上 下
22 / 25

22 約束ではない約束叶う

しおりを挟む
「流石攻略対象者ですわ、なら私は、ヒロインポジション!?ウッゲ?」

ゲホッゲホッとむせた。
ない、ない、と否定する。

「何だ?さっきからブツブツと言って。わかる言葉で話せ!心がうるさい!」

言い方!元に戻っている

「いえ、こちらの話です。私は驚いただけです。何故こちらに来たのですか?」

一旦落ち着こう。

「ああ、もうすぐ学園が始まるな。俺達三年の生徒会は、次の役員を推薦するシステムなんだ。どうだ、リディア嬢、生徒会をやらないか?」

グレリュード様が、わざわざそんな話のために領地に来たの?
来週でも良いのではないのかしら?

「申し訳ございません。私は、その、人の為にというよりも自分の為に時間を使いたいのです。今回も、村人の相談事を解決出来なくて、困って執事に投げ出したぐらいなんです。生徒会には、真面目で几帳面な方が、良いと思います」

と言えば、すぐにそうだなと引いた。断られる前提で来たの?何なの一体!
と思って彼が乗ってきた馬に、良い生地のブランケットが括られていた。

もしかして!?

「あ、グレリュード様、私、サマーパーティーで大活躍しましたよね?夏季休暇の過ごし方で、領地の勉強ばかりで、まだ遠乗りに行っておりませんの。もしよろしければ、お付き合いくださらない?我が家の執事が厳しいので、友達が来ないとサボらせてくれませんのよ」

笑顔で誘う。

「…まぁ、いい。」

微妙な聞こえる声で、「サボってばかりでしたよね」と執事の否定的な声が聞こえた。が、無視、空気が読めないから、マーティンは領地に飛ばされたんじゃないの?

「では、行きましょう。食事や飲み物は現地調達で!」

「は?君は大丈夫なのか?仮にも令嬢だろう?」

「仮じゃなくて令嬢ですけど。遠乗りに荷物は邪魔じゃないですか、それに現地にお金を落とすのが、貴族でしょう?」

と言えば、

「確かに、そうだが」

「さぁさぁ、私の馬も連れて来てください。その間にさっさと着替えてきますから」

あ、言葉伸ばさなかった、ヒロイン失格じゃない!

〰︎

「さぁ行きましょう。森林浴に川の下流、小高い丘、良い場所がありますよ」

と言うとグレリュード様は、笑い出した。
「好きな所で」

と言われたので川の下流にした。

「ほらこの村で、水を買っていきますよ」

私は、ストーカーをすることには、慣れているけど、私自身を観察されることには慣れていないのだ。グレリュード様の視線がうるさい。

「ああ、これがうるさいですか、体験するとよくわかります」

「何が?」

「グレリュード様の私を観察する視線がうるさかったもので。よくグレリュード様が言うでしょう、存在がうるさい、気配がうるさい、声がうるさい、今日は心がうるさいでしたね」

「…そんな酷い、失礼な、ことばかり言ってない」

えっ?忘れているの?
記憶喪失疑うぐらいだわ、あなたの口癖よ。

「本気で言ってますか?一度生徒会のメンバーに聞いてみてください。もしかして私限定語録?」

何故か凄い困った顔をされたわ。無意識って怖っ、私が悪いこと言ったみたいになるじゃない?

「大丈夫ですか?」

と聞くと、

「わからない。リディア嬢を観察しているつもりはなかった。無意識だ。悪かった」

「ああ、大丈夫です。私も気にしてすぐ口に出してしまい、すみません。もうすぐ着きますよ」

「その、言葉が、キツい言い方になってしまい、悪かった」

おい、どうした?(再)

謝ってきた。気にしているようだ。
『うるさい』が口癖なこと?私に言ったこと?
どっち?まぁいいか。私を見てくれているんだから。それに優しい。

「はい!」

と言えば、ホッとしたように笑ってきた。別にうるさいと言われて、悲しかったり、怒ったりしてないのだけど…

浅い川には、子供達が釣りをしたり、石投げや石積みをしたり、少し離れたところには、組み木の周りに釣った魚を焼いていた。

「村の子供や年寄りの憩いの場か」

「はい!釣り竿借りましょう。魚は捌いて焼いてくれますよ、あそこにいるお婆が」

二人で釣りをやる。
せっかく来てくれたなら、面白話や盛り上がる話題を提供しようと試みたものの、グレリュード様が話す気がないのか、無言で楽しそうに釣り竿を振ったり動かしているので、私も黙った。

「おい、貴族様、竿動かしすぎ、ここの魚はみんな頭がいいから、餌だけやられるよ」

と子供に言われては、「あ、やられた」を繰り返している。可愛い。
最後の最後に夏季休暇のお楽しみをくれた神様に感謝だわ。
まさか、夏季休暇分に稼いだ徳を今日放出しちゃったり!?
それはちょっと、だけどこんな日が来たことは、凄く驚いたし幸せだからいいか。
領地から帰ったら、友達とお茶会だし、また自慢からの自慢ね、またしても私の一人勝ち。

「リディア嬢、うるさい!」

「はい!」

と言えば、慌ててグレリュード様は口を押さえていた。今、気づいたらしい。野生勘はあるのに鈍感って変なの~

「怒ってないですよ」

「…何でだ。言い方がキツいとよく言われる。不愉快だろう」

「少し…も不愉快じゃありません。むしろ嬉しい?」

「怖い」

引いてるようだ。

「でも私の返事で、怖かったとか困ったとか、悲しいとか感じましたか?」

「いや、感じない」

「それが答えです。一言でも頂けたことが嬉しいし、喜びです。違うかな、気にしてもらっているとか気に留めてもらっているみたいな、私を感じていてくれているから嬉しい?」

グレリュード様に聞いてしまった。
目をパチクリする顔までもかっこいい。
ある意味罪な男だ。
弟分の男に、盲目的な信仰をされるぐらい好かれて(暴走)
王子様の婚約者候補の筆頭の令嬢に、熱烈に好かれて(暴走)

そして、今度は…

元ストーカーをした可愛いくて、可憐で、スタイルはこれからに期待大の光り輝く純粋な乙女(冷静)を


落としにかかっている伯爵令息嫡男だ。

「なんて罪な…」

「またなんかごちゃごちゃと頭の中か心で言っているだろう。ちゃんと言葉にしろ!」

「いえ、それはちょっと、純粋な乙女は、夢見る令嬢ってことで」

「ハァーー、まぁいい。今日俺が来た理由は、セルジオが学園をやめて、隣国のドルタンに行く。親父さんの商会の伝手でドルタンの商会の丁稚からの出発だ。で、あいつからの伝言。俺は何も諦めてない糞女だそうだ。本当にすまない」

なーんだ。
セルジオのことを伝えに来たのか。
すっかり、夏季休暇の誘われデートだと思っていたよ。
なーんだ。

「セルジオさんですか、すっかり忘れてました。確かにパーティー後では話題に上がりましたがガルドニ領では、誰も知りませんし」

「そうか、気にしてないなら、いい。そして、アンネリーネ嬢は、正式にトリスタン王子の婚約者を降りた。現在何をしているかとか学園に来るのかとかは知らない」

そっちもどうでもいい。
アンネリーネ様の一団は解散ってことなら、嬉しい情報だけど。
あれだけ知れ渡った情報は、アンネリーネ様をこれからも苦しめるだろう。

私の話でさえ中々記憶は消えないのだから。
私が浮かれているけど、冷静でいられるのは、グレリュード様の事を調査済みだからだ。

「パーティー後にトリスタン王子様にコンドール公爵家は切ると言う話はされましたが、アンネリーネ様のことは、何をしているかは知りませんね。そう言えば、グレリュード様を学園入学前に街で見かけた事があるんですよ、フードをしっかり被って髪色まで変えていたのは、尾行されていたからなんですね。盗人を倒してくれたはいいけど、そのまま放置していくから、後の始末、私がやったんですのよ。覚えてはおられないでしょうが」

「金色の髪をなびかせて、赤いリボンをつけた町娘を装った貴族令嬢だったな。あれでは変装にもなってない!あんな目立てば狙って」

ええーーーーーー
何それ!?覚えて

「あ、お貴族様危ない!」

(お約束はいらないのにーーー)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

聖女である御姉様は男性に抱かれたら普通の女になりますよね? だから、その婚約者をわたしに下さいな。

星ふくろう
恋愛
 公爵家令嬢クローディアは聖女である。  神様が誰かはどうだっていい。  聖女は処女が原則だ。  なら、婚約者要りませんよね?  正妻の娘である妹がそう言いだした時、婚約者であるこの国の王子マクシミリアンもそれに賛同する。  狂った家族に婚約者なんか要らないわ‥‥‥  クローディアは、自分の神である氷の精霊王にある願いをするのだった。  他の投稿サイトにも掲載しています。

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...