薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない

宮永レン

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第四章

3.(※)希望の光

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「あ……はぁっ、あぁ……」



 何度も交わったことがあるのに、まるで初めてのような緊張感がある。自分から彼を求めるのと、彼の方から欲しいものを与えられるのとでは、こうも差があるのかとアルエットは身を震わせた。



 震える太腿から崩れ落ちるように腰を落とすと、圧倒的な質量で隘路が埋め尽くされ、体中の力まで抜けてしまいそうになる。



「リエルが気持ちいいと思うように動いていいんだぞ」



「そんな……恥ずかしいこと――あぁっ!」



 頬を赤く染めて身じろぎすると、突然剛直に最奥を穿たれた。



「もっとリエルの乱れた姿を見せてくれ」



「あっ……あ、あっあっ……っ」



 蜜襞は上下に激しく擦られ、膨らんだ先端が蜜壺を深くまで押し上げてくる。粟立つような愉悦が全身をめぐって、高揚感に包まれた。逞しい熱杭の形に押し拡げられた隘路はたっぷりと潤い、結合部から蜜が溢れていく。



「あぁ……ああっ……」



 もう二度とセヴランには会えないかもしれない。きっとその可能性の方が高い。アルエットはもう縁談が決まってしまった。たとえ、セヴランが別の国の地位の高い人間だったとしても、婚姻が決まっている王族から横取りするような非常識なことはできないだろう。それこそ国益を損ねる行為だ。



 これが愛する人と過ごす最後の時間。



 セヴランに絶頂へと導かれながら、アルエットは知らず知らずのうちに自ら腰を動かしていた。動く度にたぷたぷと乳房が大きく揺れるのが恥ずかしかったが、セヴランがそうしてほしいというなら、なんでもしたかった。



「リエル。泣かなくていい」



 繋がったまま、アルエットの腰を抱いたセヴランが起き上がって目隠しのスカーフを外してくれた。それから頬を濡らしていた涙を指で拭う。



「セヴラン……」



「少し、離れるだけだ。俺の心はリエルのものだから」



 そう言ってセヴランはアルエットを抱き寄せ、温もりを分け合うとあやすように優しく口づけた。



「私だって……セヴランだけなの」



 再び重なるキスは交わすたびに熱を帯びて、深くなっていく。頭や肩、背中を大きな掌で撫でられ、アルエットも彼の背中に腕を回した。



「ん……ふぁ……っあ」



 柔らかな胸をこねながら、剛直で突き上げてきたセヴランの肩にしなだれたアルエットは甘く啼き、彼の肌に爪を立てる。



「リエルの中、熱くて蕩けてしまいそうだ」



「セヴランがこんな風にしたのよ……」



「もっと味わいたい」



 ぐっと肩を掴まれ、ベッドに押し倒される。その勢いで剛直が最奥を穿ち、不意打ちの愉悦に瞬間的に高みに達してしまった。



「ああぁ……っ!」



 背中を弓なりに仰け反らせ、びくびくとわなないた蜜襞が熱杭にきつく絡みつく。



「く……っ、リエル、まだ、もっと気持ちよくしてやる」



 眉を寄せて嘆息したセヴランはアルエットの両脚を抱えるようにして肩に乗せると、剛直を引き抜いて一気に最奥へ押し戻した。



 ずんと激しい衝撃が頭の先まで伝わって、アルエットの目の前に星がちかちかと飛ぶ。



「やぁ……っ、待って……今、達ったばかりなの……これ以上は……っ」



 くらくらと心地良い眩暈に包まれ、蜜壺はまだ敏感に打ち震えている。そこに新たな愉悦が送り込まれると、体が官能の波で溺れてしまい、おかしくなってしまいそうだった。



「だめ……っあぁ……ん、セヴラン……っ、や……あぁっ」



 逃げられないようにしっかりと体を押さえられ、セヴランに支配されている。離してほしいのに、体から沸き起こる官能の波に抗えない。



「奥……っすごい、届いて……あぁっ、もう……っ」



 与えられる甘い衝動に感情が追いつかず、アルエットは涙を溢れさせながら喜悦の声を上げた。



「達ってばかりだな、リエルは。俺も、もう限界だ」



 アルエットの脚をベッドに下ろしたセヴランが獰猛な獣のように激しく動く。



「あっあぁ……こわれちゃう……っ、セヴラン……っ、ああぁぁっ……」



 もう何も考えられなかった。気持ちよすぎて、ただ目の前にいる隻眼の青年にすべてを貪られている多幸感に包まれて、頭の中が光で満たされていく。



「く……っ、リエル……っ」



 セヴランが低く呻いて、自身を引き抜くとアルエットの下腹部に吐精した。熱い子種を一滴残らず吐き出した彼は、リエルに体を重ねると深く口づけてきた。



「ん、ふぁ……はぁ、はぁ……っ」



 舌を絡め合うと、しなやかに扱かれてアルエットは恍惚とした表情で彼の背中に手を回す。これが最後のキスかと思うと離れがたかった。



(セヴランも私と同じ気持ちでいてくれている……?)



 アルエットは彼の絹糸のような黒髪に指をさし込み、さらさらと撫でる。清涼なフレグランスと男性らしい野性的な香りが混じった胸の中に包まれて、アルエットは大きく息を吸い込んだ。



「大好きよ、セヴラン……」



 囁くように伝えると、セヴランがふっと笑った。



「本当にリエルはたまらなくかわいい」



 そう言ってセヴランはアルエットの蜜口に再び剛直を埋めた。



「セヴランっ?」



 アルエットはぎょっとした。たった今果てたはずの彼の剛直はまだ熱を失っておらず、質量も保ったままだったからだ。



「ね……待っ……ぁあっ、だめ、感じ過ぎて変になっちゃう……っ」



「リエルがかわいいから仕方がない」



 まるで理由になっていない。最奥に丸みを帯びた先端をぐりぐりと力強く押しつけられ、かき混ぜるように穿たれる。蜜洞は際限なく潤い、溢れた蜜がじゅぷじゅぷと猥雑な音を立ててシーツに飛び散った。



「あぁん……やっ、あっ……あぁっ……」



 何度目かの絶頂に押し上げられ、アルエットの意識が途切れかける。



「愛している、リエル……っ」



 余裕のないかすれた声で名前を呼ばれると、それだけで胸が切なく疼き、すべて捧げてもいいという気持ちになってしまう。



 ――この人になら、壊されてもいい。



 時間が経つのも忘れて、アルエットはセヴランの飛沫をその身に何度も浴びた。夢か現実かわからなくなるほど激しく愛されて、気づいた時には部屋は沈みかけの夕陽の暗い色に照らされ、かろうじてセヴランの顔が見えていた。



「目が覚めたか、リエル」



 瞬きをして頭を動かすと、すでにセヴランは服を着てベッドの端に腰かけていた。アルエットはシーツにくるまったまま彼を見上げて小さく頷く。



「無理をさせてすまなかった。起きられるか? 服はそこにある」



 自分もセヴランがほしかったのだから、謝らなくてもいいのに。

 そう言おうとしたが嬌声を上げ続けたせいか喉がカラカラになってうまくしゃべれなかったので、ゆっくりと起き上がり、足元のお仕着せを手に取った。



 眠ってしまった間に体は綺麗に拭かれていたようだ。ただ体のあちこちにセヴランがつけた口づけの跡が散りばめられていて、頬が熱くなる。



 お仕着せを着たアルエットの手を取り、セヴランが窓辺に歩み寄る。



「リエルにこれを見せたくて」



 窓を開け、ベランダに出たアルエットの目に、いくつもの光が飛び込んできた。



「これは……なんて綺麗なの」



 広い庭園の木々にランタンが取り付けられていて、その一つ一つがまばゆく揺れている。無数の光はまるでその木に咲いた花のようだ。



「実は今日は俺の誕生日なんだ。祖国には誕生日に希望の光で祝うという習わしがあって、毎年、光の数を一つ一つ増やしていく。今年の俺にとっての光はリエル、君だな」



 隣に立つセヴランが肩を抱き寄せてくれ、髪の毛にそっと口づけを落とされる。



「お、お誕生日おめでとう……。私が希望の光だなんて……」



「本当だ。俺の未来を照らしてくれる大切な光。少しだけ待っていてくれ。必ず迎えに行くから」



「セヴラン……」



 見つめ合った二人はどちらからともなく唇を重ねた。

 どうにもならない現実が待ち受けていたとしても、ここでの幸せな記憶があればきっと耐えられる。



 セヴランはアルエットにとっても希望の光だ。

 きっぱりと別れを告げるつもりだったのに、セヴランの言葉でアルエットは前向きにエグマリン国へ帰国する決心がついた。



 不可能な約束かもしれない。住んでいる国も知らない、まして本当の名前も知らない。そんな人間をこの広い世界でどうやって見つけるというのだろう。だが、セヴランが言うと本当にできそうな気がするから不思議だ。



「あなたが迎えに来てくれるなら、私、他には何もいらないわ」



「離れていても、心はそばにいる」



 そう言ってアルエットの前に片膝をついたセヴランはそっと彼女の左手を取り、薬指に口づけた。



「光に誓って、君を一生大切にする」



「……ありがとう。あの、これを」



 アルエットはポケットに入れていた水色のリボンを取り出すとセヴランに手渡した。



「これは君の母親の大切な形見ではないのか?」



「次に会えるまで、持っていてほしいの」



 それはほんの願掛けのようなものだった。



 この世に生きていてもいいと思える証。だが、今はセヴランの存在がアルエットの支えだった。



「わかった。必ず返すから」



 再び、温かなキスを交わす。



 夢のような時間は名頃惜しいがあっという間に過ぎて、アルエットは自身の別荘へと戻った。



 

 そして翌日、彼女を乗せた馬車は予定通りエグマリン国へと向けて出発したのだった。



 



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