

「まさか私だって怖かったわよ。でもミランダ様がいたから、心強かったのよ」

そんなガタガタのトーンでは、嘘だとわかります。本音は言ってはくれませんか、残念だわ。

「そうですか。もう一つ、何故私のこと不幸な事件って話すのですか?ダイアナさんに助けられ、転倒して擦り傷打ち身、痣の怪我をしましたが、二人無事に救出されていますが?」

と聞けば食いつきが良い!

「そう、それ!私も聞きたかったの。何故前に進まなかったのよ、いきなり転ぶなんてありえないじゃない!」

そこ!?

「えっ?それは…
助けてもらって苦情を言うのは、申し訳ないのですが、踏み出そうとする前にダイアナさんが思いっきり背中を押しましたよね?あれで転びましたよ」

思い出すような仕草をするダイアナさんは、とても幼い人間に感じる。

「えっ、そう。確かに思いっきり押したような記憶があるような…
ええ!?あれでなんか変わった?
いや、変わってないわよね。ただ生きているだけだし…」

「ダイアナさん?」

彼女は私の質問に答えてくれない。

「まぁいいわ。所詮あなたなんて関係ないし、いいわ、わかったわ。とりあえずマリアーノ様に迷惑かけないように取り巻きは、でしゃばらないで生きるべきよ。とにかくミランダ様わかったかしら?そんな野暮ったい眼鏡しているのだから、自分を知り控えめにいることね!」

と廊下を駆けていくダイアナさん。マリアーノ様の実はお友達だったの?
聞いたことがあるわ、喧嘩するほど仲が良いって話…

「でも、あなた男爵令嬢、私、…伯爵令嬢ですって。命令するなんて、不敬なのよね。多分多くの令嬢さん達に嫌われてしまうと思うわ。流石第一位の人」

風の勢いみたいに行ってしまった彼女を見送った。

「…この国も騒がしいのね」

空はどこまでも続いているし、風も気持ち良かった。

 *

ダイアナside

廊下を走って逃げた。
何故か探りを入れられている気が、し始めたから。
モブのくせに、前に出ているようで文句をつけたくなった。
アンドル様にも注目されていた。私は一度も応接室に招待されたことがなかったから…

「つい、関わってしまった」

関係のないところから綻びは出来るし、綴られたページは滅んでいくと思う。

私が、ここが『平凡令嬢は夢見がちな乙女です』という小説の中と気づいたのは、入学前日、アンドル様は気づいてないようだったけど、街でぶつかった時。急に何となくあらすじや内容を思い出した。

これってヒロインじゃない!?
慌て思い出せる限り書き出した。

学校の注目の的、アンドル王子、グレゴリー様、サイファ様に近づくきっかけの事件。
ウランダル王国の人攫いに巻き込まれること。
でも私一人では駄目、悪役令嬢マリアーノの取り巻きが、私の巻き添えで死なないと!

友達思いの可哀想なヒロインになれない。

問題はあらすじがわかっていても、詳細な言動や描写がわからなかった。
普通に学校生活を一週間送ってみたが、ヒロイン補正なんてなかった。
何のハプニングも非日常のきっかけも無し。

「そうよね、必ずヒロインってバタバタしているイメージがあるわ。待ってても物語は進まないなら、自分で作るしかないわ!」

とりあえず、マリアーノの取り巻きを調べ、その婚約者を誘惑してみることにした。
そこまで辿り着くために、随分と不名誉な噂話を提供する羽目になった。

「男爵令嬢って本当に使えないわ」

男女ともに貴族の身分制に、先ずは裕福な平民からの紹介システム…子爵令息までやっと辿り着いた頃には、多くの令嬢から無視や悪口、忠告という恫喝や嫌味な虐め…

「でも今はゴールのアンドル様が見えたから気にしない~、ここからどんどん虐めてもらわないと、ヒロインが出来ないし…」

だけど、悪役令嬢の取り巻きは死ぬことはなかった。
助けてあげて、御礼も言われて、きっと悪役令嬢の非道さに気づいて、心を入れ替えたのもわかる。
悪役令嬢から離れるのも…

「でも、悪役令嬢マリアーノと取り巻きミランダで、バチバチになる展開は絶対にない、おかしい」

本当に食堂で見た時は焦った。
小説が勝手に走り出し、知らない展開になると本能的にわかった。

どうにか邪魔をしなくちゃ。

悪役令嬢の視線をヒロインに持ってこないと、ガヤ入れをして、私の存在を主張したし…
本当に面倒くさい展開を作ったミランダが腹が立つ。
だから、わざわざ物申したのだけど。

「本当に、何故死なずに済んだのか気になっていたけど、まさか私が背中を押したから転んだって?ありえないけど、あれはワザと転んだとは見えなかったわ。私のせい?ってマジか。でも所詮モブ。無視して話を進めればいいのよ」

外に出る。
怒っていた分、頬が熱かった。

「風が気持ちいい」

まぁ、サイファ様と仲良しだし、あと一歩近づければアンドル様だし、まだウランドルの王女が、この国に入ってない。

「まだアンドル様との時期じゃないってことね、じっくりといかなきゃ、あんな風に力を込めないように注意しなきゃ…」

男爵家の簡素な馬車があった。

「まぁ、お兄様、自ら御者って!みっともないわ」

「何だよ、気持ち悪いな。いつも通り、お兄ちゃんって呼べよ。ダイアナ、学校に行って変わったぞ。気持ち悪い方にな」

と笑って言われた。

「貴族だらけですから、注意されるの!」

「俺は、そんなの意識しなかったけどな、この学校には平民だって多くいる。高望みばかりするなよ…最近金遣いが荒いと父さんもボヤいているよ」

「うるさい、驚くほど取り戻して見せるからね」

シートは捲れ、座り心地の悪い中スカートを直して座った。

 …
ふと思った。

あの子爵令息の婚約者ってミランダだっけ?
令嬢の顔も名前も覚えてはない。
ただのターゲットとしてしか。

「そうだっけ?でも人攫いにあったし、内容は一緒だったわよね…」

馬車の中でその疑問は静かに消えた。
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