馬酔

とくる

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そんな事があってから数週間。今も花瓶で静かに咲いているこの花の差出人は、今もなお行方不明だ。
この間散り始めたと思った桜はすっかり新緑に覆われ、ただただ春の風になびいている。
彼女が去った翌々日、我が家に警察が来た。知らぬ間に何かやらかしたか、とソワソワしたのだけれど、ただ彼女が行方不明になったという事だけを淡々と告げた。最後に訪れたのが私の家らしく、何があったか、どんなことを話したか、と、ひたすら質問責めをされた。でも思い当たることはその花を渡された時の出来事しか無いし、そもそも当事者間で理解しあえてない事について第三者が理解できるはずもなく、警察の人は首を傾げたまま帰っていった。
もちろんその友人の母親からも連絡があった…というか、「何か情報は無いか」と鬼気迫る勢いで問いただされた。しかし、言えることはこの渡された謎の花の存在の事だけで、もっと言えば他に何も言えなかった。言えるはずもなかった。そう必死に弁解し、なんとか電話を切った。

以前からかなり謎めいたところはあったものの、あの友人は金銭管理も、人付き合いもしっかりしている。もう6年以上にもわたって交友関係を築いているであろう自分でも、突然失踪する理由が全くと言っていいほど思いつかない。
おそらくその謎めいた部分に理由が隠されているであろうことは分かるのだが、それ以上が分からない。
まるで、人生の二周目かのような。一言で言えば、そんな価値観や世界観をもつ人だった。
かつて、一度だけ、彼女の世界観を語られたことはあった。だがしかし、当時の私には全く理解ができず、曖昧な相槌を打つことしかできなかった。今となっては全く覚えていないし、断片的に覚えている内容でさえ理解に至れない。それぐらい、ピンとこない世界だった。

今も淡々と咲いているその花の名前は、いくら調べようとピンと来るものはない。
どうやらかなりマイナーな花らしく、今度植物図鑑でも買ってこようかと思う程。
やっぱり鈴蘭のように見えるのだけれど、色々違うところが多い。花は枝についているし、鈴蘭とは多分違うのだと思う。
この花が何なのか分かれば、あの差出人の行方も分かるんだろうか。わからないが、多少手掛かりは掴めるだろう。なんとなく、そんな気がする。
一人暮らしの質素な部屋に咲く、僅かに華やかさを纏った花にまた頭を抱えた。
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