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19 ダンスの後はお約束

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「トリスタン王子様とアンネリーネ様、素敵ね、お似合いの二人だわ」

「お二人とも衣装が豪華ね。学園のパーティーなのに宝石が、散りばめられているわ」

とあちこちから声が聞こえてくる。確かに美男美女。
衣装も豪華、光輝いている。ご本人達に宝石に…
ただ残念だけど、楽しくなさそう。
笑顔で目線も合わせているのに、楽しくないって思わせるなんて、凄い器用な方達だわ。アンネリーネ様は、グレリュード様にパートナーを務めてもらいたかったんだものね。
ごめんね、奪っちゃって、えへっ。
一度は言ってみたい台詞を、心で昇華しました。

「…うるさいぞ」

「凄い、もしかして、私の心の声聞こえますか?」

と聞くと、まさか心と心が通じているという運命の恋!?

「表情や雰囲気にドヤって感じが出てる」

「まぁ!」

それは失礼、今日は嬉しくて楽しいから、明日から大人しくするから許してね。

「一緒に、踊ってくれますか?」

グレリュード様がきちんとダンスに誘ってくれた。紳士的に!どうした(再)?

「はい!」

8組の男女がホールに出た。
会場は広くて踊りやすい。注目がまた集まって…クロエも気づいて見てくれた。
これなら、パートナーが決まっていなくても、新しいドレスを購入すべきだった。

「何故髪を下ろさなかった?いや、これは、下ろしているようなものか…クルクル動く」

「ふふ、以前、私の髪は、目がチカチカするって言われましたので、パーティー会場は、照明も多いですし、この明るい髪に反射しますから、一応巻き髪で軽減したと思っていたのですが」

「またドヤ顔になった。ニヤニヤかドヤ顔の行ったり来たりだな。今もリディア嬢の髪はキラキラしている…な。
それで、準備中、あの使用人が怪しいとわかったのは、ジュースの瓶の入れ替えで目を向けたからか?」

「ん?あの使用人は、無駄に他人の視線を気にして随分と顔が動いていたので」

「意外だな、大した観察眼だ」

元ストーカーの目、とは言えない。

「はい!」

と誤魔化す、私、侯爵令嬢だから。今なら、とても大事なことを聞ける気がした。

「あの、グレリュード様はキーファ伯爵家の嫡男なんですか?」

家族構成聞きたかったのに、すごい直接的な聞き方しちゃったよ。

「あぁ、養子だ」

養子ということは、後継者の為の縁組かな。
残念。

「知りませんでした」

グレリュード様のことを調べていないから何も知らない。ヒロインの攻略対象者としてしか気にしてはいなかったし。私の婚約対象でもなかったし。

…そっか。残念。

曲が終わって生徒会の人達が捌ける。
こんな話をしたかったわけじゃなくて、ただ自慢したくて楽しみたくて。
何故、自分基準の婚約者探ししているのよ、私は!
最初から、彼は違うのに。
グレリュード様と…
きっともうパートナーになれないし、もちろん今回だって成り行きだったし。

「グレリュード様、お忙しいのはわかっておりますが、もう一曲お相手していただけないでしょか?き、記念に!」

ちゃんとパートナーの気分を味わいたい。

「ああ、そうだな。初めてのサマーパーティーだな、新入生」

「はい!」

色々あったけど楽しみたい。自慢だけじゃなくて、私も彼のパートナーとして思い出に残れるような素敵な印象を持ってもらいたい。
グレリュード様とのダンスに集中した。作り笑顔もいらないし、和ませる義務トークもいらない。
一対一で…嬉しい、楽しいを伝えるように。大満足だった。自然と追加でもう一曲踊ってくれた。

「ありがとうございました。思い出になりました。生徒会の仕事もございましょう。私は少しあちらで休みますね」

と飲み物のある方角を見る。

「…確認したら戻る」

彼の背中を見送って、私は飲み物を持って壁に移動する。楽しかったな。意外に優しいし。あんなに嫌だったパーティーなのに、私ったら喜んでいる。

飲み物を飲みながら、ふと考える。何故お酒にしたのだろう?

酔ってしまう
揉め事になる
規則違反として問題になる

パーティーは潰す気は無くて、指示者はアンネリーネ様の名前が重要で、彼女は、婚約者候補を降りたかったから…
彼女が首謀者と判明すれば、王子の婚約者として不適合者、非難は避けられない。

指示者に乗っかったのか。

アンネリーネ様は馬鹿なの!?いくら唆されても、普通考えるはず。親に降りたいって言いなよ。

それぐらいグレリュード様を自分だけの物にしたかったと…か、叶ってないじゃない、恋は盲目じゃない、これは暴走、自分勝手
理解不能。
…相談してくれたら良かったのに…

キラキラの王子がこちらに歩いてきた。あ、目が合った。青い瞳は穏やかに見えるのに、悪い顔に見えた。

完全に巻き込まれた~

今すぐルーナさん、来てー

「まさか続けて三曲も踊るとは、思わなかったかな。リディア嬢、君をダンスに誘いたかったよ。アンネリーネがグレリュードを誘いたがっているようにね」

ご存知ですか。そりゃそうだ。生徒会の人達もご存知ですからね。

「まぁ~、トリスタン王子様、こんな壁側に来られるなんて驚きました。やはりキラキラしていますね、王子様は中央で輝くものですよ」

と思わず、追い払う言葉を使った。だって注目されているんだもの。嫌だよ、グレリュード様の件があるのに、明日から通学出来なくなりそう。

「いやぁ、少し踊り疲れてね。飲み物片手に休憩かな」

今、あなたの場所は中央と言ったのに。

「トリスタン王子様、人気者は辛いですね。王子様が、飲み物を飲み切るタイミングを、女子生徒達が狙ってます。私もかなり睨まれてます。新入生には、この状況キツいですね。それにダンスを申し込みたくてウズウズしている数を全部捌ききるとなると…残りの時間も少なそうですね」

早く行けと言葉を変えながら、続ける。チラッと見れば一団が移動中。顔を下に向けて、

「あらー、やっぱりアンネリーネ様とお友達が来てしまいました。もしかしていじめられていまうかもー。怖いなー。困ったなー」

「ハハハ、パーティーだよ、人目があるし優しい女性達さ、大丈夫だよ」

どこが?王子、私を生贄にしたな。

「まぁ…で大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ」

本当に?今、言ったよね?

「ご機嫌よう、リディア様。ダンス素敵だったわよ。元婚約者様と踊るよりずっとね」

「アンネリーネ様、ご機嫌よう。ありがとうございます。トリスタン王子様とのダンス素敵でした。光輝いておりましたわ」

「元婚約者が男爵令嬢に浮気したのって、実はリディア様も浮気なさっていたからじゃないの」

あぁ~面倒くさい。王子助けてよという視線を送るが、にこりと笑う。そういうこと!

「まぁ!」

「あなた慰謝料を沢山もらったのでしょう」

「まぁ」

「確かあの件もグレリュード様がウィルソン様とルーナさんを捕まえたのよね。本当は、あなたコソコソ手を出していたのね、私のグレリュード様に!」

「まぁ!」

「…さっきから、「まぁ」しか言ってないじゃない、なんなの、馬鹿にしているの?」

会場中が大注目!!アンネリーネ様の…失言を。

「トリスタン王子様が、優しい女性達だから「まぁ」と言う言葉で、大丈夫だと仰ったので。ですよねトリスタン王子様?」

「そうだったかな?あ、そんな会話は確かにしたかな…それよりアンネリーネ、今の会話…残念だよ」

と言って王子は、飲み物が空になったことをアピールして、その場を去った。一団は、今急速に広がる噂話をどうしたらいいのか分からず、知らないと言って慌てている。
アンネリーネ様は睨んでいたが、フッと表情が切れて何も言わずに会場から出て行った。

…事が起きずに失言で、望む結果になったなら良かったのではないかしら?
私、今回凄徳ポイントもらっていいんじゃないのかしら?

候補なんて宣言して降りれば良いじゃなーい。
どうしてそれが出来なかったんだろう?人の策や他人を巻き込んで、自分だけじゃなく傷つけて。
私から見たら、馬鹿だと思うけど本人は、至って真面目にどうしようもなかったんだろうな。

これを恋と言うには、歪すぎる。
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