薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない

宮永レン

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第十章

4.(※)執愛の溺夜(1)

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 深紅から純白までさまざまな色の花弁が湯船の上に浮かんでいた。さらには薔薇から精製された香油を垂らしてあるので、さながら湯に浸かりながら薔薇園の中心にいるかのような錯覚をおぼえる。



 まだ舞踏会の演奏が耳に残っている。煌めくシャンデリア、心弾むダンスに愛しい人の笑顔、つないだ手の温もり、耳元で囁かれる愛の言葉、それらを思い出してアルエットはうっとりとため息を零した。



 うつむき加減の潤んだエメラルドに長い睫毛の影が落ち、頬はほんのりと染まっている。湯から出ている素肌は艶めき、張りのある二つの乳房は桃色に色づいていた。



 湯浴みを手伝っていた侍女たちでさえ、顔を赤くしてしまうほどの匂い立つ色気に、本人は全くの無自覚だった。

「アルエットさま、そろそろ上がりませんとお風邪を召されますよ」

 ジゼルに促され、ついと目線を上げたアルエットは「そうね。あんまりにも素敵なお湯だったから見惚れてしまって」と言って湯から出る。



「明日の朝はゆっくり起こしにまいりますね」

 同性でさえときめかせてしまう色気をまとった彼女に、フェザンが気づかないはずがないだろうとジゼルたちは予想し、にっこりと笑った。



「ありがとう、でもいつも通りでかまわないわ。おやすみなさい」

 何も気づかず無邪気な笑顔を浮かべたアルエットは、髪や体を拭いてもらい、夜の支度を終えるといつも通り寝室に向かった。



 ベッドに上がるとちょうどフェザンも自室の方から姿を現し、抱き寄せられて唇を重ね合った。そのままゆっくりと押し倒され、口づけが深くなる。



「ん……ふぁ……っ」

 ぎゅっと掌を合わせて指が絡められる。アルエットよりも大きくて力強い手は軍人らしい逞しさがあった。

 キスは何度も交わしているはずなのに、一度も同じだと思ったことはなく、触れる度に幸せが塗り重ねられていく。



「は……んん……」

 優しく撫でるように角度を変えて繰り返される愛撫に酔いしれ、甘美な眩暈に何も考えられない。

 吐息に熱が帯びて、体から力が抜ける。そこにぬるりと入ってきた舌が口腔を掻き回した。



「あ……ふぅ……」

 感じやすい舌を擦り合わせられ、さらには舌の根を強く吸われて腰が跳ねる。



 フェザンのキスは優しくもあり、時には大胆で強引にアルエットを追い詰める。それが彼女には嬉しかった。全てをさらけ出してくれているみたいで、その胸の中に飛び込んでも許されるのは自分だけなのだと思わされる。



 誰にも渡したくない。誰の方も向いてほしくない。



 なんてわがままな人間になってしまったのだろうと、アルエットは時々自分が怖くなる。それを伝えたら嫌われてしまいそうで、言葉にできない。



「アルエット。今夜は俺のために立ち上がってくれてありがとう」

 甘い光を宿した瞳に見下ろされ、すでにキスだけで多幸感に浸っていたアルエットは小さく首を横に振った。



「当たり前のことをしただけ。誰にもあなたを傷つけさせない」



「アルエット……」

 フェザンは手を解くとアルエットを抱き起こした。



「今でも体で痛む所はあるのか?」

 そう問われて、アルエットは反射的に両手をぎゅっと握りしめる。



「いいえ、もう大丈夫」

 思い出したのは、あの舞踏会の一瞬だけだ。



「二度と嫌な記憶が蘇らないように……」

 握った手を開かれて、フェザンの柔らかなキスが掌に落とされた。右と左に、それぞれ指先にも唇が触れる。



「これからは俺の口づけを思い出してくれ」



「フェザン……」

 胸がきゅうっと切なく疼いた。翡翠の双眸が潤む。



「他の場所は?」



「……背中」

 後ろを向いて、と言われてアルエットは背を向けた。



 夜着の紐を解かれて、肩口が露わになり、するりと肌を滑り落ちてシルクがシーツの上に広がった。



「愛している」

 髪の毛を前に垂らされて、背中が露わになるのがわかる。そこに、ちゅっと音がして温かな唇が触れた。



 何か所も丁寧にキスが落とされて、アルエットは小さく嘆息した。



 優しい口づけは嬉しい、それなのにそれがじれったく感じられてしまう。早くいつものようにきつく吸い上げてほしい。愛されている証が欲しい。



 考えただけでぞくぞくと肌が粟立ち、秘所から蕩け出た愛蜜がシーツを濡らした。



「フェザン……お願い、もう大丈夫、だから」



「本当にここで終わりか? もし、俺が傷痕を見つけたらアルエットは婚約者に嘘をついたことになるがいいか?」



 なんて意地悪な質問だろうと思ったが、あとで黙っていたことを知られる方がこわい。



「お、お尻と、太腿……でも、全然痛くないから。平気だから」

 顔を赤くしながら答えると、フェザンの手が肩に置かれた。



「このままベッドに手をついて四つん這いになってくれ」

 どろりと蕩けるような甘い声で囁かれ、降参したアルエットは言われるがままの体勢を取る。腰の辺りでもたついていた夜着を引き下ろされると、下着を身に着けていない体は余すところなく彼の視界に晒された。



「雪のように真っ白な肌だ。美しい」

 掌で双丘を撫でられ、ひくひくと蜜口が疼いた。堪え切れずに溢れた愛蜜が内腿を濡らしていく。



「……はっ、ん、ん……」

 柔らかな口づけが与えられる度に、喉の奥から甘い声が忍び漏れる。体の奥にたまった熱が逃げ場を求めてきゅんきゅんと震えた。



「やぁ……フェザン……もう、おしまいっ」

 太腿の裏に執拗に口づけが落とされ、アルエットはがくりと上半身をシーツに落とした。潤んだ瞳から溢れた涙が枕に吸い込まれていく。



「君が今まで受けた傷を思えば、まだまだ足りないが、キスだけでこんなに綻んでしまっては、こちらの方がつらそうだな」

 背中を仰け反らせ、高く上げた双丘を両手でつかまれ、指で秘所を広げられる。くちゅっと粘った音がしてアルエットは耳まで真っ赤になった。



「そんなに見ちゃ、だめぇ……」



「では触れるのはいいのだな」

 ぬるりと温かなものが秘所に触れた。咲き切った淫靡な花弁に零れた蜜を舐め取られ、鮮烈な愉悦にくらくらと眩暈がする。



「や……ぁあ……あん」



 ぬちゅりと蜜口に入った舌先が媚肉を掻き回した。



「ふぁぁ……っ」

 浅い所を舐められ、とめどなく湧き出る愛蜜をじゅるじゅると音を立てて吸われると、思考が真っ白に攫われて指先まで痺れて感覚がなくなりそうだ。



「感じやすくてかわいい、俺だけのアルエット」

 微かな笑い声でさえ、アルエットの官能を昂らせる。



 もう一押しで絶頂を極めるというところで、フェザンが口づけをやめてしまった。
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